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狂信戦記(オリジナル版)  作者: SOL
第1章 Religious Planet
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第3話 【リリジャススキル】

今日は極端にクエストが少ないな…

綠水は軽く溜め息をいた。



冒険者会館の1階にはメインロビーと冒険者協会の支部事務局がある。

メインロビーの一角には掲示板があり、ここに冒険者協会支部事務局が承認した公式クエストが数多く掲示されている。

そう、数多く。

そう、普段ならば。


ところが、ゴールデンカルサイトの壁面という贅沢な造りが詮無せんなく感じるほど、今日の掲示板は閑散としている。


農家の為の害獣駆除クエスト…

左遷役人の引越護衛クエスト……

愛するペットの捜索クエスト………


クエストリストを隅から隅まで探してみても、逆に平和に感じてしまうようなクエストしか掲示されていない。



どうなってるんだ?

今までこんなことなかったぞ??

今日は金策をしたいと考えていた綠水は当てが外れて途方に暮れた。



そのとき、不意にチャットが飛んできた。


「綠水くん、やほやほー

クエスト探しかなー?

なんか美味しそうなのあったかい?」


「アインスウィルさん、こんにちはです」


綠水は愛想よく挨拶で返した。



アインスウィルと呼ばれる黒髪和装の美女は【エド】を拠点とする中堅ギルド【真理の扉】のギルマスだ。

【真理の扉】はギルメン10人と少人数であったが、その全員がヒーラー系スキルを得意とするレベルカンストプレイヤーだった。


高難易度レイドでは【真理の扉】のヒーラーがいないと攻略に支障をきたすと言われる程の実力者揃いで、当然、そのギルマスである彼女は【エド】のトッププレイヤーの1人だった。



「剣を新調したくて、何かいい金策ないかと期待してたのですが…

上級者向けクエストがひとつもないなんて、こんなの初めてですよ」


「ん〜

さすがのリリプラの自動クエスト生成エンジン様でも、お休みしたい日があるってことかなあ〜」


肩を落とす綠水にアインスウィルはおどけてみせた。



「いや!そういうわけではないようだよ諸君!」

2人の会話に別のチャットが飛び込んできた。


うわ…イングリッド…

綠水が露骨に嫌そうな表情をした。


「おいおい綠水!

そう嫌そうな顔をしないでくれよ!

それはそうと、天照騎士団に入団して私の元で主神アマテラスに魂を捧げる決意はできたのかね?

ソロプレイでは綠水もそろそろ限界を感じているのではないのかね?」


空気を読むことなく畳み掛けるようにギルド勧誘しまくる男性キャラ。


見るに見かねてアインスウィルが遮るように発した。


「イングリッドさん

クエスト掲示板の件、

そういうわけではないとは、どういうわけなんですか?」


た、助かった…

アインスウィルの助け舟に、綠水は心の底から思った。



イングリッドは、アマテラスに帰依するプレイヤーばかりを集めた大手ギルド【天照騎士団てんしょうきしだん】のギルマスで、彼もまた【エド】のトッププレイヤーの1人である。


彼は、同じくアマテラスを主神とするソロプレイヤーの綠水に以前から執心で、会うたびに激しいギルド勧誘を仕掛けてくるのであった。



「ふむ

綠水もアインスウィルも、リリジャススキルの発動はまだ確認していないよな?」


イングリッドは綠水の勧誘を中断して語り始めた。


「諸君らも知ってのとおり、リリプラでの我々のスキルの源泉は信仰だ。

数多の神仏から1柱を選び帰依することで、その主神から恩恵や加護を受けて様々なスキルを使うことができるようになる。

ここまでは良いかな?」


「「当然!」」


綠水とアインスウィルは声を揃えて返した。


「よろしい…

ところが、神仏に帰依したはずの我々は、スタンダードスキルこそ自由に使えるものの、肝心のリリジャススキルを発動させた者は誰ひとりとして居ないというありさまだ!

サービス開始から1年経って、この現状は明らかに違和感があると思わないか?」


確かにイングリッドの言うとおり、リリプラには通常使用するスタンダードスキル以外に主神への大きな信仰心により発動するといわれるリリジャススキルという設定があった。

リリジャススキルには強力なものが多いという話であったが、レベルアップ時のスキルポイントを振ることで習得できるものではないようで、その発動条件は未だに謎のままだった。


「それは…

オレ達がまだそのレベルに達してないということじゃないのか?」


綠水もリリジャススキルのことを考えていなかったわけではないが、いつか発動するはず…そう安穏に漠然と思っていた。


「ふっ

考えてみろ綠水!

ゲームの目玉仕様とも言うべきものを、謎のままここまで放置する意味がどこにある?」


イングリッドが力強く断言した。


「私達はギルド内で議論に議論を重ねた結果、

ひとつの解に辿り着いた!

リリジャススキルは、何らかの理由で未だ実装されていないのではないかと!」


「「っ!!」」


綠水とアインスウィルは絶句した。



これまでの1年間、

トッププレイヤー達は常に自己研鑽してきた。

検証を得意とするプレイヤー達はリリジャススキルの発動条件を探し続けてきた。


それでも、誰ひとりとして未だにリリジャススキルの発動を確認できてない…

ということは…

確かに、イングリッドの語る仮説が正しいように思えてくる。



「そう仮定すると、これまでとは違った視座で今度のオフラインイベントが見えてきやしないか?

私は、オフラインイベントで配布されるという、新拡張パックこそ、リリジャススキル実装の狼煙のろしだろうと推測している!」


イングリッドが自説を結論づけた。


「なるほどです

新拡張パックではリリジャススキル実装という大型アップデートが行われる…

だからこそ、直前タイミングのこの時期にリリプラ内が不自然なほどに静まり返っているというわけなのですね?

さすがの推察ですわ、イングリッドさん」


アインスウィルが上品に同調してみせる。


自動クエスト生成エンジンが生み出す新クエストから何らかのバグが発生する可能性は確かにある。

大型アップデート前にそのような事態に陥ることは運営としておいしくないことも頷ける。


綠水とアインスウィルはイングリッドの仮説に納得せざるを得なかった。




「「「あっ!」」」


まさにその瞬間、

3人が同時にゲーム内DMを受信した。


恐る恐るDMを開封する綠水。

現実世界での時間は深夜0時、日付が変わった瞬間であった。



『おめでとうございます。

貴殿は与えられた期限内にレベルキャップに達しました。

その偉業を讃え、Religious Planetトッププレイヤーとしてお認めいたします。

つきましては、1週間後に開催するReligious Planetオフラインイベントに御招待いたしたく、ここに招待状を送付いたします。

貴殿の御参加を事務局一同、心よりお待ち申し上げます。


Religious Planet運営事務局』




イベント招待までゲーム内での通知でかよ?

綠水は苦笑した。


他の2人にもきっと同じDMがきている。

なんにせよ、オレは次のステージに立てる者として選ばれたんだ!


綠水は小さくガッツポーズをした。

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