失せ物
電気を消して、カーテンを閉める。
真っ暗になった部屋、ボクはその中心に立つ。
スポンジの耳栓を指でつぶして耳へと入れた。
なにも見えず、なにも聞こえない。
真っ黒な世界にひとりきりになる。
腕を伸ばし、部屋にある手近なものにふれてゆく。
ベッド、壁にかけた制服、デスクチェア、そして、勉強机――
そこで腕の動きがとまった。
机のうえに手を乗せ、ゆっくりと滑らせてゆく。
乱雑に並べた本、携帯電話のコード、文具立て――
慎重に手のひらでなぞってゆくと、机に備えつけられた小さな引き出しで手が止まる。
ここだ――
ボクは目を開いて電灯のヒモを引き、引き出しのなかを見た。
ペンやスティックのり、シャーペンの替え芯、消しゴムや修正テープ。大量の文房具がゴチャゴチャと詰め込まれている。
そんな中をかき分けると、ボクが探していた携帯ゲーム機のタッチペンを見つけることができた。
ボクはこうして、物がなくなった時や、どうしても見つからない時に、『失せ物探し』をする。
探している物に近づくと、なにかに引かれるようにして、手や腕が自然と動かなくなるのだ。
ダウジングに似せた、ボクのオリジナルの方法だ。
ときどき、外出先で失くしたはずのものまで部屋で見つかることもある。
気味が悪く思いつつも、便利さには勝てず、あまり深くは考えないようにしていた。
ある朝、カードケースをどこかへやってしまった。
通学に必要な駅のICカードが中にはいっている。
すぐに見つけなければならない、見つけられなければ遅刻は確定だ。
朝日の差し込む窓を閉めて、カーテンを引くと、いつものように『失せ物探し』をする。
耳栓をして真っ暗な部屋の中央に立ち、ボクは目を閉じる。
まずはベッドに手を伸ばす。
伸ばした腕は空を切った。
――ない?
驚きつつ、腕を振り、腕を伸ばしてベッドを探す。
それでもベッドに触れることはできなかった。
――たしかにこの方向にあったはずだが……
考えている時間はない、カードケースを見つけることが先決だ。
不思議に思いながらも気を取りなおし、ボクは一歩進んだ。
カベに手を伸ばす――が、ない。
たまらず、ボクは目を開いた。
光のない真っ暗な部屋、いそいで電灯のヒモに手を伸ばす。
部屋の中央に垂れ下がっているのだから、すぐ目の前にあるはず。
そこには、やはり、なにもなかった。
こんなことは初めてだった。
ここが自分の部屋とは思えず、この自分を包む暗闇が恐ろしいものに思えてきた。
ヤケになり、大きく横なぎに思い切り腕をふるう。
なにかにぶつかれば怪我はまぬがれない。
そんなことを気にしている余裕はなかった。
――なにかに当たれ!
そう願っても、なににも当たらない。
ブンブンと腕を振り回していると、ふいに腕になにかが絡まった。
いや、つかまれたのだ。
ボクの右手首を、なにかに、ダレかに、強く握られている。
逃れようと、全身を使って激しく腕を振り回す。
それでも離れず、逆の手で引きはがそうとするが触れることもできない。
どうにも無駄な抵抗だった。
ボクの全身が恐怖で固まる。
なにかが、腕をはい登ってきた。
なにかが、肩にまで到達した。
なにかが、耳元でキシキシと嫌な音を立てた。
その時――
バンッ
と、叩きつけるようにドアが開かれた。
外からの光が差し込み、室内が一気に明るく照らされる。
ボクは、始めたときと同じ、部屋の中央に立っていた。
ボクの肩をつかんでいたものは、ボク自身の左手だった。
糸が切れたように、ボクはひざから崩れ落ちる。
開け放たれたトビラへ目を向ける。
そこには、壁に身体だけを隠した人間の手が見える。
手には、ボクの探していたカードケースがにぎられている。
いまのボクにはその正体を確認する勇気はない。




