無口な上司とお見舞い
「お腹すいた〜……」
今日は、日曜日。
一昨日の飲み会に参加出来ずに、がっかりしながら帰ったけれど、案の定熱が上ってしまい、無理せず行かなくて本当に良かったと思った。もし、居酒屋で具合悪くなったら、迷惑をかけてしまったかもしれない。
初めてと言っていいくらい真藤課長が参加していたのに、自分の間の悪さが情けない。でもまあ残念だけど、せっかくの機会に水を差さなくて良かったと思うことにしよう。
病院に行こうと思ったけれど、幸い市販の風邪薬を飲むと、熱は下がったので、昨日は一日寝て過ごした。体もだいぶ軽く感じるようになったし、このぶんなら明日からの仕事には行けそうだと思う。
水分は欠かさず飲んだし、ゼリーも食べた。けれど、ちょっと回復してくるとそれだけでは物足りなくて、お腹がすいてきた。
順調に、元気になっている証拠だ。
でも、作るのも億劫だし、外に出てぶり返すのも嫌だ。
一人暮らしだと病気の時、大変だな。
けれど、一緒に住む人がいても必ず看病してくれるとは限らない。
……。
真藤課長は、どうだろう。
ふふっ、無言だけど、でも熱心に看病してくれそう。
あれ、何で課長の事思い出してるんだろう。
一昨日の飲み会どうなったかな。盛り上がったかな。
真藤課長、仕事以外の事喋ったかな。
お腹も空いて、ちょっと心細くなっていたはずなのに、真藤課長を思い出しながら、ぼんやりとそんな事を考えていたら、なんだかふわふわした気持ちになってきて、次第に眠りに惹き込まれていった。
そう長い時間ではなかったけれど、まどろんでいた時だった。
ピンポーンとインターホンが鳴った。
「宅配でーす」
ドアの向こうからそんな声が聞こえた。こんな状態で出るのは嫌だったけれど、昨今の配達事情を考えて、女性宅配員というのもあり出ることにした。ロングカーディガンを羽織り、玄関に向かい部屋のドアの開ける。
「こんにちは。真藤様からお届けものです」
(え、真藤?)
「サインお願いします」
「あ、はい。ご苦労さまです」
サインをして荷物を受け取る。玄関のカギをしたのをチェックすると、ヨタヨタとしながらテーブルに荷物の箱を置く。送り主の欄を見ると、「真藤光博」と書かれていた。
……。
そういえば、私の住所なんて知ってたのかな。いや、課長だしなんか名簿とかで知っててもおかしくないよね。体調が優れないと、思考も優れない。適当な理由を自分でつけて勝手に納得した。
箱を開けてみると、やっぱりというかそれ以外考えられないというか。
バナナが入っていた。シュガースポットつきの。
そういえば、詩織ちゃんが免疫力がなんとか言っていたっけ。
取り出してみると、ヒラリとカードのようなものが1枚落ちたのに気がついた。拾って、開いてみると。
「ご自愛ください。 真藤光博」
たった一言だったけど、今の私にはちょっと、いや、かなり胸に来てしまった。何でだろうふと、「弱っている時に、優しくされると恋に落ちやすい」と、どこかで聞いた言葉を思い出した。けれど、すぐに笑ってしまった。
バナナとカード1枚。
これだけで特別だと思うのは、あまりにもバカげている。
ダメ、ダメ。なんか今いろいろ考えると余計熱が出そう。ただ、真藤課長が部下との交流に、目覚めただけかもしれない。
そうだ、お腹空いているから変な事考えるだ。
うん。バナナ食べよう。
バナナ食べて、免疫力あげて、風邪なおして、明日からまた仕事だ!
家なので、普通に皮を剥いて頬張る。
「うん、美味しい! バリバリ働くぞ〜!」