与えられた『祝福』と『力』
こんにちは、雪月花でございます。書き直しているので、ストーリーが大分変更されております。ご了承ください。(この話までは書き直し済み)
…
「お前の様なゴミに売る物なんざねぇよ!!」
「汚いガキだな、道で寝るな、汚れる」
「ちっ、貴族街に何でこんなのが居るんだ?奴隷商は何処に行った!」
あの頃は死んでいるも同然だった、毎日を生きる為にゴミを漁っては食っていた
「あつい!あつい!あつい!あつい!!」
「ぐぼっ!あぐぅ…!」
「ひぃぃ!!た、頼む!金はやるから、殺さないでくれ!」
俺が魔法と言う物を知って、使えるようになった時、一番最初にやったのが貴族の虐殺、なぜ?俺の家族を奪ったのは貴族の奴らだと。あの時の疑いもしなかった生半可な兵士や魔法使いより、才能があったみたいだな。あれ以降、俺は俺を知る為に、知識を貪った…だが、知識だけでは求める物を得られると思っていなかった
「この辺で魔法を利用して殺人や強盗を行っているのは君かな?その年でこれだけの事だ出来るんだ。ぜひ、その力を貸して欲しい…魔科学を知っているかな?あれをさらに発展させようと考えているんだが、勿論ただではない…君が必要とする物も用意しよう」
そして、アイツが現れた、魔科学には興味なかったが、研究設備に何より歴代の高名な魔術師の奴らが行った実験の記録が得られるのは大きかった
「出来た…くくっ…はっーはっはっ!!これが俺の力か!くくっ…!」
魔科学の研究を片手間にしながら、俺はこの魔法を『創造魔術』を魔科学と魔術を融合させる事で復活させる事に成功した。最高な気分だった。だが、研究に対する欲望は収まらなかった、そして…己が完璧と信じていた魔力障壁を突破する奴が現れた、なぜ?どうやって?心が躍る、知りたいと…
「くくっ…もっと楽しませてくれよ…シオン…!!」
…
…
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「なぁー、いい加減解いてー」
「鎧は喋ってはダメですよ?塩水掛けますよ?」
「あ、手が滑った!」
「うぎゃ!!!さびる!錆びるって!?」
ニルヴァが用意した塩水入りの樽を転がすルイン、いつもの平和な光景を眺めながらニルヴァ作の鉄人形を相手に模擬戦を行う。模擬戦をやる意味としては、今の俺では戦力外も良い所。『祝福』を受けていない所為もある。『祝福』とは冒険者が恐れられる理由の一つだ。詳しい事は分からないが冒険者ギルドに入るにはまず『祈りの遺跡』である儀式をしなければならない。その際に体の何処かに入れ墨の様な模様が浮かび上がる。それを『祝福』と言っており、人間離れした力や魔法と言った物が扱えるようになる。経験値を積めば積む程、力を身に付ける事が可能だ。よって、歴戦の兵士が何十人と集まろうが冒険者には勝てはしない…希少な存在となっているが、生まれた時から『祝福』を授かる者もいる様だ、そう言った生まれの者は『希少技術』…レアスキルが発現するらしい。最初に言ったが俺の身体は『祝福』を授けられていない。儀式を行っても何も起きなかったのだ、原因は不明だが。あの時はそれで良かったと思っていた…何で良かったって思ったって?それは『祝福』を授けられた者は冒険者ギルドに配属、管理されなければならないからだ。じゃないと、発見され次第冒険者に捕獲され最悪処刑だ。それ程までに『祝福』の恩恵は強力なのだ…それ以上に危険なのが機兵だがな。そんな訳で今の俺は地力を鍛えている。その内ルインからサプライズがどうのとニルヴァが言って居たが…防具でもくれるのだろうか?
「くっ…随分ときつい訓練だな」
「訓練ではなく模擬戦です。シオン様の場合、我流とは言え良い太刀筋をお持ちな様です。教えてくれた方は非常に高名な方なのでは?」
「いや、俺の剣技の基礎は冒険者をしていた。親父だ」
「お父様ですか…」
「ああ、だが。ニルヴァは知っていると思うが、俺は祝福を授かる事が出来なかった。光に包まれるが何も変化がなかったのさ、原因は分からないがな」
「うぇ?シオン青年、未祝福?マジで?」
錆びる錆びる!と叫んでいたキラーメイルが急に叫びをやめると驚いた表情で(顔が無いから分からん)此方に体を向けて来た
「あぁ、残念な事にな。祈りの遺跡で儀式を2回はやったが成果は無しだ」
「ふーん、成る程ねぇ…」
そう言って黙ってしまうキラーメイル。どうかしたのだろうか?
「祝福が無くとも鍛える事で技術は身に付きます。期待してますよ」
「期待に応えられるように頑張るさ…様を付けるのはやめてくれないか?」
「断りします」
何回言っても変わらず、様を付けるニルヴァ、何故止めないのかと聞くとメイドだから、らしい
「はぁ…慣れないな」
「直ぐに慣れますよ」
『ふふっ…』と笑うニルヴァに肩を竦めながら、居合の構えを取る。神経を研ぎ澄ませ、切り裂く為だけに集中する。
「ふ…っ!」
放たれた黒桜の刀身は鉄人形にX字の深い切り傷を付ける。ニルヴァの荒い訓練と黒桜の助言のお陰もあってか鉄人形を浮かし、転倒させる事が出来た
『ふむ。まずまず、じゃな。地力と考えるのであれば優秀じゃよ』
(あぁ、こんな速度で刀を振える様になるとは思っていなかったからな…)
倒れる鉄人形を眺めた後、黒桜を握る手に視線を落とす。以前の俺ならゴブリンやホーンラビット『角の生えた気性の荒い害獣』が精々だった。と言うよりもそれ以外の魔物に出会った事が無いのだが…
『くくっ、それが三ヶ月でこの成果…ようやるわい』
(三ヶ月か…早いな)
「ねぇ、シオン。後で、私の部屋に来てくれるかしら?」
黒桜と会話をしていると不意にルインに声掛けられた。コクリと頷くと『先に行って、待ってるわね』と微笑みながら訓練部屋から出て行った。何かあるのだろうか?
「さてっと、俺も帰るかねぇ。倉庫番だけどさ」
「鉄人形は直して置きますので、シオン様は支度を…。おい、変態、手伝いなさい」
「扱い酷くね!?」
「すまない、ありがとう」
ニルヴァに礼を言っては一旦部屋に戻り、汗を拭いては服を着替える。この際、布を黒桜に掛けるの忘れない。以前ちょっとした事件があったからだ
『なんじゃつまらぬ』
おい、黙れ、覗き魔
…
…
…
ルインが待っていると言っていた、部屋の扉の前で立ち止まり。軽く扉をノックする、すると『はーい。入って大丈夫よ』と声が帰って来たのでドアを開けて中に入る。最初に目に入ったのは大きな魔法陣?と言われるものだったか…?紫色の線で描かれている、その中心にルインしゃがんでおり。こちらを見るとにこりと笑った
「この部屋は…?」
「ここは召喚呪文が使える部屋よ。貴方を呼んだ部屋でもあるわ」
俺を呼んだ…か。この魔法陣が召喚に必要なのだろうか?
「そう、か。用事とはなんだ?」
「んっとね。魔王が召喚するのは基本的に魔物や魔族なの、冒険者の扱う『祝福』は生まれながらに魔力量の多い魔族、魔物には授ける事が出来ない、魔力量の少ないエルフやドワーフと言った冒険者も時々いるけどね?それで、魔王は自身の召喚魔法にある改良を加えたの、召喚魔法に契約魔術を組み込む事で召喚した者に『祝福』を渡せるのよ、人間の扱う『祝福』とは全く異なるモノだけどね」
「成る程…だが。呼ばれた日から身体に変化は無いが…」
「えぇ、ちゃんと召喚魔法を完了させていないから…今のシオンには『祝福』をあげられてないの」
『もし、ちゃんと渡せていれば。あんな怪我をせずに済んだかもしれなかったのに…』と眉を下げながら謝るルインを慌てて止める
「俺が勝手にやった事だ、気にするな。それよりも、俺に『祝福』を与えられるのか…?」
「ありがと、シオン。えぇ、出来るはずよ…元々は人間用じゃなくともさっきの話を聞いてる限りだと出来るわ。恐らく」
「…よろしく頼む」
「わかったわ。左手を広げて出して、ちょっと、痛いけど…我慢してね?」
そう言うと、ルインは自身の右の手の平に鋭いナイフの刃を滑らせる。ナイフが滑った後は白い手の平に赤ワインの様な鮮血が溢れ、手首を伝い床に垂れていた。言われた通りに左手を広げて差し出すと、同じ様に冷たい感触が手の平を滑って行く、後に来るのは熱い液体が流れ出す感覚。ルインは右手を俺の左手に傷口を重ねる様に手を重ねると瞳を閉じ、小さく透き通る様な声で言葉を紡ぐ
「此の血は我と汝を繋ぐ鎖と成ろう。力無き汝に、祝福無き汝に、魔王の祝福を授けよう。汝こそは我が英雄…!」
ルインの声が呪文を唱え終えると、二人の繋いだ手から零れ落ちていた鮮血が時間を巻き戻す様に消えて行き、ゆっくりと痛みが引いて行く。手を離されれば付けたはずの切り傷は跡形も無くなっており。ルインの手からも消えていた
「良かった…無事に成功したわ」
ほっと、安心した様子で俺の手の平を触るルイン。思わずくすぐったく手を引っ込めそうになるのを我慢する。…それよりも、急に体が軽くなっていて困っている。普通に歩けるだろうか…?
「そう、か。…体が軽過ぎて慣れるのが大変そうだ…」
「うふふ、直ぐに慣れるわよ。…一応、『祝福』について説明しておくわね。私も初めてだから実際どうなるのか分からないけど…シオンに与えたのは冒険者とは違う『祝福』本来の祝福は一定の経験を得て『祝福』が強化されるわ、だけど。私の『祝福』は与えた者の魔力量に比例して強化される、そこから経験を積む毎に成長して行くわ。つまり、戦闘中でも『祝福』は強力育って行くの」
「成る程…だが、魔力…だったか?俺にそんな物があるとは思えないが…」
「んー…使った事も無いし、使おうと思わないから、魔力が無いと勘違いしてるのよ。冒険者達の『祝福』は生まれながら魔力が高い個体には与えられない様になってるわ。どうしてそうなってるのか…そこまでは分からないけど」
じっと、俺を見つめるルインの説明を聞いて。確かに使おうなどと思った事がなかった、そもそも。扱える人間が村に居なかったしな…と言うより、ここに来て『慣れる事』が多過ぎる
「成る程…な」
「ふふ、さっ。用事は済んだは、試しに訓練場に行きましょうか」
音符が語尾に付きそうな程、ご機嫌な様子の彼女に頷いては部屋を後にし、訓練場に向かう。場所に着くとキラーメイルが立たされており、その横でニルヴァがキラーメイルそっくりの鉄人形を作っていた
「…新しい鉄人形にしては不気味な人形だな」
「ちょっとまてぇい?!第一声がそれかい!?一応俺がモデルなんですけど?!」
ギャ×2うるさい、キラーメイルを放置しては鉄人形をコンコンとノックする様に胴の部分の叩いてみる。うん、鉄だ。
「それで、なんで態々キラーメイルに似せたんだ?」
「それはこれからシオン様の訓練を見る度に切り裂かれる、こいつを見る事が出来るからでございます」
「あ、悪趣味だな…」
何もないはずの頭の部分から滝涙を出しながら泣き始める鎧を放って置いてキラーメイルによく似た鉄人形と対峙する、ちなみに鉄人形とはただの案山子では無くニルヴァが作った自立戦闘人形である。つまり、キラーメイルに良く似てると言う事はキラーメイルに近い動きをする人形と言う事である。俺がさっき相手にしていた人形とは格が違うだろう
「さて、一応訓練用にしてありますので命の心配はありません。ですが、手強さに関してはソイツに近いでしょう、あくまでも人形ですのでキラーメイル本人と戦っている風です」
「…善戦しよう」
周りが下がった(キラーメイルはニルヴァに蹴り飛ばされた)の確認して、柄に手を添える。動かない人形をじっと見つめながら、じりじりとゆっくりと間合いを図る様に近付いて行く
ガキィン!っと辛うじて捉える事が出来た人形の初撃、仕込まれた槍の刺突を居合いで上へと弾く。くっ…!?獲物は槍か!?距離を取ろうと考えた瞬間、右手に握られた槍では無く左腕から放たれた銀線を身体を後ろに投げ出す様に躱す。ゴロゴロと床を転がりながら距離を取り、人形を見れば右手にランスを左手には剣が握られている
「お前、両利きなのか?」
「ん?いやいや、利き腕なんてないよ?鎧だもん」
えっへんとえばるキラーメイルに溜息を吐いては立ち上がる。あれ、本物だよな
「あ、武器は本物です。刃は潰してあります、ですが、直撃を貰うと物凄く痛いですよ」
やっぱりそうか、動きが違うなんてもんじゃない。だが、ルインから『祝福』を貰って居なければ最初の一撃で意識を刈り取られていただろう。そう考えては再び気を引き締める
『主よ、少しばかり助言をしてやろう。妾の言葉に耳を傾けながら戦うと良い』
(そんな余裕がある様に見えるか?)
『無くともやるのじゃ。このままじゃと意識以前にベッドの上で安静にする時間を貰うだけじゃぞ?』
はぁ…仕方ない。黒桜の言葉に心の中で返事をしては刀を構えて鉄人形を見据える
『行くぞ、今度は此方から仕掛けるのじゃ』
「はぁっ!!」
上段から振り下ろされた黒桜は器用に槍の先で絡め取る様に弾かれる
『左下から右上に向けて打ち上げじゃ』
黒桜の言葉を聞いて左半身を後ろへと逸らす様に身を引けば左半身を剣先が掠めて行く。弾かれた黒桜を引き戻しては右肘に向けて刺突を放つ、が、槍が振るわれ剣先が再び弾かれてしまう
「ちぃっ!」
分かっていたがキラーメイルはああ見えてかなり強い。これが訓練用に性能を抑えられていると言うのだから舌を巻いてしまう
『考え事をしている暇じゃないのう、ほれ、剣による連撃が来るぞ!』
弾かれ体勢を崩している俺に向けて鈍い銀色が視界を埋め尽くす勢いで迫る。横っ飛びに跳ねると俺が居た位置は剣撃により床が砕かれ、砂塵が舞う
「おい、馬鹿メイド。本当にちゃんと調整したか?」
「えぇ、しましたよ?しましたけど…ちょっと、間違えたかもしれません」
そんなキラーメイルとニルヴァの会話を聞いては頬から冷や汗を垂らす、流石に死んだかと思ったぞ
『言ったじゃろう?気絶じゃ済まぬと』
(ああ、後で文句を言っておこう)
『くくっ、そら、来るぞ』
放たれる槍の鋭い突きを弾き、一撃必殺の威力を持つ大剣の薙ぎを身体を捻って辛うじて躱す。段々と目が慣れて来たのか人形の攻撃速度に反応が追い付く事が出来る様になって来た
「やるねぇ、青年。段々と追い付いて来てる」
「ふふ、祝福をあげたから、ね?」
「そうですか…ふふ、なら、予想外な結果が見えそうですね」
激しく火花を散らしながら槍と剣の連撃を弾き、攻撃を仕掛けて行く。今ならわかる、ルインの言って居た事が、初めて戦う相手に戦闘中に此処まで動きが良くなる事が異常だ。相手が圧倒的格上にも関わらずだ、すると、鉄人形は俺との距離を離しては剣を仕舞い、槍を下段に構えては魔力か…?何かが鉄人形に集まり始める
『ほぉ…丁度良い。妾が最初に教えた居合い…覚えておるか?』
(あぁ、覚えている、…まさか、迎え撃つのか?)
『うむ、じゃないと危険じゃぞ』
そう言われて鉄人形を見れば、ヤバさはビンビンに伝わって来る。ニルヴァ…本当に調整を間違えたんだな…、ふぅっ…と息を吐いて、黒桜を鞘に納めては迎え撃つ様に居合いの構えを取る
『壱ノ太刀、絶技…燈桜』
強大な"力"が込められた刺突に対し、渾身の力を込めて黒桜を振り抜く。槍の刃と灰黒色に変色した黒桜が激突し、鉄人形と俺はお互いに真後ろに吹き飛んで行った
…
…
…
「っ…ん、此処は?」
頭の痛みに目を覚ますとつい三ヶ月ほど前にお世話になったベッドの上に横たわっていた。確か…そう、祝福を貰ってどのぐらい変わるのか…試そうとして鉄人形と…
「目を覚まされましたか…?」
天井を見上げながら記憶を掘り返していると声を掛けられ視線を横にずらす、するとハンナがいつも通りの無表情で俺の顔を覗き込んでいた
「あ、あぁ…あの後どうなったんだ?」
「記憶はあるのですね、念の為に手厚く処置をしたのですが…心配なさそうです」
そう言って、ハンナはベッドから離れて行き。『お話はそちらの駄メイドにお聞きください』そう言って指で刺す方向を見ると、首から『私は愚かで馬鹿なメイドです』と書かれた看板をぶら下げたニルヴァが正座をしていた
「おはようございます。そして、申し訳ありません。調整の方を間違っておりました」
「いや、構わない。引き分け…か?」
そう問い掛けるとニルヴァはコクリと嬉しそうに微笑んでいた、そうか…引き分けに持ち込めたか
『くくっ、最後の燈桜…良く出来ていたぞ』
(良く出来て居なかったら…ぞっとするな)
『そう言うでない、本当に不味ければ妾が出る。主を行き成り手放したくないからのう?』
(怖い事を言ってくれるな…)
『くくっ…もう一つ、主には覚えて貰わなければならぬものがある』
(…?)
『今日の夜、再び妾の心象世界に招く、覚悟しておくのじゃぞ?』
そう言って、黒桜は静かになってしまった。『覚えて貰わないといけない物』…か、何なんだろうな…?
…
…
…
その日の夜、俺はあの世界に立っていた。いつ来ても彼岸花と髑髏の組み合わせに苦笑いを零してしまうが、不思議と嫌な気分ではない。そのまま水面を歩いて行くと黒い花を咲かす桜の下に黒桜が座っていた
「おはようかのう?いや、良く来たの方が良いかのう?」
「どちらでも構わないさ。…お邪魔するぞ、黒桜」
「うむ、いらっしゃいじゃな」
そう言って、黒桜に近寄って行くと向こうも立ち上がり此方に近寄って来る。こうして見ている分には綺麗な女性なのだがな…何処かぶっ飛んでいるのは性格か?
「何やら失礼な事を考えておるのう…綺麗と言う言葉は嬉しく受け取っておこうかのう?」
「…人の考えを読むな」
「くくっ、さて。時間は有限じゃ…主に覚えて貰いたいのは『鬼哭』と言われる妖術じゃ」
「妖術…?」
「さよう、主に教えた壱ノ太刀、燈桜も妖術を使った居合いじゃ。そして、あの男に傷を負わせたのも燈桜じゃよ」
それを聞いて驚く、アイツに傷を負わせた?だが、俺の攻撃は見えない壁でもあるかのように奴の首に刺さる寸前でぴたりと止まっていたはず…
「『創造魔術』で作られた結界は術者が"知識とし知っている"攻撃のみ無効にする結界。そして、妖術とは魔力を妖力に変えて施行するモノ…知っている者などまずおらぬ。何百年も前に滅んだ国の術じゃからのう」
『本や記録等は残しておらぬ、そもそも、妖術師は己の頭に全てを入れる。何処にも書き残したりしておらぬのよ』と言って、可笑しそうに説明する黒桜。つまり、奴の結界を貫いたのではなく、奴の結界が反応しない攻撃をしたと言う事か?
「おや、理解が早いのう。じゃが、奴が本当に天才と言うのならば…いつかは対策をされるじゃろうな」
「その場合は…どうするんだ…?」
「そうなる前に奴を叩くか…結界を破れる程、主が強くなるしかないのう?」
結局は強くなる他に道は無いと言う事らしい、いや、その方が分かり易くて助かる
「して、『鬼哭』についてじゃが…発動させると一時的に身体能力を跳ね上げる事が出来る。単純な妖術じゃ。だが、『鬼哭』を発動させる上で妾に憑いた呪詛に触れる事になるじゃろう。気をしっかり持たぬとやられてしまうかもしれぬのう?」
「待て、何で黒桜の呪詛に触れなければならないんだ?」
「うむ、『鬼哭』の一番の重要な点は魔力を妖力に変える為の媒介なのじゃよ」
「待て、俺の魔力を妖力に変換しているのは…」
「くくっ、妾じゃ。その媒介に込められた負のエネルギーが強大であればある程、鬼哭は強力になる。妾は色んな奴を切り殺したり血を吸ったりしておるからのう。そう言う面では無法地帯じゃぞ」
にぱっと明るく笑いながら胸を張る黒桜にチョップを叩き込みながら溜息を吐く。此奴の呪詛に触れて生きていけるのか…?どう考えてもアウトな気がするんだが
「痛いのぅ…。まぁ、やってみなければ分からぬ。それに『覚えて貰わなければならない』と言ったはずじゃ。強制じゃよ」
そう言って、持っている刀を俺に向けて投げる黒桜。パシッと、鞘を鷲掴みで受け取ってはゆっくりと鞘から引き抜く。恐ろしい程に綺麗な黒い刀身に俺の顔が映り込む。鬼哭…か
「目を閉じよ」
黒桜の言葉に頷き、瞼を降ろした。深く深呼吸をすれば身体が何かに引き込まれるような感覚が走り、黒桜の呪詛と対面するのだった
最後までありがとうございます!
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