依頼
平日の昼間、スーツを着たサラリーマンたちで埋め尽くされ始めた大通りから、少し裏手に入った薄暗い路地に、こじんまりとしたカフェがある。都会の喧騒も、ここでは何のことやらと言うかのように、その店はひっそりとたたずんでいる。店主曰く、これでも夜は結構入るとのことだが、その言葉が真実であることを疑わざるを得ないほど、昼間は客がほぼゼロといっても過言ではない。というかランチタイムに、僕以外の客を見たことがほとんどない。しかし今日は珍しく、僕以外にも客がいた。
「それにしても、こんな場所にカフェがあったんですね。全然気づきませんでした。」お皿に盛りつけられたロコモコを丁寧に口へ運びながら、正面に座った津川さんはそう言った。
「僕もたまにしか来ないんだけどね。雰囲気が好きなんだ。あと静かだから。相談事にはピッタリでしょ。」僕はハンバーグを切りながら答えた。
このカフェはカウンター席が数席あるほかは、テーブル席が2つあるだけの本当に小さな店だ。従業員も顔なじみの店主一人だけである。ハワイアンな雰囲気を醸し出しているこのカフェは、大通りにあればおそらくすぐに満席になるだろうが、「少し裏手の薄暗い路地」にあるだけでこの様子だ。店主はというと、料理を出し終わって暇なのか、カウンターの奥で本を手にうとうとしていた。
「それで、相談したいことって?」そろそろ本題に入ろうと思い、僕はナイフとフォークを置いた。「普通の相談だったら事務所でもいいはずだろ?そんなに込み入ったものなのかい?」
津川さんは水を一口飲んでから僕に向き直り、静かに語りだした。
「えぇ。実は大和田さんに頼みたいことがあって。」そういうと彼女はカバンからスマホを取り出し、ある画像を見せてくれた。
「えっとー、これは何かな?」差し出された画像にはお墓が写っていた。よく見ると「飯島家之墓」と書いてあるのが分かる。「お墓なのは分かるけど、これが何か?」
「このお墓、私のおばあちゃんが眠っているお墓なんですけど。ここに注目してほしいんです。」そう言って彼女は供えてある花を指さした。「今見ていただいてる写真は、二週間前に母とお墓の掃除に行った時に撮ったものなんですが。」そう言うと彼女は画面をスライドして別の画像に切り替える。
「さっきと同じお墓だね。あ、でも供花が変わってる。」先ほどの画像に写っていた供花とは完全に色が違っていたのですぐに分かった。
「そうなんです。実はそれについてのご相談なんです。」
「えっと、つまりどういうこと?」
「あ、すみません。詳しく説明しますと、最初にお見せした写真は二週間前のもので。」そう言って画像一覧のページに切り替える。確かに二週間前の日付だ。
「こっちの画像は三日前のものなんですが。」こちらも確かに三日前の日付で間違いない。「三日前に父がお墓の様子を見に行った時に、このお花が供えられていたんです。その間、私たち家族は誰もお墓に行ってないのに、なぜかお花が変わっていたんですよ。」
「つまり、家族以外の誰かが変えた、と?」
「はい。そう考えています。実は今回だけじゃなくて、五年前におばあちゃんが亡くなってしばらくの間は特に何もなかったんですが、一年前ぐらいからこういうことが起き始めて。はじめは親戚の人が変えてくれてるのかなって思ってたんですけど、聞いてみたら皆違うって言われて。