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よくある日常――上級官吏の苦悩

 * * *


「あっ」


手から、本がすべり落ちていく。

下に、陛下がいる。


其の先は、言わずもがな。


「紫―――――――――――!!!」






「官吏!聞いて下さいよ、陛下が抜刀したんですよ!」

「・・・・はぁ」

「官吏、こいつに書物の持ち方を一から教えてやれ。書物を好きと云いながら落とす莫迦がいるか」

「・・・・・はぁ」

「もう直ぐ私殺されるところだったんですよ!!何か云ってあげてくださいよ!!」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

「我に愚民が書物をぶつけたんだぞ、王がこのような仕打ち赦される訳ないよな?ないよな?ないな。今直ぐ処刑台へ連れて行け」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」


二人に詰め寄られます。はい。

王と最近何処からかやってきた、紫と名乗る少女。

何故私が此の二人の板挟みにならなくてはならないのでしょうか。


「先ず、紫様。話を聞くからに先ず書物を陛下にぶつけてしまった事が今の現状の一番の原因です。謝りましたか?」

「謝りましたよ!だってぶつけちゃったんですから、ちゃんと謝罪したのに陛下が怒るんですよ!!」

「じゃあ、つまり王は謝られたのに、抜刀したわけですか」

「どれほど重たい辞典をぶつけられたと思って居る。幼子だったら死んで居る重さだ。ごめんですむなら此の世界は不要だ」

「・・・・・・・・・はぁ」


深い溜息をまた吐く。

どっちもどっちというか、くだらなすぎる。


「・・・・・・じゃあ、じゃんけんでどちらが悪いか決めて負けた方がもう一度謝れば良いんじゃないですか」

「私もう謝りました」

「何故我が謝らねばいかん。我に非はない」

「・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、もう此のまま万事解決じゃいけないんですか」

「謝ったのに抜刀してくる陛下に公平な裁きを私はお願いしますよ」

「謝罪すれば何でも許されるという甘い考えを持った此の女をどうにかするまでは万事解決などするものか」


何故私に其れを云いますか。二人で勝手にやって居てくださいよ。

此方は書類仕事がたまっているんですよ二人とも聞いて居ますか。


「そもそも陛下が私に本を取らせたのが悪いんですよ!こんなにいたいけな少女に!!」

「お前が書物を読みたいと云ったのだろう!!」

「あんな大きなもの持てる訳ないじゃないですか!!」

「ならば先に云えば良かっただろう!!」

「あのですね、陛下、」


一度呼吸を整え始めた紫様に、やっと冷静に考えるということを覚えたのだと涙を流そうとハンカチを取り出した。


「あんなに大きいかなんて誰が思うか!」


直ぐにハンカチをしまって、耳を塞ぐ。

紫様、とうとう敬語まで外されて。


「我の所為にする気か愚民が!!!」

「其の通りでしょうが女子にあんなもの持たせるんじゃない!!」

「誰が女子だ誰が!!」


此れでは、私の此れからの仕事が滞りなく進まない。

私の、今すべきこと。


「失礼します」


頭を下げて、そそくさと退室する。

逃げた訳ではない。断じて。




最近、王は明るくなったというべきか、人が変わられた。

先代の王と妃が亡くなってからずっと義務的に仕事をこなして居ただけだったのに。

良い事なのだろうか。

義務的にこなして居たら、おさえられたかもしれぬものを。

彼女の存在は、どちらかといえば、凶だ。

きっと王は、先代の王の様に死にゆく。

そして彼女もまた、先代の王の妻の様に、死んでいく。


「官吏、王を知りませんか?」


己の執務室での記憶がよみがえってきて、耳が壊れそうで直ぐに記憶に蓋をする。


「知りません。何処にいったのやら。」


私はまだ終わって居ない仕事がある。

王と紫様の所為で被害者が出て此方に迷惑がかかるのは御免だ。


 * * *

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