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失せ物

作者: ParticleCoffee
掲載日:2016/09/14

 電気を消して、カーテンを閉める。

 真っ暗になった部屋、ボクはその中心に立つ。

 スポンジの耳栓を指でつぶして耳へと入れた。

 なにも見えず、なにも聞こえない。

 真っ黒な世界にひとりきりになる。

 腕を伸ばし、部屋にある手近なものにふれてゆく。

 ベッド、壁にかけた制服、デスクチェア、そして、勉強机――

 そこで腕の動きがとまった。

 机のうえに手を乗せ、ゆっくりと滑らせてゆく。

 乱雑に並べた本、携帯電話のコード、文具立て――

 慎重に手のひらでなぞってゆくと、机に備えつけられた小さな引き出しで手が止まる。

 ここだ――

 ボクは目を開いて電灯のヒモを引き、引き出しのなかを見た。

 ペンやスティックのり、シャーペンの替え芯、消しゴムや修正テープ。大量の文房具がゴチャゴチャと詰め込まれている。

 そんな中をかき分けると、ボクが探していた携帯ゲーム機のタッチペンを見つけることができた。

 ボクはこうして、物がなくなった時や、どうしても見つからない時に、『失せ物探し』をする。

 探している物に近づくと、なにかに引かれるようにして、手や腕が自然と動かなくなるのだ。

 ダウジングに似せた、ボクのオリジナルの方法だ。

 ときどき、外出先で失くしたはずのものまで部屋で見つかることもある。

 気味が悪く思いつつも、便利さには勝てず、あまり深くは考えないようにしていた。

 ある朝、カードケースをどこかへやってしまった。

 通学に必要な駅のICカードが中にはいっている。

 すぐに見つけなければならない、見つけられなければ遅刻は確定だ。

 朝日の差し込む窓を閉めて、カーテンを引くと、いつものように『失せ物探し』をする。

 耳栓をして真っ暗な部屋の中央に立ち、ボクは目を閉じる。

 まずはベッドに手を伸ばす。

 伸ばした腕は空を切った。

 ――ない?

 驚きつつ、腕を振り、腕を伸ばしてベッドを探す。

 それでもベッドに触れることはできなかった。

 ――たしかにこの方向にあったはずだが……

 考えている時間はない、カードケースを見つけることが先決だ。

 不思議に思いながらも気を取りなおし、ボクは一歩進んだ。

 カベに手を伸ばす――が、ない。

 たまらず、ボクは目を開いた。

 光のない真っ暗な部屋、いそいで電灯のヒモに手を伸ばす。

 部屋の中央に垂れ下がっているのだから、すぐ目の前にあるはず。

 そこには、やはり、なにもなかった。

 こんなことは初めてだった。

 ここが自分の部屋とは思えず、この自分を包む暗闇が恐ろしいものに思えてきた。

 ヤケになり、大きく横なぎに思い切り腕をふるう。

 なにかにぶつかれば怪我はまぬがれない。

 そんなことを気にしている余裕はなかった。

 ――なにかに当たれ!

 そう願っても、なににも当たらない。

 ブンブンと腕を振り回していると、ふいに腕になにかが絡まった。

 いや、つかまれたのだ。

 ボクの右手首を、なにかに、ダレかに、強く握られている。

 逃れようと、全身を使って激しく腕を振り回す。

 それでも離れず、逆の手で引きはがそうとするが触れることもできない。

 どうにも無駄な抵抗だった。

 ボクの全身が恐怖で固まる。

 なにかが、腕をはい登ってきた。

 なにかが、肩にまで到達した。

 なにかが、耳元でキシキシと嫌な音を立てた。

 その時――

 バンッ

 と、叩きつけるようにドアが開かれた。

 外からの光が差し込み、室内が一気に明るく照らされる。

 ボクは、始めたときと同じ、部屋の中央に立っていた。

 ボクの肩をつかんでいたものは、ボク自身の左手だった。

 糸が切れたように、ボクはひざから崩れ落ちる。

 開け放たれたトビラへ目を向ける。

 そこには、壁に身体だけを隠した人間の手が見える。

 手には、ボクの探していたカードケースがにぎられている。

 いまのボクにはその正体を確認する勇気はない。

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