表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂信戦記(オリジナル版)  作者: SOL
第2章 異教徒割拠(上)
16/45

第15話 【冒険者会館】

“始まりの日”からはや3カ月が経過していた。



冒険者達の運命が大きく揺らいだ日


幕張のオフラインイベント会場での惨劇

その後の牛鬼との戦い

そして女神達との問答


誰が言い出すともなく“あの日”のことは、冒険者達の間で“始まりの日”と呼ばれるようになっていた。



“始まりの日”以降しばらく、冒険者達の間にはたしかに混乱があった。

それも次第に落ち着き、いま、表面上は一定の平穏に辿り着いていた。



あくまでも表面上は……




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




エドの街の冒険者会館は、日本マップで最大の冒険者会館だった。


リリプラ内での様々な冒険者支援を担う冒険者会館は、各サーバーの各国マップにある主要な街に置かれている。


Eastイースト Serverサーバーの日本マップでは、エド・ナニワ・キョウに置かれており、冒険者の登録と管理やクエストの発注といった業務を行なっている。


基本的には地方に冒険者会館はないが、一部の中核街にはその出張所が置かれているという、なかなかのユニバーサルサービスぶりだ。



冒険者会館の内部は、たいてい豪勢な造りをしている。


1階にメインロビーとクエスト掲示板に業務カウンター

2階には貸し会議室と多目的ホール

3階より上層はギルドルーム


このような造りが定番だった。


ギルドルームというのは管轄内の全ギルドに割り当てられる専用スペースで、達成クエストなどの貢献度によってその広さや設置階層が決められることになっていた。

トップギルドともなると、自然に上階層に広いルームを持つことになるため、冒険者会館内のギルドルームはある種、ギルドの権威を示す象徴となっていた。




---ドカッ!

革袋を5つカウンターに置いて、綠水は冒険者会館のスタッフに声をかけた。


「すみませーん!

換金お願いしまーす」



カウンターの奥から冒険者会館の女性スタッフがパタパタと慌てて駆けてきた。

「綠水様、お疲れ様でした!」


「リリアさん、アイテムの換金よろしくです」

綠水は女性スタッフに改めて依頼した。


「おおおっ!綠水様!

本日も荒稼ぎですねー」

リリアと呼ばれた女性スタッフは、目を白黒させている。


「荒稼ぎって…

なんか人聞き悪いなぁ〜

ここんとこ、ずっと白蛇の巣に潜り続けてたから、ちょっとは稼げたよ!

白蛇の牙は需要が安定してるから嬉しいね」


モンスターを倒した際に得られるドロップアイテムは様々な物の生産素材になる。

綠水が換金に持ち込んだ【白蛇の牙】は、MP回復薬(ポーション)の素材なので、金策効率のよいドロップアイテムと言えた。



「はい!

白蛇の牙5袋分で、金貨5枚と銀貨7枚です〜

銅貨8枚はちょっぴりオマケですよ!」


【白蛇の牙】の換金でそこそこの貨幣を得た綠水だったが、肝心な依頼を忘れかけていた。


「あ、そうだ!

リリアさん、こっちもだ!」


綠水は別のドロップアイテムを取り出してカウンターに置いた。


「よよよ、妖蛇の肝鉱じゃないですかっ!!」

リリアは声をあげて驚く。


「うん、白蛇の巣の帰り道で“主”に会っちゃって」

綠水は軽く答えた。


モブモンスターには“主”と呼ばれる存在がある。

“レアモブ”とも呼ばれる“主”はモブモンスターの親玉のようなもので、ごく稀に遭遇することがある。


その強さはモブ達の比ではなく、レベルが合わない冒険者なら脱兎のごとく逃げ出すのが得策ではあるが、レアモブは貴重なドロップアイテムを落とすために無茶をする冒険者も後を絶たない。



「妖蛇の肝鉱って、レアモブのレアドロップじゃないですか!」

リリアはまだ驚きが引かない様子だった。


「ほんと、ラッキーだったよ!

それで、これ、そっちで鑑定してオークションにかけてもらえないかなあ?」

綠水はリリアに依頼した。



冒険者会館の主な業務は、冒険者の登録と管理やクエスト発注だが、その他にもドロップアイテムの買取や鑑定、オークションの開催なども行う。

一部アイテムの販売といったアイテムショップの機能も有している。

他にはマイルームの仲介などという、現実世界における不動産屋のような業務も行なっている。


機能的には現実世界の【お役所】のような感じである。



「ここ1週間だけでも、相当の金貨を換金されてますよねー?

まったく、そんなにお金を貯めてどうするのですかー?」

リリアは鑑定手続の書類を作成しながら、無邪気に尋ねてきた。


「んーちょっとね…

あ、そうそう!

カナガワの縮地門しゅくちもんの在庫ってある?」

綠水は話を逸らすかのように、リリアに次の仕事を投げかけた。


「カナガワですか?

たしかあったと思います!

いまご購入されるなら倉庫を見てまいりますが?」


「うん、お願いするよ」


綠水が頼んだ【縮地門しゅくちもん】とは、リリプラ内における移動系の消費アイテムのことだ。

正式名称は【能縮地脈門のうしゅくちみゃくもん】と言うが、冒険者達は【縮地門しゅくちもん】または単に【もん】と呼んでいる。


縮地門しゅくちもん】は目的地へ一瞬で移動できる便利アイテムではあるが、任意の場所へどこでも自由に行ける!というわけではない。

飛べる先には一定の制限があった。


原則として目的地はタウンエリアに限られていること

飛べる目的地は使用者が一度でも行ったことのある場所であること


つまり、一度も足を踏み入れたことのない未知の街などには、いくら【縮地門しゅくちもん】を使用しても行くことはできないというわけだ。



---パタパタ、パタパタ


「すみません!綠水様!

在庫があると思っていたのですが、どうやらここ数日で完売してしまっていたようです…

まことに申し訳ないのですが、次の入荷も未定の状態でして…」

在庫確認から駆け足で戻ってきたリリアが申し訳なさそうに言う。


「あー

売切れかあ!

それは残念!」


縮地門しゅくちもん】は高額な消費アイテムではあるが、大手ギルドが遠征前などに、その財力にものを言わせて買い占めることがよくあるので、そういうときは次の入荷を待つしかない。



「綠水様、カナガワに遠征ですか?」


「んー

実は、レベル上げと金策を兼ねて、タヤユガのダンジョンに何日かもろうかと思ってるんだ」


「えええっ!?

タヤユガですか!?

いいい、いけません!綠水様!!」

リリアは思わず声を荒げた。


「あ…

申し訳ありません、大声だしちゃって…」

メインロビーにいた冒険者達が皆、何事かとリリアを見ている。


「大丈夫、大丈夫」

綠水は気恥ずかしくて苦笑しながら返す。


「でも…綠水様…

綠水様はソロなのに、タヤユガは少し無謀ではないですか?

差し出がましいようですが、きちんと安全マージンをとって…」


「ストップ、ストップ!

そんな深い層まで潜るつもりはないよ?

せいぜい4層あたりまでにするつもりだから大丈夫だって!」



タヤユガのダンジョンは日本マップで最大の地下ダンジョンと言われていた。


最も浅い第1層にはレベル10相当のモンスターが配置されていて、そこから1階層潜る毎にレベル10ずつ上がったモンスターが配置されている。


現時点では第5層が最深到達層と言われているが、いったい地下何層まで存在しているのかは公表されていない。


レベルキャップに合わせて順次階層が解放されるとか…

実は百層まであるとか…

隠しのレイドエリアがあるとか…


様々な噂があるが、真偽のほどは定かではない。



「ううぅぅ…

ホントですかぁ?

綠水様、なんかムチャなレベリングをしてるとかって、最近ウワサになってますよ?」


「ホント、ホント!

ムチャなレベリングなんてするわけないよ!

オレまだ命が惜しいもん!」

今にも泣き出しそうなリリアを説得するのに必死な綠水。



「ううぅぅ…

信じますよ?

ちゃんと帰ってくるんですよ?」


「わかってる、わかってるってー」


「なら、ヨロシイです!

能縮地脈門のうしゅくちみゃくもんですが、いまならクミルファス様のお店に在庫があるようですよ?」

やっと納得したリリアはコロっと仕事の顔に戻った。

それを見て綠水は苦笑いを禁じ得なかった。



リリアの言ったクミルファスとは、商業系ギルドのギルドマスターだ。

彼女のギルドには生産系、鍛冶系の主神に帰依した冒険者達が数多く所属しており、ギルド自前のビルを持つほど商売繁盛していた。



「うーん…

クミルファスの店かぁ…

あそこ高いんだよなあ…」

リリアの情報に渋い顔をする綠水。


「と言いましても、冒険者会館以外で能縮地脈門のうしゅくちみゃくもんを扱っているトコなんて、他にはありませんし…」


「だよなあ…

うん!

リリアさん、情報ありがとう!

ちょっと見にいってみるよ!」


綠水はリリアにお礼を言い、冒険者会館からクミルファスの店へ向かうべくきびすを返した。



「あ!

綠水様、前!」

リリアの声が耳に入ったと同時に、


---ドン!


きびすを返した綠水は、不意に男性冒険者にぶつかった。


いや…

周りの者には、男性冒険者の方から“わざと”ぶつかってきたように見えていた。



「おうおうおうおう!

レアドロの鑑定やらもんの購入やら、豪勢な話が飛び交ってるなと思いきや〜

これはこれは!

預流者の才(よるしゃのさい)サマだったか、だったか、だったっかー?

こりゃ失敬ぃ〜!」

何のつもりなのか、ふざけた態度で綠水を挑発する男性冒険者。


ところが、挑発に対して、日常茶飯事とでも言いたげに、慌ても怒りもしない綠水だった。



「はぁ…またか…」

綠水はウンザリした表情で小さく呟いた。

2017/06/16 17:37 ルビ位置調整

2017/06/21 20:10 文脈修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ