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狂信戦記(オリジナル版)  作者: SOL
第2章 異教徒割拠(上)
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第19話 【ギルマスの懇願〜その1】

---ホゥ〜ホゥ〜



宿屋からすやは、エドの街の郊外に静かにたたずんでいる。


中心部からは少し距離はあるが、エドのタウンエリア内でこれだけ自然豊かな場所はそうない。


小鳥のさえずりがあかつきを告げ、

深夜の静寂は遠くの音を風が耳まで運んでくるほどだった。



---ホゥ〜ホゥ〜


クミルファス達とのタヤユガ遠征前夜、綠水はからすやの自分の部屋で、遠くにふくろうの声を聞きながら入念に装備を整えていた。


「明日か…

思ったより早く決行できたな…」

綠水は窓の外の暗闇に目をやり独りごつ。



---ポトッ


武具を整備する綠水のかたわらに怪しげなアイテムが転げ落ちた。


昨日の別れ際、クミルファスから渡された、はみタコ君の巨大缶バッジだ。


『ええか、みんな!

これが、うちらのパーティーの絆やで?』

綠水はクミルファスが何の気なしに発したであろう言葉を思い出した。



「……絆…か…」

絆の缶バッジを手に取り、綠水は、昨日クミルファス達と話をする前の深夜のことを思い返した。


それは『タヤユガの龍神』の噂のことだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




1週間程前、6人のフルパーティーでタヤユガ5層に潜った冒険者達がいたという。


ダンジョン内のモンスターがドロップするアイテムは、どれも高額で取引されるため、タヤユガはまとまった金策に適している。

そのパーティーも、おそらく金策のために潜っていたのだろう。


タヤユガ5層にはレベル50相当のモンスターが配置されていることから、そのパーティーのメンバーは手練れ揃いだったことが伺われる。


なんでも、彼らは5層の奥で崩落事故にあったらしく、そのまま6層まで全員落ちてしまったということだった。


5層から6層に降りる階段は、いまでもまだ発見されていない。

つまり、彼らは意に反してレベル60相当のモンスターが跋扈ばっこするエリアに投げ出されたことになる。


本来であれば、崩落に巻き込まれて6層に投げ出された時点で、縮地門を使ってエドなりカナガワなりに飛ぶべきだが、彼らはなまじ腕に自信があるパーティーだったため、そのまま5層に戻るルートを探索するということを選択してしまったようだ。


パーティーはモンスターとの戦闘を必要最低限に避けつつ、6層の探索を続けたが、どれだけ歩いても5層に戻る階段は見つからなかったという。



ダンジョンを進む際にマッピングをするのは冒険者にとっては常識である。


ダンジョンの入り口から探索済みエリアまで、歩んだルートや配置物、位置関係などを書き記していく。

そもそも“入り口”という起点があるからこそ、マッピングが容易になり、書き記された地図情報が次回以降の探索の際に有益なのである。


ところが、突然、未踏破エリアに投げ出された場合、それまで線で繋いできた地図情報が全て無駄になってしまう。


己の現在位置を見失うこと…

迷宮の中でこれほど恐ろしい事態はない…



現在位置を見失った6人パーティーは、6層で完全に道に迷ってしまったそうだ。

そうなれば最早、縮地門を使った撤退を拒む理由などなかったのだが、彼らは6層の奥で発見してしまった…


迷いに迷った挙句、彼らが発見したのは、5層に戻る階段ではなく固く閉ざされた巨大な扉だった。

大理石の扉には、宝珠を掴み天昇する龍神の姿が彫刻されていたらしい。


『レイドゾーン!!』

パーティーメンバーの全員が即座に理解したという。


そう…

彼らは、冒険者達の間で噂され続けていたタヤユガの隠しレイドを発見してしまったのだ。



これがいまエドの街で静かに広まっている『タヤユガの龍神』の噂だ。

ここ数日、どこの酒場でも話題の中心は全て『タヤユガの龍神』だった。



しかし、この話には少しだけ、まだ先があった。

そして、綠水は“それ”を知っている…




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




タヤユガの龍神で噂の6人パーティーは、幼馴染みばかりで設立された社会人ギルド【プレシャス・ファミリー】の面々だった。


ギルマスはタクトという名の盾持ち片手剣の前衛職。

タクトは5人の幼馴染みと一緒に、あの始まりの日以降、協力してこの世界で生き抜いているということだった。


実は、プレシャス・ファミリーのギルマスであるタクトは、からすやを定宿じょうやどとしており、挨拶やちょっとした世間話程度ではあるが、綠水は以前から彼と面識があった。



1週間程前のある夜、タクトはボロボロの格好と疲弊し切った真っ青な表情で、からすやに戻ってきた。


ちょうど夕食を終えたところだった綠水は、帳場ちょうばのところで彼のその姿を見かけたが、その時は「無理なレベル上げでもしてきたかな?」と、それほど気にも留めなかった。


綠水がタヤユガでの彼らの“噂”を耳にしたのは数日後…

そして、タヤユガでの彼らの“真実”を知るのは、さらにその後になってからだった…




それは、綠水がクミルファス達との話をする前の深夜の出来事。


草木も眠る丑三つ刻…



---トントン

からすやの綠水の部屋のふすまをノックする音がした。



…こんな時間に来客?

ユーザインタフェースを展開、

綠水は慌てることもなく、戦闘用装備に換装してノックの主に返事をする。



「はい?

どちら様でしょうか?」


一瞬の沈黙の後、男性冒険者の声が聞こえた。

「夜分遅くにすみません…

1階の山猫の間を借りているタクトです…」


「あ、タクトさんでしたか」

綠水は、少しだけ警戒を解いて返事をした。


「こんな時間にどうされました?」


「じ、実は相談がありまして…

少しよろしいでしょうか?」


何ごとだろうか?

タクトは非常に深刻そうな声をしている。

綠水はふすまを開けて、タクトを部屋に招き入れた。



「こんな非常識な時間にすみません…」

さすがに社会人だけはある。

タクトは、深夜の訪問をかなり恐縮がっている様子だった。


「いえいえ、大丈夫です!

明日は冒険者会館に用事がありまして、ちょうどその準備をしてましたから!

あ、お茶でいいですか?」

綠水は愛想よく応じてみせた。



タクトは出されたお茶に手をつけることもなく、深刻な面持ちのまま黙り込んでいる。


綠水は、ずずっとお茶をすすりながらタクトが話し出すまで待ってみた。



「綠水さん!

いや…闇夜の鴉(ダークネスクロウ)さん!!」

タクトは意を決したように発した。


「は、はい?」

綠水は、突然のその声に少し驚いて、飲んでいたお茶にむせ返りそうになる。


「ソロプレイヤーではリリプラ最強と言われる綠水さんにお願いがあります…

仲間を…

俺の仲間を助けてください!」


「いや!オレ、そんな最強とかじゃないですよ?

ど、どうしたんですか?

ちょっと落ち着いて事情を説明してくださいよ…」

綠水は焦るタクトをなだめた。



タクトは、お茶を一気に飲み干し、ひと呼吸ついた。



「実は…」

タクトの口から、タヤユガで彼らに起こった一部始終が語られ始めた。



幼馴染みのギルメン達とタヤユガに潜っていたこと

タヤユガダンジョン5層で崩落に巻き込まれたこと

未知の6層を探索していたこと

そして…6層最奥で偶然にもレイドゾーンの入り口と思われる巨大な大理石の扉を発見したこと



そこまでの話は、エドの街で噂になっている内容どおりで、綠水も既に耳にしている内容だった。

改めて当事者から話を聞くと、彼らが間違いなく噂どおりの体験をしてきたというのが信じられる。



そして、そこから先、語られだしたのはタクトのパーティーの誰もが口を閉ざしてしまっている悪夢のような内容だった。

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