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chapter.4

 * * *


矢張り、私が行動出来る範囲が少なすぎる気がする。

確かに、廊下と一言で云っても此の廊下には何十もの広すぎる部屋が並んで居る。

だが、そういう問題では無い。

自然も見れない人も居ない閉ざされた世界。

文句は言えない。

いきなりやってきた私を此処までしてくれたのは陛下だ。

どうしてだろう、こういうとき普通なら親は心配してないかなとか友達は元気かなとか思うのに。

何も思わないや。

家族や友人に対する情がないみたいに。

いや、そんな筈ないのに。

普通に、私はそういう感情を持って親に感謝して友達と喧嘩しながらも仲良くして。

・・・・・・・・疲れた。


よく判らないけれど、多分私は突然いろいろありすぎて焦っているのだ。

一度、自分に起きたこと、判っている事を書き出して整理でもしてみようか。

そしたら、少しは楽になるかもしれない。

そうと決まれば陛下の処に紙とペンを借りにいこう。

もらった部屋には、ベッドと誰のか判らないくせに妙にサイズがぴったりの豪華な服しかないのだ。



4つ隣の部屋、と云ったがそんな説明なくとも判るほど他の部屋の扉とは違うオーラが。

お、怒っていらっしゃるのかな・・・?

きっと仕事がうまく云って居ないんだろう。

国の王ともなれば大変だ、陛下。

こんな時にあんまり大事な用なく入っていいかは判らないけれど矢張り頭の中を整理したい気持ちもある。


二回ほどノックをするととっとと用件を済ませろ、と矢張り怒っているのだろう怒気を含めた声で告げる。

失礼します、と入ると床に紙が広がって居た。


「何此れ」


一枚を拾ってみてみるとわんやかんや訳のわからない事を並べた文字。

よ、読めない・・・・・

英語も日本語も通じたから言語は統一されてると思ったけれど、違ったのか。

いや、若しかしたら地球のギリシャ語とか地方の文字とか私が知らないだけもあるかもしれない。

が、さっぱり読めない事に変わりはない。

拾える分だけの紙を拾った後、陛下の居るだろう机に近づく。


「陛下――?」

「・・・なんだ」


ぎろり、と睨まれた。

顔立ちが言い分、睨まれると割増しで怖い。

何をこんなに怒っているのか。


「何か用か」

「用ってほどじゃないんですが、紙とペンを借りに。」

「本を読むのでは無かったのか」

「頭がこんがらがってるから整理しちゃおうと思いまして」

「ああ。単細胞で頭がでかい割に脳味噌が小さそうなお前からしたら大切な事だろうな」


・・・やつあたり反対。


「何をそんなに怒ってるんです?」

「お前に関係ない」


正論ですけどならやつあたりやめましょうよ。

万年筆らしき筆がガンガンと机に押し付けられ過ぎて先が歪んでいる。


「・・・おせっかいかも、ですけど無理はしない方がいいですよ」


じゃないと、私にやつあたってくるのだから。


「・・・・・・無理するな?貴様は変わったことをいう」


人の心配をすることの、何が変わっているのだろう・・・・・・そして何度も云うが人なのだろうか。


「王、である以上自分の身を砕き国民の為に尽くすのが当然、そういう考えだ」

「誰が?」

「国が」


国に意志など無い。

ようするに、国民達が望んでいるのだろうか。

身を砕いて働くのが当然、なんて。

若しかしたら、此の人は警戒心が強いからこそ直ぐに人を殺しそうになるのだろうか。

誰からも心配して貰えず、仕事だけをさせられる機械(おう)

王も大変だ。

何かお礼も兼ねてしてあげられないだろうか、と考えるもなにも思いつかない。

結局、弟にしてあげるように頭を撫でてみる。

男性の割に長いまっすぐの藍色に近い蒼の髪が私の手の動きに合わせて揺れる。


「・・・・・・・何を、している」

「あの、こうしたら安心するのかなって思いまして」

「安心するのか」

「しませんか?」

「少なくとも・・・・・・・不快ではない」


素直でない陛下だ。

まあ、いいや。

此の髪、サラサラで触って居て凄く気持ちいい。


「もう・・・・・・・良い。仕事を再開する。紙とペンは其処だ。我も使うから其処で作業しろ」


暫時そうして居たが、もう良いと言われたし声も穏やかになったので素直に手をひく。

其処で作業しろ、といわれても陛下が使って居る机の隅っこを使えという事だろうか。

隅に問題は無い。

別にそんな大層な事をやるわけではないのだから。

問題は、仕事中の陛下の邪魔にならないか。であるのだが

当人はどうやら集中しているらしく此方に見向きもしない。

こうして黙って居れば俳優顔負けの美形なのに。

まぁ、此の人の顔が整ってるくせに性格類が残念なのはどうでも良い。

折角借りたのだ。

早く整理して、本を読みに行きたい。

 

 * * *


少なくとも現段階で判っている情報を書きあげるとこうだった。

なお、此の情報には物理的な証拠はない。

だから例えばディベートで、"証拠資料はありますか?"と聞かれたら"判りません"、と答えて其処で第一反駁で"証拠資料もなく、根拠が曖昧である"と云われるだろう。

再反駁は出来ない。まさに其の通りだから。


*地球とは違う世界がある。


此れだけだった。

頑張って考えてみたのだけれど他はどれもピンとこない。

其処には王が居て、其処の国民は地球人と考えが異なるらしい。

此れは自分の想像も入っているから何とも言えないし、陛下は愛に飢えていたらしい。

此れは目前で仕事をしている陛下に見られたら殺される。から書いて直ぐ消した。

あの井戸はどうやら世界をつなぐもの、にしては汚すぎるが其処はどうでもよい。


結局、なにもまとめられていない。

情報が少ない。

まあ此の世界、リィフューズに来て未だ2日。

焦る事など無い。

少しずつ情報を集めて、帰る方法を見つけ出せばいいんだ。





部屋に居た私がお腹すいたな、とか思った頃に丁度陛下自身が食事を持ってきた。

2人分。


「・・・・・陛下、此の国に人は居ますか?」


此処まで人に会わないと朝もわざわざ来てくれたのではなく陛下しか来れなかったんじゃないかと思えてくる。

あの量の仕事をやる陛下が暇な訳ない。


「人と呼ばれるものは存在しない」

「じゃあ、貴方は何?」

「リィフーズに住む者。其れだけだ」


では、其れ以外いないんだろうか。

詳しく尋ねようとするととっとと食えとベッドに坐っていた私の隣に腰をおろしてトレイを渡す。

礼と一緒に受取り何だろう、と見ると地球とあまり変わらなそうな――あえていうなら高級フレンチに入りそうな料理。

おずおずとフォークを口に運ぶ。

実は凄い味だったとか。


「おいしい」


地球と変わらない味だ。

良かった。此の世界では暫くの間生きていける。

再度、ありがとうと言おうと思った私の視界がいきなり揺らぐ。

何がおきたか、判らぬまま自分の目の前にいる陛下を見る。


――押し倒されているのか。


此処まで理解して、文句を云おうと陛下を見上げると陛下の両手がいきなり首にかかる。


「・・・へい、か・・・何を」


息が、しづらい。

今回は怒らせるような事を云って居ない心算何だけど。

陛下の顔を見ると、目に焦点が合って居ない。

力が入らぬ手で、陛下の厚い胸板を叩くがびくともしない。

ヤバい、本当に、此のままじゃ―――。

死ぬかも、と思った時にふと先刻を思い出して祈りをこめて頭に触れる。

ぴく、と動作が一度止まったのを確認して其の頭を撫でる。

しばらく、続けていただろうか。

陛下がいきなり離れた。


「我は――」

「陛下?」


未だ息がしづらい中どうしたのだと尋ねても返事が返ってこない。

先刻のいきなりの動作でトレイの二人分の食事が床に落ちている。


「いや・・・なんでもない。」


どうみても何かあるのだが本人も困惑しているらしい。


「・・・すまぬ」


あの陛下が、謝った。

己の意思でやったことではなかったのだろうか。

判りやすい首を絞めた痕を長く綺麗な指がなぞる。


「食事は、少ししたら入口においておく」


顔を合わせずに、陛下が部屋から出ていってしまってよく判らない中取り残された。



先刻のアレはなんだったのだろう。

此処に時計はなく、外の景色も見えないから今がどれくらいか判らないけれど体内時計で夕方くらいだと思う。

あの後、数分して入口前に置かれていたものを完食し本が置いてあるだろう部屋を回って読みたい本を持ってきた。

陛下の仕事部屋を尋ねようとも思ったけれどなんとなくやめる。

一日に何度も殺されたくないし、陛下自身困惑しているかもしれない中私がなんだと問い詰めても困らせるだけだ。

というか、此れで計6回殺されかけてる。

文豪太宰治も5回目の自殺で成功してるよ。

生きてるなんて私奇跡神様有難う――じゃねぇよ。

神様か誰だか知らないけれど此処に勝手に連れて来たやつ責任とりやがれ。

何が嬉しくて平凡女学生をこんな処に。

拷問かっていう。

せっかくの本の内容があたまに入らない。

そういえば、夕食とか誰が作るのだろう。

私も平凡女子。

ご飯作りは多少なりとも出来るし、嫌いじゃない。

あんなフランス料理っぽいのは作れないけれどお願いしてみようか。

そうときまれば即行動。

若しまた殺されそうになっても私は自己防衛とか出来ないけれどまあ6回殺されかけて生きてるんだから大丈夫。





「陛下」


今度はノックせずに入る。

先刻の事もあり、入室拒否されるかもしれなかったから。


「なんだ」


言葉自体は先刻と変わらないが目は合わせてくれないらしい。


「あの、此処ってキッチンあります?」

「キッチン?」


真逆キッチンを知らないのか。


「あの、食事作る処」

「・・・食事を作る?」


流石に知らない訳ないだろう料理は。


「先刻の食事ってどうやって作ったか判りますよね?」

「知らん」


ん!?

もう頭がこんがらがってきてパンクしそうだ。


「えっと、其れはどういう」

「矢張り、無理であった」


陛下は、意味深な事をぽつりと呟き椅子から腰を浮かせて此方に歩み寄る。

 

「明日にでも、此処から移動して貰う」

「・・・移動?」


どうして。

私は何かしたのだろうか。


「何処に?」

「少なくとも・・・此処よりは平和だ」


此処よりはって別に此処は危険でも何でもないのに。


「よく判らないんですけど」

「明日の朝、ないだろうが荷物をまとめておけ。少しくらいなら此処の書物を持っていっても構わぬから」


勝手に話を進めないでほしい。

私から地球の情報を貰うのを引き換えに置いてもらうって言う話だったのにそんなこと。

勝手に決めて、勝手に移動なんて非道すぎる。


「私は此処に居たいです」


此の世界がどんななのかよく判らない不安もある。

でも、沢山の本に囲まれて過ごせて幸せなのに。

其れに今は陛下以外知っている人が居ない。そんな中、知らない処に一人で放られるのは不安だ。


「此処に居る限り遠くない未来お前は我に殺されることになる」


何其れ。

死刑宣告?


「其れでも・・・・・・構わないといったら?」


記録更新。

殺されかけそうになったのは7回目です。


「死ねなどしないくせに」


私が此の世界へ来た時に寝ていたソファにまた押し倒されて首に手がある。

どうやら此の人は窒息死をさせるのが好きらしい。


「人を殺すには自分も死ぬ覚悟でいかなきゃ駄目なんですよ。貴方は・・・・・・・死ぬ覚悟がありますか?」

「殺めるのに必要なのは覚悟でない。冷酷さと、力だ」


どれほどの人を殺した手で私の首を絞めるのだろう。

此の手の平についた消えぬ血の種類はいくつだろう。

そういえば先刻から此の人とか云っているけど人では無いのだっけ。

でも他に云い方がない。

違う、今はそんな場合でないのだ。


「どうしてそんなに殺したがるんですか?」

「此の世界に生を受けた者ならば皆そうだ」


よく判らない。

殺人罪とかないのだろうか。


「貴方は・・・私を殺すのが楽しいですか?」

「少なくとも不快では無い。」


はい危険な人。

ええそうですか。

何が楽しいか判らないけれど左肩を痛くない程度に噛まれる。

歯が当たっているのだけれどね。

軽い痕がついたら次は手首。

胸元、太腿、足と降りていき見える所に歯形がある。

どういう心算なのだろう。


「我は今すぐにでもお前を殺せる。だが其れでは面白くない」


上に乗った重みが無くなったと思ったら荷物をまとめておけ、と言い残して王が何処かへいってしまう。

訳がわからない。

誰か、判る人説明してよ。

何処に行けば良いの、何故此処に居れないの。


――人を殺すのに貴方は面白みを求めるんですか。


聞けなかった。

優しいのか怖いのか、其れとも両方か。

私はどうなるのだろう。

柔らかいソファ。疲れ其処に崩れるように横になる。


 * * *

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