無口な上司と紅茶 3
部屋に帰ると、ひとまず汚れた服を脱いだ。
すぐに洗濯したいところだけど、時間が遅いので洗濯機を回すのは近所迷惑になると思い、汚れた部分を手洗いする。ついでにそのままお風呂に入いろうと、タオルや着替えの準備をした。
温めのシャワーを浴びると、ピリッと痛みが走った。火傷まではいっていないので安心したが、紅茶のかかった手首のあたりが赤くなっていた。その痛みが、さっきの出来事が嘘じゃないという証のようで……。
けれど、今はそれよりも、もっと痛いところが……。
「なんか、こっちの方がちょっと、重症かも」
一人呟いて、ぎゅっと胸のあたりを押さえる。
何でかな、痛いのに嬉しいって気持ちがあって。
話し足りないと思ってしまった。
けれど、すぐにあれで良かったと思い直す。
29歳。独身。
相手は上司。
今は、自分のその気持に気づきたくなかった。
余計な事を考えて、あの優しい時間を手離したくない。
心地良い距離感を保った今の関係が良いのだ。
自分に何度もそう言い聞かせ、いろんな気持ちを振り払うように体を洗い始める。そして、シャワーから出る頃には、気分的にも少しすっきりしていた。体をタオルで拭きながらふと鏡を見る。
すると、さっき課長が私を抱き上げて、そしてその場に降ろされた事を思い出してしまった。
「っ〜……!」
別に、真藤課長がどうという訳ではない。
けれど、何というか、やっぱりショックだったわけで……。
ダイエットしよう。
そう、固く決意をした。




