第2話 道中にて
「街ってどっちに行けばいいの?」
「いや、まずは森に沿って進むぞ。そうすれば村があるはずだ」
「村? 街に行くんじゃないの?」
「街まではかなり距離がある。まずは村まで行って諸々整えるぞ。
……お前の格好は些か目立つからな」
……なるほど、確かに。
思えば私は今、制服だった。
おまけに何も持ってないし……
「オッケー。それじゃ、行こっか」
歩き始めると話題は自然とお互いのことになった。
「……私がこの世界に来たのって、ドーマのせいなんだよね?」
「まぁ……そう、だな」
歯切れが悪そうに話すドーマ。
どうやら思っていたものと違ったらしい。
「本来なら俺様が上手く操れるような魔力の持ち主を召喚するはずだったんだが……」
「操るつもりだったんだ……」
「フン、まさか魔力を一切持たない人間が出てくるなんざ、考えもしなかったがな」
魔力がなくてよかった、と心の底から思った。
「そういえば」
話題を変えるため、口を開いた。
ちょうど聞きたいこともあったし。
「ドーマの目的って何? っていうか元は人間? なんだよね?」
「……あぁ、そうだ。俺様は元は人間で、闇の大魔導師だった」
闇の大魔導師。
……ちょっと恥ずかしいネーミングだなぁなんて思ったのは内緒。
「人間だった頃に禁忌魔法に手を出して、気付いたらこのザマだ。
呪いだかなんだか知らねぇが、その時使っていた本に魂を転移させられちまったわけだ」
「な、なんか大変だね……」
禁忌魔法、って多分ヤバイやつだよね……
やっぱりこの人、悪い人なんじゃ……
そんな私の心を見透かすように、ドーマは続けた。
「ま、この姿じゃ何もできねぇけどな。武器になれるくらいなもんだ」
それならとりあえずは安心、かな……?
「それじゃあ目的ってやっぱり元の姿に戻ること?」
「そうだな。姿形は気にしないが……ん?」
話しながら歩いていると、見覚えのあるシルエットが。
「あれ……」
「あぁ。リザードマンだな」
「どうしよう……今度は3体も」
しかしその3体は何かを取り囲むように立っており、こちらに気付く様子は無い。
「フン、気に食わんが、今はこちらが不利だ。今のうちに行くぞ」
「ちょっと待って、あれ……」
どうやらあの3体が取り囲んでいるのは小さい鳥のような生き物だった。
「なるほど、ダンピードラゴンの幼体だな。今晩の飯にでもするつもりか?」
「……助けなきゃ」
「おい……小娘、まさかあいつらとやり合うつもりじゃねぇだろうな……?」
「だって、あのままじゃ殺されちゃうよ!」
「冷静になってみろ。俺様が武器になるとしても、こちらは小娘一人だ。
対して奴らは何匹いる? いくら下等生物とはいえ、1対3じゃ話にならねぇだろうが」
「でも、放っておけない」
「あのなぁ……」
こっちだって不利なのはわかってるし、正直怖い。
でも、このままあの小さな命を見過ごすことだって、出来ない。
「私、死なないから。絶対に」
「ダメだ。先を急ぐぞ」
「お願い、ドーマ」
「……あぁクソッ! 今回だけだぞ。本当に今回だけだ」
私の真剣さが伝わったのか、ドーマは折れてくれた。
「いいか、よく聞け。奴らは下等生物の中でも下の下だ」
相変わらず酷い物言いだけど、今はその声に集中する。
「一匹目を一撃で潰せ。恐らく、残った奴らはそれを見て逃げ出すはずだ」
私が力強く頷くと、ドーマはまたハンマーに変わった。
絶対に助ける。覚悟は決めた。
「じゃあ、行くよ……」
緊張が走る。
「大丈夫、私なら出来る」
自分に言い聞かせ、全力で駆け出す。
「おおおりゃああああ!」
「ギャギッ!?」
突然現れた巨大なハンマーを持つ少女に驚き、リザードマン達の反応が遅れる。
ドゴォン……!!
大地を揺らすほどの衝撃に土煙が広がる。
煙が晴れた時、広がっていた光景は凄惨なものだった。
「ギ、ギィ……!」
原型を留めないほどに頭が変形し、ピクリとも動かない彼らの仲間だったモノ。
それに生命が宿っていないことは明白だった。
『逃げなければ殺される』
残った2匹は全く同じ思考になったのだろう、脇目も振らず逃げ出していった。
「ふぅー……」
乱れた呼吸を整える。
「フン、小娘にしちゃ上出来だな。ま、及第点ってとこだが」
「それはどーも……」
疲れ気味に返しながら、ドラゴンの子供を捜す。
近くの草むらから尻尾らしきものが飛び出していた。
「大丈夫だった……?」
恐る恐る近づきながら話しかけてみると、ヒョコっと小さな頭が。
「ピィ……?」
こちらをじっと見つめている。
……こう見ると、結構可愛いかも。
「もう、大丈夫だよ」
「ピィ!」
安心させようと笑顔で話しかけると、ドラゴンの子供が急に飛び出した。
「わわっ!?」
私の胸に飛び込んできたと思ったら今度は頭上をグルグルと飛び回っている。
「あはは、元気そうだね。よかったぁ」
「ピィ!ピィピィ!」
「……おい。いつまでここにいるつもりだ。急がねぇと日が沈むぞ」
不機嫌そうな声に、私は最初の目的を思い出す。
「てへへ……そうだった」
「チッ、全く……」
呆れるドーマを尻目に、ドラゴンの子供に別れを告げる。
「それじゃ、私達は行くね。気をつけて帰るんだよ」
「ピィ!」
ドラゴンの子供を見送って私達はまた歩き出した。