鎧殺し対亡者の影
ルー「魔王城の食事は誰が作っているんでしょう…?」
セ「自分で作る場合もあればコックが作っている場合もあるようだ」
ルー「コック…?」
ア「~♪」
洞窟の岩肌すら焦がす業火がネクロシャドウの操る機兵を塵へと還す。業火を避け、業火を放つフィルに肉薄して来る機兵はキラーメイルの斬撃で切り伏せられて行く
「こいつら…何体いるんだよ…!」
「そこの死体の数だけだ!本体を直接やらない限り来るぞっ!」
絶え間なく襲って来る機兵を片っ端から燃やして行くフィル、表情には少しの焦りが見える
「嬢ちゃん、そのまま攻撃を緩めるなよ!ちっと、親玉を取って来るからよっ!」
「一緒に燃やされんなよ!?」
機兵の群れをすり抜け、触手を放ち亡骸を操る影に迫る!
「ちっ!やけにかてぇな…!」
全ての触手を薙ぎ払いながら、影に振り下ろされた剣は光を散らしながら触手の壁に遮られる
「―――――!」
雄叫びと共にキラーメイルに殺到する亡骸、しかし、爪も牙も鎧に届く事無く地に伏せる
「下がれ!」
フィルの声に後ろへ距離を離すと同時に影を焼き尽くさんと業火が包むが突風により弾かれる
「っ…!強すぎないか!?」
「嬢ちゃん、あれを相手にした事あるか?」
「あるよ!けど、私の攻撃が全く効かないって事はなかった!」
「じゃぁ…決まりだ!あいつは"ちょっと特殊な場所"で生まれたお陰で強化されてるかもな!」
そう言いながらも警戒は怠らない、注意深く影を見据える
「…あいつ…何してるんだ?」
此方を向きながら後ろで亡骸を一か所に集めだす影にフィルが困惑の声を上げる
「嫌な予感しかしないねぇ…」
そう言いながら影に再び接近する、剣で迎撃する触手を切り払いながら左手に握られた紅い槍で壁を縫う様に突き入れる!
「■■■■■―――――!!!!!」
確かな手ごたえを感じると同時に白銀の盾を前面に構えると強烈な衝撃が空洞の鎧を貫き。吹き飛ぶ様に壁に打ち付けられる!
「あいにく俺は中身が無いんでな!」
叩き付けられても構わず槍を振るい、触手を薙ぎ払えば一本の紅い影に向けて槍を投擲する!
「■■■■!?」
「わりぃな…そいつらは操作させねぇよ…!」
その触手の向かっていた先にはクローンの遺体が積まれた山…
「生まれる事すら許されなかった奴をこれ以上好き勝手させられるか」
吐き捨てるように言えば触手を切り離し吠える影に再び炎が直撃する
「キラーメイル!あいつの動きを止めてくれ!試したい事がある!」
「あいよっ!」
中途半端な機兵の亡骸を焼き払いながら叫ぶフィルに親指を立て、再び影の気を引く為に肉薄する
「■■!」
触手を盾にする影に容赦なく槍と剣で乱撃する!
「喰らえっ!」
影の背後に回ったフィルが後ろ首を掴む様に手を突き入れれば小規模の爆発が起きる!
「――――――!」
内部から破裂する己を認識すること無く影は消え失せ、ついでに近くに居た俺も吹き飛ぶ
「うげっ!」
「よっし!」
もうもうと立ち込める爆炎に影も無く周りの亡骸も地に伏せ動かなくなっている事を確認し、フィルはガッツポーズをとって喜ぶ
「…俺の事も考えて!?」
悲痛なキラーメイルの声が響き、戦闘は終わりを告げたかに見えた
「…え…?」
深紅の血が空を舞い気の抜けた声が響く
「フィル!!」
三本の触手は背後からフィルの胴を貫き、乱暴に振り払う様に壁に叩き付けられる
「がっ…!…こふ…っ」
どさりと力無く岩肌に叩き付けられ、口から血を吐きながら呻くフィル
「■■■■■■■!!!!」
「くそっ!!」
白銀の盾を展開し巨大なソレからフィルニ向けて放たれる影の棘を食い止める、足が沈み少しづつ後ろへと下がる
「―――――――!!」
同時に再び動き出すナリカケノ者達、槍を仕舞い剣を展開しては威力を調整した斬撃を群れに放ち両断する
(こいつが後ろで作っていたのは自身が破壊された時の予備か!随分と頭の良い奴だ…!こいつとフィルを庇いながら戦うのは厳しい…どうする…?フィルを抱えて逃げる事は出来るだろうか…?いや、この数の包囲網を抜ける無理だ。なら…)
「此処で倒すしかないか…!」
盾を消して斬撃を巨大な影に向けて放つ!影の間に機兵が群がり壁となる、斬撃は壁に遮られ影には届かない、だが…!
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
フィルに当たらない様に輝く剣を振り回す!自信を中心に発生する輝く斬撃は周囲の亡骸をすべて吹き飛ばすと同時に影に肉薄する!
「■■■!?」
「テメェのような奴は…地獄に帰りなぁぁぁっ!!!」
目を覆いたくなる程に輝く剣で放たれた刺突は防御する為に集められた強固な触手を貫き、影の核を穿つ!剣に集めた魔力を開放しては影を吹き飛ばし、鎧に突き刺さる漆黒の棘おも消滅させる。攻撃の余波により崩壊が始まる、叫び声を上げながら消え始める影を置いてフィルを抱えて一気に広い空間から離脱する
「はぁ…はぁ…」
「しっかりしろ!お前の墓には待ってもらうからよ!」
洞窟の通路は地盤が固いのか崩落する様子はない、フィルの上着を脱がしその上に彼女を横たわらせる。
「全く…こんな状況じゃなきゃ喜ぶんだがな…喋るなよ、今のお前は死に掛けだ」
服を捲り傷口を確認する、ネクロシャドウの扱う魔術の影響か腐敗が始まっている。更に胸の中心、奇跡的に心臓は無傷だ
「…この使い方をするのは久しぶりだな…生前か?かなり痛いが我慢しろ、気絶した方が楽かもしれないぞ?」
紅い槍を展開し液体の様に赤く輝く光をフィルの傷口に垂らす…水が高温の鉄板に掛けられた時の様に、じゅぅ…と音がすれば、フィルの苦痛の声が響く。徐々にその光は血肉へとなり呪いを打ち消す、再生の反動による痛みで気絶したのかフィルは大人しくなっている
「…これでよし、…呑気に寝ちゃってまぁ…」
容体が安定し、小さく寝息を静かに立てるフィルを優しく背負うとゆっくりとシオン達と合流する為に歩き出す
キ「可愛い顔して寝てるなぁ…ふふ、このチャンス逃すべからず…!」
フ「ん…むぎゅ…」
キ「…おめでとう、君の尊さに俺の邪心は倒された」