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Twins of Dark Matter  作者: 梅衣ノルン
PROLOGUE
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第1話 性の終焉

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 永遠とは、何か。


 どうすれば、その境地に至れるのか。


 私は、生涯を費やして、ただそれだけを丹念に考えた。


 疎遠だった仲間から一通の手紙が届くように、私の頭の中に、ある素晴らしいアイデアが突如舞い降りてきた。


 それが、すべての始まりとなった。


 様々な道程を経て、われらが宇宙は、永遠のものとなった。

--------------------------------------------------


 透明なガラスで、すべてが覆われたこの部屋。


 ドアは自動。空調も自動。クローゼットから服を出すのも自動。掃除は手動。


 そして、鏡の中に、小柄な制服姿が踊る。


 紫のスカートに、紫のブレザー。それらに、黄色く細い線が何本もあしらわれている、一見、見る者の目を痛めそうなその配色は、しかし着る者の個性を最大限に映し出す現代的なアートともいえた。


「お姉ちゃん……」


「どうした、マター?」


 僕の名前はマター。


 この春から、とある学園に入学することになる。


 入学式は今日。


「マターは何を着ても似合うなあ。なーに、何も心配することはないさ」


「まだ何も言ってないんだけど……」


 お姉ちゃんの名前は、カナ。


 とても頼りになる姉だ。勤勉で、運動神経が良くて、なにより僕をいつも心配してくれる。素晴らしい姉である。


 どのくらい心配してくれるかというと、前に僕が風邪をひいて学校を休んでいた時に、携帯に時速20通ほどのスピードで姉からメールが送られてきたくらいである。


 さて、普段は頼りになるこの姉は、たまに突拍子もない行動に躍り出ることがある。


「最後にリボンを付けてと……できあがり!」


 鏡に映る少女が、完成する。


 アステリア女子学園の制服に身を包む、光り輝くその姿。


 その正体は、まぎれもない僕だった。


「……マター、ひとつ言っていいか」


「……なに」


「あなたの可愛さは異常です」


 そう言って、彼女は突然僕を透明な床に押し倒した。


「何をする気だよお姉ちゃん!」


「……ごめん、弟のこんな姿を見て興奮が抑えられない姉でごめん……。でも、今のマターは例えるならばそうそれは白百合のような美しい純潔さに恥じらいや世界への猜疑(さいぎ)を混ぜ込んだひとりの活動体としての圧倒的な美が……」


「説明しなくていいから!」


「そういえば、まだ朝ご飯食べてなかったね……。ちょうどいいかも……」


「やめて! お願いだからカニバリズムはやめて! 普通の人間の食事をして!」


 こんな具合に、男である僕によく女装をさせる。それがこの、ちょっと変態気質の混ざった姉である。


 でも、今回はシャレになっていない。


 なにせ、男子禁制の学園に通うのだ。


 何もトラブルが無かったら、もちろん3年間。


 何かトラブルが起こったら、僕はめでたくあの世(刑務所)行き。


「狂気の沙汰としか思えない……」


「ん? カニバリズムがか? それは少し偏見が入っているぞ、弟よ」


「いやまあそれもそうだけど、そうじゃなくて僕が女子校に通うことだよ」


「別にいいだろ。だーいじょうぶだいじょうぶ。どっからどう見たってただの女の子だよ」


「そういう問題じゃないんだけどなあ……」


「そんなことより、早く朝ご飯食べて出発するぞ」


 こうして僕らは、2階から1階へ降りる。


 ドアは勝手に開いてくれるから、僕らはただ階段から転げ落ちないように歩くことだけしか考えなくてよい。


 食パンを、1分で焼いた。


 各自でコーヒーを注ぐ。


 冷蔵庫から、お気に入りのメーカーのジャムを取り出す。

 

 あっという間に朝食が出そろった。


「いただきます」


 僕は当然、女の子の格好のままで食べることになる。


「どうだ? 女の子の姿で食べる食パンの味は」


「……酵母菌の味がする」


「そうか。制服をジャムで汚すなよ」


 むしろこの制服を汚してしまえば、こんな恥ずかしい格好で学校に行かなくて済むんじゃ……。


「おい。今、『むしろこの制服を汚してしまえば、こんな恥ずかしい格好で学校に行かなくて済むんじゃ……』とか思っただろ」


 す、鋭い。


 人間観察……もとい弟観察をしすぎではないだろうか。


「だいたいな、マターがアステリア女子学園に通うのは、私がマターのことを心配してるからなんだぞ。一緒の学園に通っていた方が、狙われる可能性も少ないし。もしもの時にはお互いに助けに入れるしな」


「そんなバトルマンガみたいな状況にはならないから大丈夫なんだけど……」


「あーもうわかったよ。私はあなたの女装姿が見たい! 女装姿で『ぼ、ぼく男なのに、こんな恥ずかしい格好で外に出ないといけないなんて……』とか言いながら顔真っ赤にしながらも最終的に健気に登校しちゃってそのうち『もしかして、女装ってちょっと楽しいかも……?』て気付き始めるその発達途上ぐあいを見たい! ものすごく見たい! これでいいだろ!」


「ちっともよくないよこのド変態が! 僕はぜったいに行かないからね! 行くならお姉ちゃんひとりで行ってよ!」


 それからも、「ド変態なのは女装してるマターの方だろ!」とか「そもそも僕が女装に目覚める可能性なんて欠片もないよ!」とか「女装とは受け入れるものではなくて気づけばすでに自己に組み込まれてる概念なんだよ!」とか口々に非生産的な口論がテーブル上を飛び交った。


「……あ、そうそう。今日は入学式だから、生徒会長の私は少し仕事があるの。というわけで」


「え、ちょっと」


「いってきまーす! マターも早く食べて出ろよ!」


 自動で開いたドアから姉の背中が消え、カバのようにぽかんと大口を開けて見ていると、ドアは閉まり、自動ロックの音が聞こえた。


「……え、本当に行かなくちゃいけないの?」


 とりあえず、パンをほおばりコーヒーを飲み干す。


 薄い青に輝いたクリスタルな時計を見ると、家を出る予定の時刻の5分前を指し示していた。


 ……とにかく。


 マター、記念すべき女装登校デビュー1日目である。


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