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第三話

 そして、長い長い溜息の後、ぜりーみたいな赤くてぷるぷるした美味しそうな唇が開いた。


「頭の悪いお前に分かりやすく話してやるから、よく聞いとけ」


 聡明な声が、冷たさをたっぷり含まれていた。

 可愛い顔に、厳しい口調。ツンデレというやつか。

 全く訳が分からないまま、ぼんやりと彼女の言葉を聞くというより、感じていた。


「まず、お前の友達のじんに会いたくはないか?」


「うん、勿論。あいつ、どこにいるか知ってるの? いきなり君と入れ替わりに消えたんだけど」


「だろうな。これ、俺だから」


 彼女は、小さな手で自分を指さす。


「え?」


 意味が分からない。

 じんは紛れもない男性で。にくったらしい程のイケメンだ。

 頭の上に、?マークが沢山飛んでいる俺に、彼女の冷たい声が降る。


「よし。間抜けなお前に説明しても時間かかるだけだ。

 手っ取り早くじんに会いたいと、じんの容姿を想像してみろ」


「う、うん」


 言われるがまま、俺は思い出しやすい様に目を閉じる。と、彼女の両手が、俺の頬を挟む様にバチンと叩いた。


「目は閉じるな。事情が分かりにくくなる」


「あ、はい」


 彼女の顔が近づき、ドギマギしながら、気を逸らすためにも必死にじんを思い出す。


「えっと……じんの髪の色は、君と同じ色で、でももうちょっと硬い感じ。髪型はまあ、普通の男子高校生……ちょっと優等生っぽい」


 彼女の髪が、目の前でシュルシュルと短くなり、


「身長は……俺より五センチちょい高めで……細身」


 彼女の可愛かった身長はスルスルと伸びていき、小ぶりの可愛らしい柔らかそうな胸はぺったんこになっていく。


「顔は、ハーフ顔だけど、割とすっきり目。切れ長な目に、鼻筋通ってて、唇の薄いクールなイケメン?」


 目の前に、じんが出来上がっていた。


「おおおおおおおおお!?」


 俺は、驚いて、目の前の出来事が信じられず、じんを見詰めながら、後ろへ尻もちをつく。


「な、なにそれ!? え? じん? え? 本物?」


 じんは、両腕を組んで、一つ溜息を深くつくと、高い上から俺を実質的に見下ろしてきた。


「分かってないみたいだから言うけど、さっきの女子は俺だ」


「え? 催眠術かなんかだったって事? 俺が夢見てた?」


「違う。俺はお前が傍にいて欲しい人間の姿になることが出来るってか、なっちゃうの。俺の意思とは関係無しに。俺の躰の仕様。そういうスペックなの」


「え? なんで?」


 なんかもう、本当に色々、なんで? としか言葉が出ない。

 じんは、一度天を仰ぎ、覚悟を決めたように、短く息を吐いてラグの上に胡坐で座った。


「お前さ、自分で自分の事、運が悪いって思ったことない?」


 全然話が変わってしまい、もっと訳が分からなくなりそうだけど、じんの目は真剣だったから、俺もつられて真面目に座りなおす。


「そりゃ、知っての通りだよ。クソが付く程の運の悪さだよ。子供の頃から、いやもう記憶の始まりから『運がねえ!』だったよ」


「だよな」


 じんが深く頷く。「でもさ」とじんが続ける。


「いつからか、その運が悪い事へのツラさって緩和されてないか?」


 そう言われて、幼少の頃までの記憶をフルスピードで遡った。

 言われてみれば、血の繋がらない姉たちに虐げられ、毎日が地獄だと思っていた頃に比べると、崖から落ちて死にそうになったり、痴女に痴漢されて、それが学校に知れ渡り自殺を考えたこともあったけど、なにかしら……なにか忘れたけど、何回も色んな事があって、その度に救われる事があって、俺は死ななかった。例えば、事故に巻き込まれそうになっても間一髪で、救われた。とんでもない恥をかいてもその後、俺はなんでもない事をした親切が新聞に載ったりして、人生を悲観することはなかった。


「……確かに、運は悪かったけど、死にたくなりはしなかった」


「だろうな」


 じんはそう呟き、俺をまっすぐ見据える。


「それって、なんでだか覚えてるか? いつからそうなったか覚えてるか?」


「そりゃ、無理な話だろ。結構な勢いで昔の話だぜ」


 俺は当たり前の様に笑ったが、じんは憐れな者を見るような目で俺を見詰め、そしてがっくりと両肩を落とし項垂れたかと思いきや、恨みのこもった目で、こっちを睨みつけてくる。


「……この野郎。簡単に言いやがって……お前の頭は単なる飾りか?」


「なんだよ。十年は前の話だぞ。お前は、覚えてるのかよ?」


 じんの目は揺らがない。まっすぐにこっちを睨みつけたままだ。


「覚えてるよ。事細かにはっきりとな」

 


正月休みが長いので、その間は連投で投稿します。

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