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狂信戦記(オリジナル版)  作者: SOL
第1章 Religious Planet
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第1話 【非日常から日常へ】

「死んでるように生きているって、きっといまのオレみたいなのを言うんだわ」


誰に話しかけるともなく、少年は呟いた。




「なになに?みーくん、病み期なの?

幼なじみの私が、あなたのお悩み聴いてやろ〜かぁ?」


少年の前を歩いていた少女が、冷やかすようにニヤニヤしながら振り向いた。




「誰が病み期だ、誰が!

大学なんかで時間を無駄にしたくないだけ!

早く帰ってインしたいんだよ、オレは」


ぶっきらぼうに少年は返した。




「あーね

みーくんReligiousリリ Planetプラにどハマリだからね〜」


「そういうこと!

つまらん講義を聴いてるくらいなら、装備強化用の素材集めをしたい!オレは忙しいの!」


我が意を得たりと応える少年を少女が不可思議そうに見ている。


「でも、そう言いながら、

みーくんて、宗教学とか哲学の講義は熱心に聴きにくるよね?

法学部なのに、わざわざ文学部にモグリしてまでさ?」


「まあ…そうだけど…」


少女の勢いに少年は口ごもる。



「いつも、神も仏も信じないとか言ってるくせに、前から疑問に思ってたのよね〜?

宗教学とか哲学とかって、そんなに面白いの??」


少女が少年の顔の間近までぐいっと近づきながら聞いてきた。



「いやいや、いやいや、

ちゃんと信仰心あるよ、オレ?

アマテラスに帰依してるよ?

そ、そんなことよりも、アカネお前、Religiousリリ Planetプラのレベル上げ進んでるのか?」


なんとか話を逸らせたかな?

と思いつつ、少年は早足で大学の校門の方へ向かった。



「レベル30で止まったままだよぉ…

そんなことよりも、アマテラスに帰依って?

それReligiousリリ Planetプラの話じゃん!

なんで誤魔化すかなぁ〜もお!!」


アカネと呼ばれた少女は本気で怒っているようだった。


「レベルカンストの期限って、確か今日までだったよね?私はもう諦めたわ〜

みーくん、私の分まで1周年イベント堪能してきてね!」


日々の生活がある中、専属自宅警備員でもなければMMORPGで最前線を張り続けるのは不可能で当然である。

専属自宅警備員でもないのに、それをやってのける連中はプレイヤー仲間から侮蔑の念と尊敬の念を併せ込めて“廃人”と称賛されるのである。



大学の話、ゲームの話、

幼なじみらは取り留めもない話で、会話の華を咲かせるでもなく、キャンパス内を歩いた。


校門を出たところで、アカネはバイトがあると少年に告げて、早足に去っていった。




台風みたいなヤツだなぁ…

まったく…


アカネが『みーくん』と親しく呼んでいた少年

緑川みどりかわ 龍水たつみ〜は、呆れながら思った。



「さて、オレも、そろそろ自分がるべき世界に帰るか。」


独りそう呟くと、少年は帰路を急いだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ただいま…」

緑川が自宅に着いたのは午後6時をまわった頃だった。

この季節、すでに太陽は西の地に沈みきっている。



緑川の自宅は東京都世田谷区の閑静な住宅街にある。

敷地面積100坪以上、いわいる豪邸の類のものであった。



緑川の両親は、10年前に不慮の事故で他界しており、いまは母方の叔父夫婦の元で育てられている。


叔父夫婦は都内で社員1000人規模の貿易会社を経営しており、多忙を極めているため、屋敷内にはほとんど毎日誰もいない。



ただいま…

を発した後に誰かの返事を期待する気持ちはもうない。少年は無言のまま2階の自室へ向かった。



家庭環境には恵まれなかったのかも知れない。

しかし、金銭面ではなに不自由ない生活環境を与えてもらっているわけで、叔父夫婦に対して何ら不満を待てようはずもなかった。



緑川は、自室へ入ると直ぐに自分のゲーミングマシンの前に座った。


次世代CPUに次世代グラフィックボード。

次世代高速SSDにモニタは240Hzの仕様。

キーボードにはもちろん高耐久メカニカルキースイッチが施されている。


最強のゲーム環境と言えよう。


緑川にとっては、それが最も大切だった。


彼にとっては、この世の環境は全て仮初めであり非日常。


彼の日常は、

彼の生は、

このハイスペックマシンを媒体とした彼方に在るのだから。



「やっと帰れる」

これから数時間が、少年にとっての紛れもない日常なのであった。

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