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無口な上司と手紙、そして…… 1


 それからしばらく、この気持ちをどうすればいいのか分らず悩みながらも、比較的平穏に過ごせていた。けれど、そんな中またしても、立花さんの事で驚くことになってしまった。


「立花さんが、辞める?」


 詩織ちゃんの言葉に、びっくりして思わず大きな声が出そうになって、慌てて口を抑える。


「そうなんですよ。さっき、織田さんから聞いたんですけど……。あ、織田さん」

「おう、青山に鈴木か。立花の件か?」

「本当なの? 織田君」

「ああ、もうじき新人研修も終わるだろ? で、正式に採用になるかどうかってところで、立花の方から急に辞めるって」

「そんな……それって」

「鈴木のせいじゃないからな」

 そう言って織田君が、私の言葉を遮った。相変わらず勘の良い同僚だ。

「でも」

「あのさ、制作課は忙しい部署だし、ついていけなくて辞める奴とか、鈴木だって今まで見てきただろ? 珍し事じゃない」

「そうだけど……」

 確かにその多忙さゆえ、採用人数を増やしても新人の脱落者は多い。違う部署に異動したり、辞める者も少なくなかった。織田君の言う通り、一緒に入社時した同僚で、制作課に残っている人数は少ない。けれど……。


「そうですよ。それに立花さんは色々あった人ですし……」

「それでも、私、ちょっと行ってくる」

「え、夕子さん? 行くって……まさか立花さんのところにですか? もう、あの人には関わらないほうが」

「はあ……。青山、鈴木は意外と頑固だから諦めろ。だけどな、鈴木、あんま無茶するなよ。行ってこい」

 心配してくれる詩織ちゃんの優しさが嬉しかった。そして、いつも背中を押してくれる同僚の優しさも。

「うん、ありがとう。織田君、詩織ちゃん。行ってくる」


 辞めるって聞いて、心のどこかでホッとしたのも事実だ。きっと、彼女は私との話なんて嫌がるだろう。だけど、色々あったけど私にとって初めての新人指導だったのだ、思い入れがあったっていいじゃない。


「立花さん!」

「はあ……私もう鈴木さんと話す事なんてありませんよ」

 廊下を歩いている立花さんを見つけ、声を掛けると予想通り嫌そうに振り返り、ため息混じりにそう言った。


「何よ! 散々迷惑掛けられたんだから、最後ぐらい我慢しなさいよ」

「……何ですか」


 立花さんのかったるそうな返事に、思わず言い返すと意外にも素直に応じてきた。


「会社辞めるって聞いたわ……」

「! あははっ、まさか自分のせいだって言うんじゃないんでしょうね?」

「違うの? あのね……」

「ああ、もう! そんな顔しないでくださいよ。考えてもみてください。この私が今更、鈴木さんや課長の事で辞めると思いますか?」

「……思わない」

 そう聞かれて、少し考えてみたら素直にその言葉が出て来た。


「でしょ? てゆうか、残業ばっかで普通に嫌でしょ? あんな所で働いているなんて、鈴木さんや真藤課長を始め制作課のみんなが変人なんですよ」

 ついに、制作課全員を変人呼ばわり。でも、何だか最後まで立花さんらしくて、可笑しくなってしまった。

「嫌な奴が、辞めるって分かって、嬉しそうですね」

「そうね。せいせいした。でも、忙しいけれど、それでも続けているのは、この仕事にみんな自分なりの「何か」があるから、その魅力を感じているからだと思うの。ごめんね。それをうまく教えられなくて」

 素直な気持ちをそのまま言葉にする。

「……うざくて、お節介で、ほんとお祖母ちゃんみたい……」

 すると立花さんがぽつりとそう呟くと、ツンと横を向いて。話は終わったとばかりに、そのまま彼女は去っていった。


 最後の会話は、何だかあっけない感じで終わった。


 さっき、ああは言ったけど、もっと教えてあげたいことがいっぱいあったし、うざくてもお節介でも、もっと立花さんに対して出来ることはあったはずだ。



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