襲撃宣言
おはようございます!こんにちは!こんばんは!
雪月花でございます!
最近は暑い日々が続いております…皆さん体調にお気を付けお!
里の中心をとおる大階段を上りながら周りを見回せば、一見平和そうに見えるが武装したエルフが忙しなく動き回っている。大階段を上り切れば大樹の根元に建てられた立派な屋敷が視界に入る
その前では重装備を着込んだ門番がおりアナンを見ては驚きの表情で固まっている
しかし、セレナや俺達を見ては表情を引き締め、口を開く
「アナン様、いつお戻りに…?」
「長老アレシア様に会いたいのだけど。通して貰えないかしら?」
「アレシア様ですか…ですが、その者たちは…?」
「私の仲間よ。帝国と戦う為の大切な」
「…セレナもですか?」
「えぇ?そうよ?何か問題でも?」
門番がセレナについて問い掛けるとアナンはすっと目を細め、はっきりと仲間だと言う
後ろで何とも言えない表情で俯くセレナの肩をそっと叩く
「お前が里から離れていた理由は聞かない、だが、お前はもう俺たちの仲間だ」
「…ありがとうございます」
一人の門番が屋敷へと消えて行く、残ったもう一人はアナン以外を睨むように警戒したまま
やがて、もう一人の門番が戻って来ては通っても良いと言われた
「本当にアナンって王族なんだな…」
「ふふ、普段の私からは想像できない?」
「まぁ、な」
フォルカの呟きにくすくすと笑いながら振り返るアナン、確かに普段の彼らのやり取りを思い出すと
面倒見のいいお姉さんと言った印象が一番しっくりとくる
ラリサとフォルカが喧嘩すれば仲裁に入り、ベルが居なくなるとちゃんと探し出して帰って来る
「さてっと、此処からは私とルイン、セレナが話すと思うから…大人しくね?」
全員が頷き、そっと主要メンバーが前に立つ、ゆっくりと扉を開けて中に入れば
巨大な部屋の中心に小さなテーブルがあり、その先に椅子に深く腰を掛けフードで顔を隠した人物がいる
「久しぶりですね、アナン…それとセレス」
「お久しぶりでございます、アレシア様」
成る程…この雰囲気を心地良いとは思わないが長老と呼ばれる人物が言葉を発するだけで身体が強張る
長老と言われるだけあるという事か
「魔王様が直々に来るとは…余程の事が起きたのでしょうか…?」
「はい、実は…」
魔王ルインの元に集まり帝国と戦う為の準備をしている事、ある事件を切っ掛けに参加した事、そしてこのフォルンを再び帝国が狙っている事
「そうですか…帝国が攻めて来る事は分かっています…ステルベルと名乗る帝国の人間が先程、宣戦布告してきましたから…ね」
「っ…!もうここに来ているのですか…?」
「えぇ、明日の早朝…此処を襲う、と…皆で里を守る為の準備をしていますが…魔王ルインよ。貴女が来たと言う事は共に戦ってくれるという事でしょうか…?」
「えぇ、魔王として帝国に弓を引く者として…この事態は見過ごせません。此方も全力で支援いたしましょう…ただ、出来ればこの先も手を貸して頂きたい」
ルインの言葉に考え込む様に手を組む長老…そして
「良いでしょう。帝国が居なくなれば私達も平和に暮らせる…ですが、我々が得意なのは武力ではない…それでもよろしいでしょうか?」
「勿論、その事は分かっています。その癒しの力…貸して頂きたい」
「此方こそ、この里を頼みます」
驚いた…アナン以外のエルフを知らないと言うのもあるが武力には乏しいのか…
…そう考えるとアナンは確かに特殊なのかもしれない
冒険者として力を付けたと言う事だろうか…?
「セレナ…貴女が此処に居るという事は…」
「えぇ、そう言う事だ。追い出された私でもここが無くなるのは嫌なのでな」
「そうですか…」
ゆっくりと頷くセレナに対しアレシア少し悲しそうに声を震わせた
「…今更謝罪は要らない、私はこの人達と行くと決めた…貴方が思いつめる必要ない」
続けて突き放す様にセレスは言葉を続け、アレシアはその言葉を聞き静かに頷く
「ふふ、良い仲間を見つけたようですね」
「それでは、私達は防衛の準備に取り掛かります。貴方も安全な所に」
「えぇ、ありがとうございます」
ルイン言葉を合図にそれぞれ退出して行く、最後に俺が扉を潜ろうとした時
「…次の持ち主は貴方なのですね」
「…何のことだ…?」
不意にアレシアに声を掛けられ、振り返る
フードで表情は読み取れないが此方をじっと見ているようだ
「隠さなくても大丈夫です。この部屋に居るの者は皆口が堅い…その剣の持ち主は依然は此処のエルフが所有していたのですよ」
布に包まれた黒桜を指差しながらゆっくりと懐かしそうに呟く
…流石に布だけでは隠しきれなかったか…?
「…そうか。そのエルフがどうなったのかは聞かないが少なくとも俺は狂人ではない」
「ふふ、そこまで大人しいその剣は見た事ありません…貴方なら大丈夫でしょう…呼び止めてしまって申し訳ない」
「いや、構わないさ」
そう言って今度こそ扉を潜り部屋を後にする
(ふぅむ、やはり覚えておったか)
『お前の事か?』
(うむ、しかし…大人しいとは失敬な、あの時も静かにしておったぞ?妾、のう?)
『持ち主が暴れたんだったか?』
(くくっ、まぁ、色々じゃよ)
それにしても大人しい、か…昔の黒桜はどれだけやばかったんだ…?
普段の様子からはとても想像できない…が。
意外と抜けている妖刀、しかも擬人化付き
キラーメイルが属性の宝庫か!とか言っていたが…良く分からなかったな
外に出ると、ルインとアナンが話し合っており周りの兵達もアナンの言う事は聞いているようだ
「しっかし、宣戦布告ねぇ…まるで俺達が此処に来るのを待っているみたいだな…めんどくせぇ…サイコパスめ…」
キラーメイルはぼやくようにやれやれと肩をすくめる
「ステルベルにとって戦いそのものが実験なのでしょう…創造魔術をいかに効率よく扱うか…そんな所では?」
「幾ら創造魔術とは言え、失われた魔法は使用できないみたいだな…いや、まだわからないけどさ」
ニルヴァやフォルカが近寄って来てはキラーメイルのぼやきに苦笑いする
キラーメイルには珍しく真面目な反応、と言うより此処まで大人しいこいつを見た事が無かった
「そう言えば…ニルヴァの貫通なら奴の障壁を突破できるのか…?」
「いえ、恐らくもう無理かと…あの時はその場では解析はされていなかったので通用しただけで、ステルベルが解析を終えたのなら効かないでしょう」
「それに関しては同意見だ、俺の剣もかなり警戒していたし近づくのは難しいだろうな…となると、同じ理由でシオン青年も無理なのか…?」
「まだわからない…試す価値はあると思うが…」
妖術を解析されていたらそれこそ黒桜の言う秘策に掛けるしかない…
妖術が効くか効かないかは奴の反応で分かるじゃろう…少なくともあの時、奴は氷の剣で防いだ…と言う事はまだ通用する可能性はある、と言いたい所じゃが…宣戦布告の意味は妾達を此処に縫い留める為かもしれぬのう…例えば、解析を終えるまで戦いたくない…とかのう?…安心せい、お主には少しばかり負荷が大きいが秘策が無いわけではない…あまり使いたくないがのう?
と言われている…
「心配いらない、奴の相手は私がする」
「…死ぬなよ?」
フォルカは心配そうにセレナを見るが、無言で首を横に振られていた
少し落ち込んだフォルカを軽く叩きながら見回りを頼み
俺は一段落ついたルインの所へ
「今、大丈夫か?」
「えぇ、丁度終わった所よ。でも、これから更に強固にしないと…まずは里の外側に壁を…それから出来る限りの罠を張る…戦闘を里内部じゃなく出来る限り外で行うわ」
「戦闘被害が未知数故にそうするしかないか…この森で孤立は御免被りたいが…」
「そうね…せめて戦い易い地形ならいいのだけど…言っても仕方ないわね」
「機兵にはこの森の幻惑は効かないのか…?」
「どうでしょうね…でも、以前もここを襲ったのなら対策をしているだろうし…期待しない方がいいわ」
「準備なら手伝うが…何かあるか?」
「そうね…今は休んで頂戴、シオンが一番ダメージが大きんだから」
「…そう言われると弱いな」
くすりと微笑むルインから顔を背けながら頬を掻く
確かに先の戦闘で無駄にダメージを受けたのは俺だけだな、しかも自滅だ
なんだかんだ無事なルインに喜ぶべきか、何も出来ていない自分を恥じるべきか…
「穴があった入りたいな…」
「そこまで恥ずかしがる!?」
結論は後者、一太刀も当てられずに奴の攻撃を捌かくばかり、更には崖からぽいっである
驚くルインに軽く手を振りながら、穴の代わりに割り当てられた部屋に移動する
ルインに言われた通り今は休もう…
どうだったでしょうか!
少しでも楽しんでいただければ幸いです!