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chapter.7

 * * *


「人多いですね」

「王立都市だからな。はぐれるなよ」


手首を掴んでいた陛下が指をからめた。

わざわざ恋人繋ぎの意味が不明だけれども此れなら逸れない。


「あれなんですか」

「本屋」

「あれは?」

「写真屋」

「あの黒い店は?」

「芥特殊専門店」


どんな店なのだ其れは。

気になるけれど、でも入りたくない。


「あれは?」

「ドルチュカの店」

「ドルチュカ?」


食べ物の名前なのだろうか、初めて聞きとれた。


「有名な飲み物の名前だ。お前いい加減にしろ我を案内係と思って居るのか」

「え?そりゃあそうですよ――」


口づけられた。

人前で。

街の中で。


「我が、なんだ?」

「・・・何でもないです」

線が凄い。

恥ずかしさから顔が紅くなるのが自分でもわかるけれど陛下は知らんぷりだ。悪魔。


「陛下・・・何処かお店入りましょうよ」


今道を歩ける自信がない。


「そうだな。最近問題視されて居る店でも寄ってみるか」

「嘘でもデートなんだからオブラートに包んでくださいよ!」

「最近色んな意味で有名な店があるからいくか」

「遅いです」

「拗ねるな。後で何か買ってやるから」


もので釣ろうったってそうはいかない。


「本」


別に赦した訳じゃない、違うのだ。


「失礼な奴だ。此の世界の書物は凡て我が持っている」


凄い。では本を買っても意味がないのか。

じゃあ何も買ってほしいものはない。残念だ。


「女らしく装飾品は欲しくないのか」

「・・・あまり」


似合わないし変な云い方だが綺麗な物は怖い。

裏路地に入り、また変な道を抜けて怪しげなバーらしき場所に直面する。


「陛下・・・?」


入るぞと手を引かれて絶対にデートと呼ぶにしてはおかしい場所に入る。

デリカシーがなさすぎる。


「・・・・・・・いらっしゃい」


暗闇の中から現れたのは無精鬚の中年男性。やる気がない店員。


「実は北の方の出身で初めて王立都市(ここ)に来て早速迷ったんだが此処は何屋だろうか」

「北の出身?にしては鈍ってねぇ標準語を喋ってんじゃねぇかよ」

「母が此処等の出身なんだ」


あっさり納得した男性。

此の人はよくもこんなにもあっさりとぺらぺらと。

キャラも変わってるし。


「初めての奴なら特別に教えてやらぁ

此処は情報の売買をする店だ。金さえ出せば誰にだって情報を売る。

お前さんも職場に困ったら来いよ。身の安全は保証出来ねぇが割りは良いぜ」


陛下に対して何を云う。

一番割が良い仕事の気がする陛下。此の世界の王。


「覚えておこう。一つだけ、此の世界の王をどう思う?」

「さぁ?俺みてぇな屑には無縁だからよ。

でも噂によれば若ぇのに頑張ってるらしいじゃねぇか。俺とは大違いだな」


見た目に反して良い人。

職場斡旋、陛下激励。

さて、陛下はどうでる。


「・・・・・そうか、では何か尋ねたいことがあったら此処に来るとしよう。親切に感謝しよう。行こうか」


見た事無い優しそうな笑みを此方に見せた。俳優顔負けの演技だ。


「へぇ、あんた女が居たのかいやっぱあんたみたいなやつには美人しかよってこねぇのかい」

「幼なじみなんだ。では失礼する」


あっさり見送った中年男性に吃驚する。こういうのって殺されたりしないのか。


「なんだ、普通の情報屋か」

「嘘つき」

「王として取り締まりに来たなんて云ったら面倒だからな」

「つい最近会ったばかりなのにね。」

「我からしたらあまり時間は関係ないな。お前の事は大体判った。変人。非凡以上」


私が一番嫌いな言葉だ。

非凡、変人、普通じゃない。

私は普通が大好きだから。


「全然判ってません。でも私は陛下の事判りましたよ。陛下は意地悪です」

「意地悪、か」


そうだなと嗤って陛下がまた口づけた。周りに人が居ないのが救い。

本当、意地悪だ。


「我は若いのに頑張る此の世界の王ぞ?口に気をつけろ」

意外と調子に乗るんだ。


「偉いですねー、流石です」


睨まれながら、狭く暗かった路地から大通りに出る。矢張り人が多い。


「陛下、雑貨屋さんみたいです」

「意外と女子だな」

「五月蠅いです」

「ならば其の唇で塞いでみたらどうだ?」


流石に人前で口づけなんてするものか。

あの陛下が下僕と称した黒猫が大きなぬいぐるみになって飾られた店に入る。

こんな処入りたくないと嫌な顔する陛下は無視。


「あ、此れとか可愛いですよ」


鎌を持った黒猫を陛下に見せる。どうやら此の店は黒猫グッズが中心らしい。


「欲しいのか?」

「いえ、そういう訳じゃないです。可愛いなって」

「欲しいなら欲しいと」

「いえ、別に本当に欲しくないですし」

「おい、此処の店のもの凡て城に―――」

「ちょっほんとストップですやりすぎです!」

「お前が正直に云えば良いのだろう」


本当に欲しい訳ではないのだが。

何故人の発言をはいそうですかと信じないのだ。

一応優しいのだろうけれど、度が過ぎている。


「じゃあ、陛下が一個だけ選んでください」

「一個?別に凡て買えば良かろう」

「そんなに持って居たら大切さが損なわれるでしょう?私は一個で良いですよ」


そうかと今度は意外とあっさり頷いた陛下。今まではなんだったの。


「此れはどうだ?禍鈴だ」


見せられたブレスレットだろう、黒い鎖に猫の形の大きな鈴が一個。


「じゃあ、其れで」


そうかとまた頷いた陛下がレジにだろう、運んで行く時に何故か鈴の音が聞えない。

あれほど大きな鈴だから大きな音で鳴るのかと。

にしても、衣食住支えてもらって居てプラスでなど申し訳ない。嬉しいは嬉しいけれど。何か出来れば良いのに。


「紫」


また珍しく名前を。

手に付けられた禍鈴に礼をいって腕を振ってみるも矢張り此の鈴はならない。


「不良品」

「阿呆。禍が生じた時にだけなる鈴だ」


凄い。不良品扱いごめんなさい。


「陛下、有難う。あとはスイーツ食べて本屋行こう」

「別に何度でも来れるのだからそう急かさんでも良いものを」


溜息を吐く陛下は行き慣れて居るのだろう。其れでも此の世界の街は私は初めてだ。もっと見たい。


「少し訂正。陛下はちょっとだけ優しい」


ちょっとかと笑う陛下とまた指をからめると恋仲みたいな感じがして微妙に恥ずかしい。

惚れさせてやるまでは、好きになんかなるもんか。






外は本当に広かった。

仕事口は多そうだ。ただし陛下が一人で外に出してくれるとは思えない。困った。

けれども仕事はしたい。

結局欲だが、給金をもらって此の部屋中を黒猫でいっぱいにしたい。

あのぬいぐるみは欲しい。大きくてふわふわしてそうだ。

女子のようなピンクい部屋をつくりたいわけじゃないが。


「陛下、働きたいのですが」

「逃げる心算か。他世界の者を野放しにするわけにはいかない」


逃げる心算など別にないのだけれど。

珈琲を運んだ時に一区切りがついたという陛下と本当に座り心地の良いソファで雑談に等しい会話。此の世界の王なる人と何をやってるんだろう私は。

もう少し働きたいという主張をしたいが不機嫌オーラを放った陛下には此れ以上云わない方が良いだろうか。


「陛下はいつになったら私に惚れてくれるんですか?」

「そんな発言しなくてはいけないうちは惚れんな。」


む。ではあとどれ位で惚れるのだ。

負けるのは嫌だな。

死ぬのは嫌だ。


「お前はどうだ?我に惚れたか」

「いえ、全然。」


生意気だと笑いながら何故か口づけをうける。


「されているうちはまだまだだ」


自分から口づけられるようにならない限りは惚れないという事か。

別に出来ない訳じゃないが率先してやれるものでもない。


「明日は、部屋から出るなよ」


出るなと云われると出たくなるのが人間だ。




朝。


またも気分の悪い、というか身体に悪い起こし方をした陛下に今日は部屋から出るなとまた忠告をくらう。

なんなのだ。

居なくなった陛下に着替えをはじめながらどうせ部屋の前に監視がつ訳じゃないと陛下の言葉を軽く見過ぎていた。




「・・・外、出してください」

「王に出すなといわれて居ます」

「でも、此処って王以外立ち入り禁止ですよね」

「今日のみ、特別です」


今日はイベントか何かあるのか。


「あの、陛下から何も聞いて居ないんですが今日何をするんですか?」

「王から何も聞いて居ないのなら、其れが一番なのでしょう」


陛下信者め。

ありがとうございましたと扉を閉めてベッドに倒れこむ。

いっそ此処は、飛び降りる。

此処は窓がないと前陛下に云ったのだが実は壁で隠れていただけで本当に判りづらいものが存在した。

綺麗な景色。

其処から見ていると、此の今居る部屋がどれだけ高い処に在るかよく判る。

飛び降りて生きて帰れるわけがない。

でも井戸から飛び降りて生きていたのだから、いけるかもと飛び降りようとした瞬間頭を後ろから鷲掴みにされて其のままUの字に柵のついた其処から落ちそうになる。

心臓に悪すぎる。怖い。


「・・・・・・何するんですか」

「逃げようとしたのだろう?罰だ」

「だって何してるか教えてくれないじゃないですか」


タイミングがよすぎる。もうずっと見張ってたんじゃないかというくらいに。


「お前に教えたところで利益はないからな」


損得で判断するなと怒鳴りたい。

そしていつになったら此の手を離す。


「陛下の莫迦」

「手を離すぞ」

「ゴメンナサイ」


いきなり後頭部の痛みがなくなったと思うと前のめりに倒れて、今度は腰にある手に文句を云いたくなる。


「変態」

「こうでもしなきゃ落ちていたぞ」


他に方法があるだろう。云いませとも。


「其れは其れは誠に感謝。どうも有難うございました。もう終わりました?」

「終わった。次は一ヶ月後。面倒だな」


定期的にあるもの。

其れであまり見せる気がないもの。

直ぐに終わるもの。

何をして居るのだろう


「陛下。眠いですね」

「そうか?」


実はあまり眠くはない。

なんとなくいってみただけといいますか。


「寝るか?お前が枕で」


どう寝ろと。


「兎に角、寝るから陛下は出ていってください」


判ったとあっさりでていった陛下に気分が良いのかと少し意外に思った後、寝ると云った手前ベッドに横になる。

意外と眠たくなってくるものだ。

どうせ食事ももう少し後だしと目をつぶる。


何故だろう、家族の顔があまり思い出せない。

私はそんなに軽薄な奴だっただろうか。


 * * *

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