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無口な上司とためらう恋心


 課長とのドライブから帰ってきて、部屋着に着替えるとお風呂の準備をする。今日は、ゆっくりしたい気分だったのでお湯をはる。


 湯船に浸かり、ほっと一息つくと、さっきの会話を反芻(はんすう)する。

 嬉しい気持ちと、ほんの少しの心残り。


 真藤課長が好き。


 告白をするなら絶好の機会だった。

 だけど、それを無闇に伝えてもいいのかと「考えて」しまった。


 告白をして断られた場合、その後、絶対気まずくなる。もうすぐ出版部の仕事も終わってしまう。そうなると同じ職場だからしばらく顔を合わせないようにする事も出来ない。時間が上手く解決してくれれば良いのだけれど、その間ギクシャクしたまま、仕事をする事になるかもしれない。


 もし、受け入れてもらえても職場恋愛。公私をきちんと分けられるのか、この前、酷い態度をとった時の事を振り返ると自信がない。

 それでも、二人の関係が良好なら問題ないだろうけど、いつも良い時ばかりではない。ケンカした時など、すれ違う事もあると思う。そんな時、仕事に影響しないだろうか。


 それに、もしも別れてしまった時の事を考えると、口にする勇気が出なかった。


 考え過ぎだと言われるかもしれない。

 好きなら素直に好きって言えばいいだけだ。


 だけど、恋愛と同じくらい仕事も大事だから、躊躇(ためら)ってしまう。


 自分だけならまだしも、それは断わられるにしても、付き合う事になっても、相手もそういう状態にしてしまうのだ。


 気まずくなって今の距離感が壊れるのが、怖い。


 過去の失恋も頭をよぎった。頑張りすぎて、空回って、最後には面倒になって放り出すくらいなら、このままずっと片思いのまま、黙ったまま心の奥で好きなままでいたい。別にそれだけで充分だと思えたら、それでもいいと思う。


 けれど、すでに私は「もっと」という気持ちがある。


 「もっと」話してみたい。

 「もっと」知りたい。

 「もっと」真藤課長の近くにいたい。




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