多種多様の機兵
こんばんは、こんにちは、おはようございます!
雪月花です!
機兵とは魔科学と生命が融合し生み出された生物である。魔科学を核として半永久の生命を宿した生物兵器、本来は"生きた器"に核を埋め込み作られる生物。しかし、幾つもの生命を無駄に消費したが成功する事は無かった。だが、やがて一つの結論に行きついた。生命亡き器に核を埋め込み、器を兵器として甦らす結果に
…
…
…
ウォルカ達と別れた俺とルインは、東区スラム街の中央通りを慎重に足を進める。スラム街と言われるだけの事はあり、空気が重くピリピリと張り詰めた雰囲気が漂っている、が、俺達に警戒していると言うよりは些か不自然だ。この雰囲気は…恐怖?
「ルイン、あまり離れるな。どうも普通じゃない、俺達に警戒していると言うよりも何かに恐怖している」
「え…?うん」
ルインを少しだけ引き寄せながら小声で伝えると、こくりと頷き表情を引き締めていた。物陰から、家の中から、まるで監視をしているような視線を受けながら歩を進めて行き。レインの証言から出た取引場所に辿り着いた
「城壁の真下、確かに広い場所ではあるわね。でも、秘密の取引をするには目立ち過ぎてるわね」
「そもそも、取引をするのではなく殺しに来ているからな…迷路のような道を縫って歩き、その先は袋小路、逃げられる確率も低いな。少なくても無傷は無理だ」
『それに加えて激しい雨による視界不良、更に機兵は複数と考えた方が良いじゃろう』
益々、絶望的な当時の状況に顔を顰めながら、まだ新しい血痕や足跡、何かを引きずった跡を調べ始める
「さてっと。まずは物的証拠から見てみましょ。その後に機兵の反応が残ってないか、調べてみるわ」
その辺にある、証拠と言える証拠を眺めなら溜め息を吐く。この量を全部見るのはかなり時間が掛かりそうだ。一番目立つ、大きな血痕に近づいてしゃがみ込む、この量…切られたや刺されたなんかじゃないな、真っ二つか…血痕に隠れる様に地面には刃物が叩き付けられた様な傷がある。死体を無傷で回収する事が目的で無ければ派手にやるようだな、レイン達はCランクとBランクの混合パーティー、相手が魔物や人間なら不意打ちを受けたとしても壊滅にはならないはずだ。それが、唯一逃げれたのがBランクのレインだけ…Cランクの手には余り過ぎると言う事か
「機兵で間違い無いだろう。防具を身に着けた冒険者を一撃で両断する事など、一般人には無理だ」
切り裂かれ砕けた鎧や兜の破片を持ちながらルインに伝える
「そうね…人間同士の戦闘ならここまで一方的にならなかったでしょうね」
ルインが見つけたのは、恐らくレインの仲間だと思われる、腕だった。この場で解体され何処かに運ばれたのだろうか?
「…この道を使ったのね。追跡してみましょう、城壁にじゃなくてこの道は東区の内側に向かってる。もしかしたら、既に基地の様な物が内部に出来て居るのかも知れないわ」
「ルイン、その前に客のようだ」
そう言って、点々と血の垂れる道を行こうとする、ルインを壁の窪みに押し込みながら後ろを振り返る。四足歩行の犬の様な形をした異形、顔と思われる部位はあるものの、本来あるはずのパーツは無く。代わりにあるのは剃刀の様な刃が螺旋状に体内に向かって作られている。まるで挽肉機の投入口だな。もう一体の人型のは人間のパーツをパイプで継ぎ接ぎに縫い合わせた体をしており、背中が以上に膨らんでいる
「機兵…!?」
「あぁ、相変わらず嫌な臭いを撒き散らしている」
…
…
…
「報告は以上です」
書類と本が積まれた机に難しい顔をした男が腕を組みながら目を閉じている。フォルカが一礼して一歩下ると、溜め息を吐きながらアーロンが目を開ける
「なるほど、ね。帝国が取引で冒険者を呼び出し、狩りをしているのか…気に入らないね」
苦虫を噛み潰したような顔で唸るアーロン
「どうやらそのようです。ギルドを通さない依頼は自己責任で請け負うことが可能です、が、帝国からの依頼となれば話は別」
「受けない様に指示を出してはいるけどね。お金の力は偉大っと」
「どうしますか…?」
「引き続きシオン達と調査を続けてくれ、その他は俺がやろう。機兵は発見次第破壊してかまわない」
「了解です、では」
再び一礼した後部屋を後にするフォルカ、椅子の背もたれに寄りかかりながら天井を見上げるアーロンは再び溜息を吐いた
…
…
…
此方の出方を待っているのか、機兵達が動く様子は無い、このまま逃げるのも手だが、放置して良い物でもない。出来るのであればこの場で破壊した方が良いだろう
「ルイン、援護は任せる。こいつらを放置してしまえば、誰かがまた死ぬことになる」
「…わかったわ。気を付けて」
ゆっくりと警戒しながら黒桜に手を掛けては機兵の方を睨みつける。どちらも初めて見る、いや…初めて見るのが当たり前なのかもしれないな
『素材に使われた死体の数だけ種類が増えるからのう。一声に機兵と言っても、多種多様。人型には気を付けるのじゃぞ、冒険者が素材になっている場合、厄介じゃ』
黒桜の忠告に心の中で感謝しつつ、構えを取る。ぽつぽつと雨が降り始め、数秒後には視界が塞がる程の豪雨になっていた、雨を待っていたのか犬型の機兵が地を踏み砕き、一気に肉薄して来る
「っ…!?」
体を捻り、紙一重で突進を躱す。すぐさま態勢を立て直した機兵は再度突撃して来る、突撃に合わせ、黒桜を振り抜き、頭部を弾く
「ちっ!」
金属音を響かせながら機兵を弾き飛ばしながら、もう一体の位置を確認する。ルインにはまだ気が付いて居ないらしく、こちら抜けて錆びた剣を下段に構えながら接近して来る
『冒険者の肉を使っておるな、気を引き締めよ!』
黒桜の警告を聞きながら、下段からのかち上げに対し、上段から錆び付いた剣に向けて振り下ろす。ガキンッ!と音立てながら割れる機兵の剣、間髪入れずに顔に向けて切り上げれば機兵の顔が裂ける、生物であるなら致命傷だ
「くそっ、核は何処にある…?」
動かない人型から距離を取れば紫色の輪が人型の周囲に現れ、締め上げる。多方向から撹乱する様に飛び込んで来る犬型を再び弾き飛ばしながら後ろを見ればルインが手を振っていた。人型の足止めをしてくれたようだ。核を破壊しない限り、こいつ等は動き続ける。犬型の核は恐らく頭部、一番固く主力となる武装の近くに埋め込まれている事が多いとニルヴァから教えられている
「すぅ…ふッ!」
何度目かも分からない、犬型の突進に合わせて。燈桜を頭部に叩き込む、多少の疲労感が体を包むが気にしている暇はない、言葉で説明出来ない悲痛な叫びを上げなら頭部を切り落とされた犬型は機能を停止した
「――――――――――!!!!」
「っ!?」
残る、人型の機兵が叫び声を上げる。両腕で拘束していた輪を引き引き裂き、背中の膨らみが蠢き始める。嫌な音を響かせながら背中から現れてのは人間の腕、その手には複雑な形状の剣が握られている
「びっくりな構造をしている…!」
飛び掛かって来る機兵の斬撃を躱し弾きながら燈桜を叩き込む隙を伺う、生えた腕に加えて最初からある二本の腕は刃に変化している、足元を狙う斬撃、上半身を攻め立てる斬撃。使い分けているのか
「…?」
ふと、急に機兵の動きが遅く感じる様になる。攻撃を弾く腕の負荷も少なく感じる
『ふむ、魔王の魔法じゃな。大分大掛かりな補助魔法じゃが、鬼哭を使わずに済みそうじゃのう』
身体の感覚が急に変わるのは危険な気もするが、冒険者にとっては当たり前なのだろう。遅く感じる様になった機兵の斬撃を大きく左右に向けて弾き、隙を作る。ガラ空きになった胸に向かって黒桜を振るおうとするが、反射的に後ろに距離を取る。瞬間、胸から先程弾き飛ばした剣と同じ形状の剣が無数に飛び出して来る
『冒険者は冒険者でも鍛冶技術が得意な奴のようじゃな』
(身体の中、どうなってるんだ?)
『あれも、魔法じゃよ。ほれ、来るぞ』
そうやって会話していると全身を剣の刃で覆った機兵が突撃して来る。動きは良く見える、核の場所も検討が付いて居る。つまり
「ハリネズミに失礼だな」
その機兵を見て、ハリネズミを連想してしまい悲しくなりながら大振りの商談からの斬撃を弾き燈桜を放つ。灰黒色の刃は機兵を簡単に両断し、胸の奥にある核も破壊する。地面に転がる残骸は水が蒸発する様な音を立てて消えて行った
「ふぅ…手強い奴らだ」
今の俺だと二体までが限界だな、それに機兵達は個体毎に戦闘スタイルも違う。一言に機兵と言われても、冒険者の死体を使われていれば実際に戦わないと能力は判明しない。魔物や魔族の素材の場合は更に厄介になるだろう
「何処も怪我はしてない!?」
隠れていたルインが飛び出して来ては俺の身体をぺたぺたと触り始める。擽ったいのでそっと手を取る
「大丈夫だ、怪我はしていない」
そう言って見つめるとそっぽを向かれてしまった。悲しい
「そ、そう。…よかったわ」
「ああ、援護もあったしな?」
「ふふ、少し時間が掛かってごめんさいね」
「構わない、俺一人だと危なかったかもしれないしな」
手を離しては、お礼を言いながら辺りを見回す。他に気配は無いが、分かった事はある。調査しに来た冒険者すらも奴らにとっては素材であり狩りの対象だ。間違いなくこの事件の犯人は帝国だ
…
…
…
「さてっと、東区はこの先だな」
「うん、あたしもあまり来た事ないから…土地勘は無いわ」
「そうなると、注意しないといけないわね…街の中で戦闘になるかもしれないし、機兵が潜伏してる可能性は高いわ」
「…誰か戦ってる」
「なんだって!?」
東区の中道通りを歩ているウォルカ達は不意に立ち止まったベルの言葉に驚く『こっち、来て』そう言って走り出すベルを追い掛ける、ウォルカに続いてアナン、ラリサも走り出す
「…無事?」
裏路地を走り抜け、空き家が取り壊された跡が残る場所に出る。そこには三人の冒険者と一人の一般人が機兵と交戦していた。一般人を背後に三人の冒険者が連携で辛うじて凌いでいたようだ
「あ、あぁ!怪我は無い…だが、気を付けろ!」
額から血を流し、ボロボロになった盾を支えにリーダーと思われる冒険者がベルに叫ぶ。ウォルカとラリサは瀕死の冒険者達を安全な場所に、アナンは一般人の女性を連れて先に離れる
「大丈夫、すぐに終わらせる」
そう言って、鞄から取り出したのは一冊の本。カマキリの様な姿をした機兵は叫び声を上げながら両腕の鎌を振り上げ、ベルを殺す為に飛び掛かる、が。二本の鎌はベルに届く前には一本の剣に受け止められる
「…いいよ、好きにして」
ベルの言葉を実行する様に鎌を受け止めた者が機兵を弾き飛ばす。音も立てずベルと機兵の間に現れるのは、ボロボロの白いロングコートを羽織り、フードで顔を隠している長身の人物。再び襲い来る機兵の頭部を鷲掴みし、右手に持つ剣を一閃。どす黒い血液を撒き散らしながら上半身を失った機兵は数歩歩き、絶命した
「…ありがとう」
その言葉を聞いてコートを着た人型は空に溶ける様に消えた、残ったのはウォルカ達と冒険者だけだった
「他に機兵は居ないみたいだ、お疲れ、ベル」
「ん、誰も死んでない?」
「みんな無事よ、あの人達もね」
『そう』と言って、まだ消えていない機兵の残骸から赤い光を回収していた。『いつもの』光景を見てウォルカは苦笑いし、ラリサは時に気にしていなかったが他の冒険者は不思議王にしていた
「それで、あの機兵は何処から現れたんだ?見た所、アンタ達はCランク二人とBランクに見えるが」
救助した冒険者に質問をしながら傷の手当てを始める、問い掛けられたBランクの男は苦い表情をしながら少し迷った後、ウォルカの睨みに観念し。話し始めた
「…今、話題になってる事件があるだろ。あれを追ってたんだ、『冒険者失踪事件』なんて言われているが、失踪なんかしていない。この国に帝国の奴らが潜んでる、そいつ等が俺達冒険者の肉が欲しくて狩りをしている」
「何でそう言い切れるだ…?」
「俺はこの東区で、機兵に襲われ、仲間を殺されたんだ。だから、この事件を調べ、アイツらに復讐をしようとしていたんだよ」
「冒険者には制限が課せられている、この事件に関われるのはBランク以上の冒険者に限られている。勿論、一人では無く四人以上のパーティーでな」
「俺に指を咥えて見ていろって言うのか!?」
「ギルドの調査隊に参加するのが安全にも繋がると気が付きなさい、今のアンタは冷静な判断も出来ないみたいだし、死にに行くだけよ。…でも、人を一人助ける事が出来た、それで今は我慢しなさい」
ウォルカと男の話を聞いていたラリサが話を終わらせる様に口を挟むと、そのまま後ろのCランクの女性の冒険者を担いで入り口に向かって歩き始める。ウォルカも男を担ぎ、後に続く。『シオンさんと合流するのは遅れそうだな』と思いながら横を見れば、ベルが最後の一人を骨で出来た床に乗せて運んでいた
…
…
…
戦闘を行った場所から帝国の物だと思われる痕跡をルインと一緒に追跡していた、その結果一つの錆びれた倉庫にたどり着いたのだが
「多分ここだと思うんだけど…痕跡が無くなってしまったわ」
焦った様子で周りを調べるルインを止めては、倉庫の扉から中の様子を伺う、だが、人の気配も機兵の気配もしない。中を調べられるだろか…?
「どう…?開きそうかしら」
「いや、固く閉じられてるな。強引に開ける事は出来そうだが…」
それをやれば内部に居るかも知れない帝国の連中に気が付かれるだろう。それは避けたい、今は俺とルインしかいないのだ
「ここが奴らの拠点なのか、調べる必要があるが…どうしたものか」
「目星は付いてるし、ウォルカ達と合流した方が良いかも知れないわね…」
「そうだな…一旦ギルドに戻って、ウォルカ達を探そう。この場所をアーロンに知らせる必要があるしな」
こくりと、頷きながらスラム街を出る為に歩き出す。人数がいれば攻め込む事が出来るだろう。どちらにせよ明日には準備を整えた冒険者達で調べるだろう。今は報告を優先しないとな…
どうだったでしょうか!
今後もお楽しみに!