現れる脅威
遅くなりました!中々展開を考えるのに指が動かなく…
それはさておき、楽しんで頂けたら幸いです!
「うっ…ぐっ…こほっ…!」
何が起きた…?この男はなんだ?ルインは…?驚きで硬直した身体を動かそうと途切れ途切れに息を吸い込み。蹴り飛ばされたルインを見れば壁に衝突し瓦礫に埋もれた彼女は血を吹きながらもこっちに必死に床を這う様に来ようとしている
「あ?あー…今蹴り飛ばしたのが魔王様、か。予想以上に雑魚いな」
『まぁ、仕方ねぇか。冒険者なら弾ける威力で蹴り飛ばしたし、けどなぁ…』目の前の男はため息を付きながら落胆した様子でそう呟くとポケットに両手を突っ込み、俺を見る
「で、だ…魔王が逃がそうとしてのはお前か?ふーん、雑魚か」
「し、おん…逃げな、さいっ…!」
「はっ、此奴は傑作だ!魔王を捕えに襲撃したのに魔王なんていなぇじゃねか…お前。知ってるのか?」
そう問い掛けられ思わず後ずさりする。魔王を捕らえに来た…?此奴、帝国軍か?
「おっと、逃がさねぇよ?」
詠唱も魔力が高まる気配もなく、唐突に男から衝撃が発せられる。抵抗する事も出来ず、その場から弾き飛ばされる様に身体が浮く
「!?、ぐ…ぁっ…」
ぐらりっと視界が揺れ、背中や腹部に鈍い痛みが広がり、ドサリと音を立ててうつ伏せに倒れる。顔を上げれば男から吹き飛ばされルインと同じように壁に叩き付けられていた…不意に"あの時"と同じ異質な視線が俺を貫く、起き上がろと床に右手を付けば見知らぬ刀が落ちていた。何でこんな所に…?部屋の飾り付けにしては良く出来ているが…
真っ黒な鞘に納められた無骨な刀、鞘から抜けば真っ黒な刃が見える。間違いなく本物だ
アイツに殺されるぐらいなら一矢報いてやろう。そう考えが過る、どうせ一度亡くしかけた命だ。ニルヴァ達が来るまで時間が稼げれば、ルインを助けられるんじゃないか…?
「エアシューターは耐えるか。冒険者なのかお前?それにしては…いや、関係ないか」
白衣の男がルインに右手をかざす。"やはり"詠唱も無しに氷剣が男の背後に形成されて行く、不味い…!
「う、そ…?あの魔法は二人以上の術者が必要なはず…!」
「ああ、その通りだ。本来、聖歌魔法であるこの魔法は二人からの術者による詠唱が必須条件。更に長く唱えればそれだけ威力が上がるのが特徴だ。だが、俺は『創造魔法』を蘇らせた…老害共を出し抜いてなぁ!聖歌魔法を一人で行い、威力の調整、詠唱省略も可能、更にスペルさえ頭に叩き込んでおけば発動させる事が出来る、凄いだろ…?」
白衣の男は左手で顔を覆いながら高笑いする。『俺は魔術師の枠を超えた科学者だ』そう叫びながら笑い続ける男の手は振り下ろされた
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
ルインと男の間に飛び込む、迫り来る一本目の氷の刃を薙ぎ払い、二本目を切り上げる、三本目を振り下ろしで砕き、四本目の刃先に切先を合わせ刺突で弾く、五本目を平地で受け止める!正確にかつ迅速に矢継ぎ早に放たれる氷の槍を砕きながら隙を伺う。ほんの一瞬、緩んだ弾速を突いて男に一気に肉薄し、首向かって刀を突き出す
「殺せるとでも思ったか?」
「な…!?」
刀が動かない、見えない壁でもあるかのように男の首の前で刃先は止まっている
「っ!?」
「死ね」
再び現れるは四本の氷剣…両腕、両足を貫き、ルインの目の前まで吹き飛ばされる。仰向けに倒れる俺が見たのは今にも泣き出しそうなルインだった。…泣くな、お前は死なない…ニルヴァ達が間に合えばそれでいい
「何だ。まだ立てるのか?」
「はぁ…はぁ…くっ…ぁ…」
ゆっくりと、右腕に刺さる氷剣を抜き、地面に落とす
「シオン、何で?何で逃げないの…?」
「…お前が助けて欲しいと手を伸ばしたからだ…どんな理由であれ、助けを求めて召喚魔法を使った。それが偶々、俺をここに運んだ、だったら…俺はその手を意地でも取る!」
馬鹿だと笑う奴が居るかもしれない、無駄死にだと言う奴が居るかもしれない、だが、それでも構わない。俺を召還したが為に死んでしまったなど、笑い話にもならん
「英雄か、勇者の真似ごとか…いや、主人を守る犬か?はっ!現実はそう甘くねぇよ…!」
男は嗤う、狂気的に、猟奇的に、そして…初めて肌で感じられる程の魔力を込め始める。次で終わらせる気なのだろう
「華々しく散らせてやるよ。せいぜい姫様を守るんだな…!」
言い終わる瞬間、男の前に巨大な業火が生まれ、発射される…コマ送りの様に時間が流れる…迫り来る業火を…両手を広げながらルインを守る盾の様に受け止める。再び俺の意識は黒に塗り潰された
…
…
…
目の前でシオンが煙を上げながら倒れる、息をしているのは分かるだけど…
「し、おん…?」
「さぁって、メインディッシュと行こうか…!」
両手を広げながら近づいて来る白衣の男を睨み付けるがどうする事も出来ない、私は…破壊魔法の一つも唱える事も出来ないのだから
「あぁ…そうそう、お前の仲間は今頃、最新の機兵と戦闘中…つまり、まず来ない。そもそも、俺がここに居る事すら気が付いて居ないだろうな」
「っ…」
「おーおー、怖い顔するねぇ…」
…
…
…
黒い、黒い…何処まで黒で染め上げられた視界にうんざりしながら身体を動かそうと力込める。まだ、俺は死んではいない。痛みを息を、音を感じる
(…ふむ…お主の力、見せてもらったぞ?)
…誰だ…?
(安心せい、死神ではないからのう…妾としてはお主を見殺すには惜しいと考えておる…)
実に愉快そうに声が告げる。舌打ちしそうになるの堪えてはその声に意識を向ける
(妾を引き抜き狂わぬ精神…鍛えれば面白い程に間違いなく化ける身体能力、いや、ちと欠陥付きじゃな。何よりもお主も気が付いて居ない潜在能力…くくっ…楽しくてたまらぬ、それにお主を待っていたからのう…)
…?何が言いたい…?
(お主を生かしてその先が見たくなった、それだけじゃよ)
…あの男を倒せるのか…?
(ふむ…今は無理じゃ。しかし、そう遠くない日に勝てるはずじゃ)
…なら…頼む…
(交渉成立じゃな、お主の身体を少し借りる。次に目を覚ましたら…)
…声を聞き終える事なく、俺の意識は深い闇に落ちて行った
…
…
…
「シオン…?」
「…あ?おいおい、お前はゾンビか?それとも不死か?」
先程まで倒れて居たシオンが音も無く立ち上がり、白衣の男に構えを見せる。見た事の無い構えだった、武器である剣の刃を鞘に納め左手で腰の位置に、姿勢を低くし、右手を柄に添えてる構え…
白衣の男は目を細め観察するようにシオンを見ている…すると、男はシオンから距離を取るのに軽く後ろに飛び、再び聖歌魔法を発動させる為に手をかざした瞬間、シオンの姿が消えた。え…?思わず声が漏れる。気が付けば、白衣の男の背後に立っており…血を払う様に刀を振り、鞘に納めていた。男も何が起きたのか分かっていないのか切り裂かれた、右肩を抑えながら一瞬、目を見開く。だが、直ぐに我に返った男は転移魔法で部屋の扉まで離れていた
「まさか…絶対障壁を貫通してくるとは…!此奴は面白れぇ!」
狂った様に笑う男、自分の血をまじまじと確認し笑いながら腕を振るう
「あーぁー…これは傑作だ、どんな手段を使ったか知らないが…お前はまだ研究する価値がありそうだ」
嗤う事をやめた男は殺気を隠す事なく、静かに言葉を続ける
「雰囲気も変わっちまって、まるで何か憑かれた様子だな…大きな収穫もあったし今回は失敗でいいか。よかったな、頼れるお仲間さんもこっちに向かって来てるぜ?」
次に殺し合う時はもう少し驚かさせてくれよ?そう言い残すと笑いながら白衣の男の姿が消える。私達…助かったの…?ニルヴァの声が聞こえる、ハンナの声も…キラーメイルも無事みたい…私よりも、シオンを…そう唇を動かそうとして瞼が下りて来るのを感じた
…
…
…
気が付けば、真っ黒な花の咲く桜の木の前に立っていた。周りを見渡せば何処までも彼岸花が辺り一面に広がっている一歩踏み出せば水の音が響く。水の上…?足元を確認すれば、無数の頭蓋骨が敷き詰められており、恐ろしい程に透き通った水が流れている、彼岸花は頭蓋骨から生えているのだろうか…?
「おぉ…どうやら生きておるようじゃな?」
不意い声を掛けられ、顔を上げれば桜の木の根元に真っ黒な着物を着た女性が座っている。切れ長の黒い瞳、絹のような黒い髪、対照的に肌の色は真っ白、着物の上からも分かる大き過ぎない胸
「なんじゃ?妾の美しさに声も出ぬか?」
くくっ…と笑う女性、手には見覚えのある刀が握られている
「…さっきの声は、お前か…?」
「如何にも、妖刀である妾じゃよ…ほれ、見覚えがあるじゃろ?」
ゆっくりと立ち上がった女性は刀を抜き、黒い刀身を見せつけては真っ白な手を此方に差し出しながら妖しく微笑み
「妾は"黒桜"…くくっ、よろしくのう…シオン」
読んで頂きありがとうございます!
これからも頑張って書いて行きますよぉ!
新キャラも続々ですからね!