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第十二話

「ちょっと待てって、お前、怖い、キモい」


「キモい? なら、キモく無いように想像しろよ。お前の好きなタイプに変えろよ。想像してみろって」


「その、オラオラな感じが怖いんだって! そもそもお前の正体知ったってだけでショッキングな出来事なのに、急にタイプな女の子にとか、いきなり過ぎんだろ」


「だって、シタかったんだろ? だから、人の眼も憚らず、バスの中で俺を女として見たんだろーが!」


「人を変態みたいに言うなー!!」


 じんに噛み付くように怒鳴ったが、確かにバツは悪い。俺は多少口ごもる。


「あれは、ただ、まあ、隣に可愛い女の子が居てくれたらちょっと良いな……みたいな、お前が女の子だったら、こう成長したんじゃないかなーとか、チラっと思っただけで」


「の割には、お前、鼻血出してたけどな」


 じんのツッコミは流石に鋭い。


あき。お前、幼すぎ。奥手にも程がある。 俺らの年齢だったら、ヤリたい盛りだろ? 頭の中はアレばっかりの猿レベルだろ?


 俺は、お前がいつシたいと言っても良い様に、知識もテクニックも中学に上がる時から用意万端だったっていうのに、俺の五体がお前の為に用意されたご馳走みたいなものなのに、宝の持ち腐れでしかない」


 落胆する目の前の男は、本当に俺の親友だったじんなのだろうか。好みの女の子というより、只のビッチに見えてきている。俺は鳥肌を覚えた。


「怖い……なんかお前の発想が信じられない」


「は? 心外だな? なら、試してみるか? 天国に連れて行ってやるぜ?」


 怒る処は其処じゃない筈なんだが。突っ込みどころが満載過ぎて、どこをどう突っ込んんで良いかも分からなくなってくる。

 ほんとに、コイツ、只のヤリ○ンでしかないじゃん。


「お前。いつの間にそんな知識を……。けど、そんなすぐにその気にはならねーから。友達に性的欲求向けたり出来ねーから!」


 俺は、理路整然に窘めたが、


あき。ついさっきのあの体たらくで良くそんな事が言えたな?」


 じんの追及は容赦がない。


「いや、だから、あれはそんな意味じゃなくて、軽い妄想だよ、妄想」


 訂正の為に大きく横に振った俺の手を、じんが掴む。


「妄想、大いに結構だね。知ってるか? 恋愛は妄想と勘違いから始まるんだぜ?」


 凄むようにじんは笑う。

 俺は、恐怖で、手を振り払った。


「だって、お前、男じゃん!」


 俺の喚き声は、悲しくも子犬のそれに似ていた。

 じんの声は、俺を宥める響きに変わる。


「だから、女にすれば良いだろ? 俺らもうすぐ大学生だよ? チェリー捨てたいと思わないワケ? そっちのが、よっぽど不健全だろ?」


 じんの言う事は、一理も二理もある。でも、腑に落ちない。納得がいかない。


「お前の考え方は、確かに健全かも知れない。でも、不純だよ! 天使なんだろ? ……もう少し美しい事を言ってくれよ」

 

 俺の願いを込めた言葉の末尾は、じんの吹き出しで掻き消えた。


「わっは! お前、キモ! なに天使に夢見てんだよ! 乙女かよ!」


 じんは、俺を指差し、ひっくり返って笑い転げた。



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