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狂信戦記(オリジナル版)  作者: SOL
第2章 異教徒割拠(上)
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第23話 【荷馬車が揺れる】

タヤユガのダンジョンは日本マップ最大の地下ダンジョンと言われている。


日本マップにはタヤユガダンジョン以外に、ナニワの街にウメチカと呼ばれるダンジョンがあるが、こちらは最深部が10層と、既に底が知れている。


ウメチカに対して、綠水達がこれから潜ろうとしているタヤユガは、いったい地下何層まで存在しているのかが公表されていない。


現時点ではくだんのタクト達パーティーが迷い込んだ第6層が最深到達層ということになり、その深淵はまだまだ先が見えていない。



もっとも、日本マップの冒険者には馴染みが薄い他国マップや他サーバーにも巨大ダンジョンは置かれている。


フランスマップのアンピール・ド・ラ・モール

トルコマップのイェレバタン・サラユ

ペルーマップのアンデスダンジョン

そして、ギリシャマップのラビュリントス


これらの地下ダンジョンもあまりにも有名である。



とはいえ、現状、日本マップに居る綠水達が潜ることのできる最大の地下ダンジョンは、やはりタヤユガだと言える。





「おぉ〜

ついた、ついた!」

カナガワの街に到着したなり、クミルファスは大きく伸びをした。


彼女の弩派手どはでな出で立ちを見て、街の者は一様にザワザワとしている。


「なんや、なんや?

カナガワの人らには、うちの美貌がよほど刺激的に見えるらしいなぁ!」

クミルファスは満足気にうなずいている。


美貌かどうかはさて置き、橙色だいだいいろのパーティードレスを着てウロウロしているヤツがいたら、そりゃあ見るだろう!

綠水はツッコミを入れようと思ったが、大阪人の彼女にはむしろご馳走を与えることになりそうだと思い自粛した。



「いや〜

しかし、カナガワの街、めっちゃ久々やなあ〜

キミらは最近いつ来たん?」


「俺は先月、この街の宿屋を拠点にしてタヤユガ4層にこもってレベル上げをしましたから…」

クミルファスの質問にシータが答える。


「オレと以蔵も、1カ月程前に来たよ!

そのときはアイテム狙いで、タヤユガ3層までしか下りてないけどね…」

綠水も続いて返した。

以蔵も隣でウンウンとうなずいている。


「なんや、キミら結構最近に来とるやんか?

うちは、始まりの日以降でこの街に来るのは初めてやねん!

カナガワの街の空気ってこんな味やったんやなぁ…

土の匂いがするやん!

田舎やん!」

パーティードレスのお嬢様は、変なところに関心している。


「さあさあ、クミルファス!

油を売ってる場合じゃないぞ?

街からタヤユガまで、歩いて3時間以上かかるんだからな?」


「そうだな…

時間が惜しい!

先を急ごう!」

綠水の促しに、シータは珍しく毒づかないで同意した。


「はあー?

シータちゃんも綠水ちゃんも、なに言うてんねん?

キミら、うちにタヤユガまで歩かせる気か??」

クミルファスは呆れた様子で両手を広げた。


「へ?

オレたちの目的地はタヤユガだよな?」


「もぅーマジで言うてんのかいな?

しゃーないなあ!

キミらはここでちょっと待っとき!」


彼女が何を言っているのか分からない綠水は、助けを求めるようにシータの顔を見る。

シータも意味が分からないとばかり、目をつぶり首を横に振った。


そうこうしている間に、既にクミルファスの姿はなかった。


「なんだろ…あれ?」


「さあ…なんだろうな…

とにかく、クミルファスさんの帰りを待つしかなさそうだな…」


綠水とシータは、中央広場のベンチに座って待つことにした。

広場の真ん中には噴水があって、小柄なサムライが楽しそうに水浴びしている姿が目に入ってきたが、彼らは見なかったことにした。



クミルファスがどこぞに居なくなって30分程が経っただろうか…

以蔵も水遊びに飽きて、綠水達の座るベンチまでやってきた。


「クミ姉ちゃんはー?」


「おお、以蔵…水浴びはもういいのか?

クミルファスは…

さあ…どっか行っちゃったよ…」


置き去りにされた彼らの姿は、ひどく所在なげに見える。



そのとき、やっと待ち人の声が聞こえた。

「みんな〜

お待たせやで!

馬車と御者を調達してきたでぇ〜!」


声の方向に目をやると、馬車に乗ったクミルファスが手を振っている。


「どう、どうどう!」

綠水達の前で御者が馬車を停止させる。

二頭引きの幌馬車だ。


天蓋てんがい付きの洒落た箱馬車を探しとったんやけど、荷馬車に毛が生えたようなんしか調達できひんかったわ…

しかも二頭引きやし…」

クミルファスは何やら贅沢なことをのたまっているが、十分すぎる移動手段だ。


「す、すごい…馬車だ…

富豪かよ!」

綠水は、いつも目的地には歩いて移動していたので、馬車に乗るのは初めてだった。


「クミルファスさん…

高かったのではないですか?」

どうやら、シータも綠水と同類のようだった。


「すごないわ!

乗り心地悪い荷馬車やさかい、御者付きで金貨30枚ちゅうとこや!

それ以上は、びた一文たりとも出せんわ!」

お嬢様改めて富豪淑女は、事もなげに言ってのけた。


「いくで!

これもおごりにしといたるさかい、はよ乗ってや!」

気風きっぷの良い富豪淑女に促されて、パーティーメンバー達は荷台に乗り込んだ。


「はっ!」

御者が馬追い声を発すると、馬車はゆっくりと発車した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




ゴトゴト、ゴトゴト、

思った以上に馬車は揺れた。


貴族が所有するような天蓋てんがい付きの箱馬車ならば、車体下部のバネで振動を抑える構造になっているため、ここまでは揺れないだろう。


だが、この揺れがなんともRPGゲームぽくて、冒険心がくすぐられる…と綠水は呑気に考えていた。


見ると、隣に座る以蔵は揺られ揺られてウトウト夢の中だ。

向かいに座るシータも黙って目を閉じている。

綠水もなんだか眠くなってきた。


「あっ!」

突然思い出したかのようなクミルファスの声に、綠水の眠気は一瞬にして吹き飛んだ。


以蔵も驚いたように目をパチパチさせている。


シータは寝ていた訳ではなく、考えごとでもしていたのだろうか…?

全く動じず目を閉じたままでいる。


「そや、そや!

パーティー組むの忘れてたわ…

もう、道中半分くらいまで来た感じやし、そろそろ組んどこか!」

二頭引きなので思った以上にスムーズに進んでいる。

道中、モンスターに遭遇することもなく順調だ。

クミルファスの言うとおり、あと30分もすればタヤユガに到着するだろう。



リリプラでは、パーティーリーダーが招待を送り、受け取り側が承諾することによってパーティーが成立する。


リリプラがゲームではなくなった“始まりの日”以降、冒険者達の目の中には自分のレベルとキャラクター名、そして、HPバーとMPバーが常駐で表示されている。


自分以外の冒険者については、それらの情報が常駐表示されることはない。

意図して相手に視線を乗せることでHPバーとMPバーを把握することはできるが、レベルやキャラクター名は表示されない仕様だった。


ただし、パーティーを組んでしまえば、パーティーメンバー全員分のレベルとキャラクター名、そして、HPバーとMPバーが自分の目の中に常駐で表示されるので、戦闘時のステータス管理が容易たやすくなるというわけだ。



「ほな、綠水ちゃん!

パテ招待たのむわ!」

そう言うと、クミルファスは綠水に向かってニッコリ微笑みかけた。


「………え?

ええええ!?」

まさかの展開に驚きを隠せない綠水。


「ちょ!

ちょっと待って!

リーダーはクミルファスじゃないのか?」


「はあ?

なに言うてんの?綠水ちゃん…

始まりの日以降、専業商売人やってたうちがリーダーできるわけないやん?

まったく、笑かさんといてや〜」

クミルファスは右手をフリフリさせて、ケタケタと笑ってみせた。


パーティーリーダーは当然クミルファス…

そう思い込んでいた綠水に突然のキラーパスが飛んできた。

パスを受け切れず、他のふたりに助けを求める視線を送る。


「賛成ぇ〜」

以蔵が気の抜けた口調でクミルファスに同調した。


「クミルファスさんがそう言うなら異議なし…」

シータは我関せずの感じでクミルファスに同意した。


「ほらほら!

よろしくな!リーダー!」

クミルファスがニヤニヤしながら催促してくる。


「くっ……

ううぅ……

やりゃあいいんだろ?やりゃあ!」

こんな個性的すぎるパーティーのリーダーなんてまっぴら御免だったが、満場一致で押し付けられると、伏して辞することもかなわない。


観念した綠水は、渋々ユーザインタフェースを展開し、目の前の3人にパーティー招待を送る。

全員から即座に承諾が返ってきて、無事にパーティー結成に至った。



---フォン

軽い電子音とともに、目の中にパーティーメンバー全員の名前が表示された。


Lv.56 綠水


Lv.50 クミルファス


Lv.55 シータ


Lv.54 以蔵


それを見てクミルファスが驚きの声をあげた。

「キミら、なんなん!?このレベル!!

特に綠水ちゃん!56ってめちゃくちゃやん?」


「綠水にいちゃんズルい!

前に一緒にタヤユガ行ったときには俺と同じレベルだったのにぃ〜」

以蔵が悔しそうに言った。


「…ちっ」

シータは周りに聞こえるように大きく舌打ちした。


「おい、以蔵!ズルいってなんだよ!

あと、そこの銀髪魔法使い!舌打ち聞こえてるぞっ!」

たしかにレベル上げについては、急いでやっている自覚はあったが、他の冒険者のレベルを気にして上げていた訳ではない綠水にとっては、レベル56がどんなものなのかが正直分かっていなかった。



「いまのリリプラで命の危険と引き換えにレベル上げを続けてるヤツは…多分1000人とおらんやろ…

その中でも、最前線張っとるヤツらで、やっとレベル52とか53あたりなんやで?

分かっとるんか?

いまは命がかかっとるんやで?

ゲームのときみたいなペースでレベル上げできるわけないやん!

キミら3人がどんだけ異常か分かるやろ?」

クミルファスは真剣な表情でまくし立てる。


「特に…

特に綠水ちゃんや!

キミの56っちゅうのは、もうマトモやないで…

綠水ちゃんが、無茶なレベル上げしとるっちゅうんは、もう色んなとこで噂になっとるで?

なにをそんなに焦っとるんや?

大丈夫か?綠水ちゃん!?」

クミルファスの表情は、心做こころなしか青ざめて見える…

冗談で返せる雰囲気ではなかった。



「うん…ごめん…

心配かけた…

無茶しないように気をつけるよ…」

じっと見つめてくるクミルファスの目に、自分の心の奥底の歪んだ“何か”を見透かされそうで、綠水は思わず顔をそらした。


「…たのむで?

綠水ちゃんも、シータちゃんも、以蔵ちゃんもっ!

競ってレベル上げとか、やめてや!

ホンマに命を粗末にしたらアカンで…

みんなで生き残ろうや…」

泣きそうな表情で懇願するクミルファスに対して、3人は神妙に黙ってうなずくしかなかった。




「どうどう!どう、どうどう!!」

そのとき、御者の掛け声がして馬車が停止した。


綠水達のパーティーは目的地タヤユガダンジョンに到着した…

“ドナドナ”の歌詞よろしく荷馬車を暗い雰囲気が包み込んでいた…

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