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行方不明の親父が異世界で『魔王』をしてたので、息子が『勇者』となって倒しに行く話

作者: ゆいらしい

主人公は『母さん大好きっ子』なので、殆ど勇者らしい仕事はしません。

完全に親父を殴ることを目的に勇者やってます。

「魔王……待ってろ。

今すぐブッ倒してやらぁ!!」


 俺は、異世界から召喚されし勇者。目標は、魔王を倒すこと。…むしろ、その為だけに勇者をしている。異世界から召喚されただけの勇者が何をそんなにムキになっているか?


ーその魔王は、母さんと俺を残して家を出て行った行方不明の親父だったからだ。ー





「勇者様、どうか魔王に乗っ取られたこの国をどうか救って下さい!」


いきなり、召喚されて言われたその言葉。ぶっちゃけ、最初はどうでも良いと思った。さっさと、母さんが待っている家に帰りたいと思った。


でも、あんまりにも相手が必死だったので、一応話を聞いてみると、どうだ……俺の親父の特徴と丸かぶりじゃないか…!!


母さん曰く、俺の顔は父さんとそっくりらしい。



悪いけど、村人を助けるとかそーゆーのはどうでもいいが、俺は、親父をブッ倒す為に勇者をやることにした。




一応、自己紹介をしておこう。

俺の名前は、桐谷信夜きりたにしんや。普通の高校生。家族構成は、俺と母さんの2人。


母さんは、病弱ながらも俺を1人で育ててくれた。だから、俺は母さんを心から尊敬している。優しくて、一生懸命、いつも笑顔で弱音を吐かない。本当に母さんは尊敬する所がいくつもある。………“人を信じる強さ”……それも、母さんの長所で、普通なら褒められるべき所であるはずだ。しかし、だ。それは、俺にとって疎ましいものでしか無い。

何故ならば…




「シンちゃん

浩二さん……お父さんは、何処かで困ってる人を助けているのよ。お父さんはね、困ってる人を見捨てられない性格なの。………勿論、シンちゃんに困ってた事が起きたらすぐにシンちゃんを助けに来てくれるわ!


だから、

お父さんの事を信じて待っていましょう?」


聞き飽きたそのセリフ。


俺の親父で現在魔王をしている桐谷浩二きりたにこうじは、もう何年も前に行方不明となった。しかも、元から病弱だった母さんが最も発作に苦しんでいた時に、だ。


母さんの病気は、原因が不明で、医者にはお手上げとされている。今は落ち着いているが、それでも長くは生きられないとされている。


……そんな母さんを残して、何年も行方不明でいる親父を、それでも信じて帰りを待っている。


それが、母さんの唯一嫌いな所だ。


 そして、今日、それが爆発してしまった。


「親父は、もう帰って来ねぇーよ!何で、母さんは、あんな奴の事をずっと信じてるんだよ!?」


そう怒鳴って、家を飛び出した。



そして、家から30分位先の所まで走った。とにかく走った。

そして、漸く立ち止まった時、


「誰かぁぁぁぁぁあ!あの子を助けて!!」


女の人の悲鳴が聞こえた。

子供が車に轢かれそうになっているらしい。……多分、女の人はあの子の母親だろう。


……俺は、気が付いたら子供を助けようと、子供の方へ走っていた。

きっと、走り過ぎて、頭が正常に回って無いのだろう。








あれからどれ位だった?







目が覚めると、俺は異世界にいた。

…こうして、冒頭に戻るわけだ。


 …と、まぁ、話している間に漸く魔王城付近の村についた。見渡しても殆ど人がいない。手入れもされず荒廃している。……きっと、俺が通り過ぎた村々もこのような状態だったのだろう。

あいにく、魔王を倒すのが目的なだけの俺は、始まりの城からここまで一切の寄り道をせず、助けを求める村人の声を無視して、隠れてる魔物もいちいち倒さなかった。もちろん、俺のに正面きって戦いを挑んだ魔物は潰した。


俺は、シングルマザーという環境から虐めを受けることが多かった。怪我ばかりしていた俺を母さんが心配してくれてたので、

俺は母さんを不安にさせない様に、鍛えて強くなった。正直あまり良いことでは無いが、ケンカは得意だ。…それで怪我は殆どしなくなった。(やられる前にやるから)




早く、母さんの元に帰らなきゃ…

俺がいないと母さんは1人になってしまう。





 魔王城についた。

流石に魔王城内は、戦いを挑む奴らが多かった。でも、早く家に帰るのに必死な俺はさっささっさと進んで行った。


 そして、やっと……


「……!……その顔……信夜か?」


驚いていて、少し悲しそう、そんでもって嬉しそうな複雑な表情をした。


「久しぶりだな、親父。

どうだった?俺と母さんを残して魔王してるのは…?」


そう言うなり、親父をブン殴った。

親父は避けることをしなかったので、吹っ飛んでいった。


だが、これだけでは足りない。

親父の元に向かいながら、俺は尋ねる。


「どうして、母さんを残した?

母さんが病弱なのを知っているだろ?…母さんは、母さんはお前をずっと信じてる!なのに、何故親父は魔王なんてやっているんだ!?

いや、別に魔王でも何でもやれば良いさ。他の奴らを不幸にしたって構わない。でも、お前を信じている母さんを不幸にすることは無いだろう!?なぁ……!何でなんだよ!?」


言い終わるやいなや、

もう一度、親父を殴った。殴った。殴った。殴った。殴った。……





あぁ、脆い。





……何で親父は反撃もせず、大人しく殴られているんだ?

……何で、さっき俺にやられて弱り切ってる奴らが親父を助けようと俺に纏わり付いてくるんだ?


「止めて下さい!

魔王様は私達の為に苦しんでいるのです。」


何を言っているんだ?

私達の“為”?



「しん、や……俺は父親としてお前にはすまないことをした…


だが、


俺は息子よりも、最愛の妻の方が大切だったんだ……」



親父は、息絶えながらも喋る。

……どういうことだ?


親父は、俺にやられて肋骨を折っただろうに必死で立ち上がり


大切に育てられているであろう

花を俺に差し出した。


「これは……『病死花』


これがあれば、母さんの病気が治る。」


呆然としている俺に魔物が説明した。


「魔王様は、奥様を助ける為にこの『病死花』を得る活動を行っていたのです。勿論、私達魔物はどんな理由であれ魔王様に従って村々を荒らしてその花を見つけました。……しかし、村々を荒らした結果、当然王国は我々を倒そうと勇者を派遣します。魔王は、そんな中、我々を置いていけなかったのです。


奥様を助ける『病死花』を得ることが出来たのにも関わらず、我々の為にこの世界に残っていてくれたのです!」



母さんの為?

母さんを守る為にこの世界で魔王を始めたの?じゃあ、もう元の世界に戻れば良いじゃないか……そんな奴ら置いてさっさと……


『お父さんはね、困ってる人を見捨てられない性格なの』



母さんの言葉を不意に思い出した。

あぁ、こんな人だから母さんはこの人を信じて…好きでい続けたのだろう。……これが、俺の親父なんだ。









「そういえばさ、

今は魔王業的に何やってんの?」


元の世界に帰る前に、なんとなく聞いてみた。


「あー、今っていうより、これから人間と魔物とを親睦を図りたいと思ってる。」


「へー。まぁ、無理だろうけど。」


「なっ…おま、なんてことを…!」


「いやだってさー、親父、村をめちゃくちゃにしちゃったじゃん?

あ、もちろん、それは母さんの為だから全くもって仕方ないことだけどさ。」


「…………


……人を困らせた俺が言うのもなんだけど、きっと魔物と人間の力を合わせれば、多くの困ってる人を救えると思うんだ。


だから、今は無理でも、何十年かけてでもきっと実現させてみるよ。」


「ふーん。ま、頑張って。

俺は母さんさえ幸せならそれで良い。」



苦笑いをしながら、親父は


「お前は、本当に俺に似ているな。」









「シンちゃん?」


 目を覚ますと、俺は病院のベッドで寝ていた。どうやら、車に轢かれそうになった子供を助けたは良いが俺が入院するはめに合ったらしい。


「シンちゃん…無事で良かった。」



俺はびっくりした。

親父にいなくなられても、どんなことがあっても泣かなかった母さんが、今、泣いているのだ。



「シンちゃんにで、いなくなったら…私…!」


「…母さんは、親父がいなくなって寂しかった?」


「もちろん寂しかったわ。

でも、シンちゃんがいたから…

シンちゃんがいたから、浩二さんを信じて待っていられたのよ。」




 俺は、今まで、母さんは無条件に親父のことを信じているのかと思った。でも違った。


「ねぇ、母さん聞いて?

俺、今すっげー夢見たんだ!

何がすげーって親父が出て来たんだぜ?」


…きっと母さんなら、この夢の結末を聞いて笑って、むしろ、誇らしげにしてくれるに違いない。

手に掴んでいる花を握り締める。


「まぁ、それは楽しみだわ!」








これから母さんは

親父の成功を信じていくのだろう…














主人公は、浩二さんが成功するとは特に思っていません。「成功すると良いな」程度です。嫌いじゃなくなったけど、凄く好きという訳でも無い。『お人好しだなー……でも、そこに母さんは惹かれたんだろうな。』と結構他人事の様に考えているのです。むしろ、基本的に母さん以外他人。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後に、親子間の誤解が解けてよかったです。 お母さん、女性として尊敬します。 病弱なのに、とっても素敵な方ですね。 この先、親子仲良く暮らせる日が来ればいいのにと思います。
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