chapter.3
* * *
「此処が部屋だ。足りないものがあれば申し出ろ」
「ん、ありがとうございます」
ふかふかのベッドは沈みに沈む。
警戒して寝なきゃ窒息死してしまいそうだ。
其れじゃ安らかな睡眠が得られるようで得られないじゃない。
「先刻も云ったが、一つだけ忠告しておく」
王が此方に歩いてくる。
いい加減に名前を聞きたい。
「貴様が――」
「名前を聞いても?」
遮るように尋ねると、またチャキと嫌な音がする。
「・・・すみませんでした」
「素直が一番だな。陛下とでも呼んでおけ」
名前を聞いたんですけど!?
陛下って呼ばせるってどんだけ俺様よ。
いや、此の場合我様か。
「返事は無いのか」
「Yes, Your Majesty.」
「・・・莫迦にしているのか」
此の世界にも英語はあった。
新しい収穫だ。
しかし別世界の言語が通じる。よく判らない仕組み。
「判った判った、陛下陛下。・・・なんか下に堕ちていきそうな呼び名」
ですよね、と終わらせようとした時に頭をがしっ、と鷲掴みにされる。
私、女子なんですけど。というか。
「痛い痛い痛いごめんなさい冗談ですっ」
「騒がしい女だ」
誰の所為よ!
怒鳴りたかったけれど、こいつに文句をつけても結局私に返ってくる。
「で、なんなんですか忠告って」
「ああ―――逃げ出そうとしたり、ふざけた行為をすれば容赦なく殺す」
睨んできた其の目からの威圧に矢張り此の人は王なのだと再認識する。
「へぇ。貴方はそうして脅して何人殺してきたんでしょうかね?」
ちょっとした嘲笑含んで尋ねると頭鷲掴みだけでは済まぬ刑が下った。
「貴様は自身の立場を理解しているのか?貴様のような虫けら、片手で殺せる」
私よりどれくらい大きいのだろう其の左手に首を絞められても何も感じない。
「どうした?命乞いをして見せろ」
口角をあげて嫌味に笑う陛下にせめてもの抵抗で睨むとほう、と意味ありげにまた笑い手が私の首から離れる。
其のままひっこめてくれるのか、と淡い期待は虚しく左手は私の顎をくい、と上に持ち上げる。
「反抗的で面白い瞳だ。イアーの者は皆そうなのか」
「嫌いな人とかの前でなら皆こういう瞳になります」
「正直なのか愚かなのか判らぬな」
純粋無垢正直素直な平凡女学生だ失礼な。
やっと顎から手を除け、ベッドに座っている私を冷ややかに見下ろす。
「精々捕らわれた身で自由にやっていろ」
誓った。
絶対、絶対、絶っ対に。
私は仕事口を見つけて此処から出、国民全員に陛下の悪い処を並べてやる。
「返事はないのか」
「Yes, Your Majesty.」
抜刀。
「心臓が良いか、腹が良いか。どちらが良い」
「どちらも嫌です」
「ではもう一度だけチャンスを与えよう。返事は」
「・・・・・・・はーい」
やっと納刀。
私、初日だけで何度殺されかけたのだろうか。
此処でやっていけるか不安になってきた。
* * *
朝、起きて。
目の前に陛下が居る。
どういう現状。
夜這い改め朝這い?
いや、ありえない。
此の陛下、ムカつくけど顔は良いのだ。
しかも、王だし。
抱く女など腐るほど居るだろう。
というか、私は抱いてもらえるような綺麗な身体を持っていないし。
「目覚めたか」
思案して居たら声がかかる。
そうだ、考える前に聞いてしまえば良い。
「なんでこんな処に居るんですかお偉いお偉いそして偉そうな陛下さん」
・・・・・・・・・・・・・・・・・私もさ、いい加減に学ぼうよ。
朝から絶賛殺されかけ中です
朝から殺されかけるなんて、誰も予想出来ません。ええ出来ませんとも。誰がするか。
「口のきき方には気をつけろ女」
いつも持ち歩いているのか、刀が私の首元にあてられる。
抜刀はしていないのが救いだ。
というか、失礼だ。
「女って、私は紅紫という名があるんです」
「名で呼んでほしいのか」
「そりゃそうですよ」
陛下は、眉を顰めて考えたのだろう――静寂の後
「名を呼ぶ価値がない、理由がない、意味がない。結果、女で十分だ」
いちいちムカつく事ばかり云いやがって。
価値って何だよ価値って。
私の価値をお前が決めるな。
理由ならあるだろ私がお願いしただろ莫迦。
意味ならあるだろうが交友関係を深めるため――――深めたくない!
・・・・・・・朝から疲れた。
「・・・で、本当になんでこんな処に居るんですか」
「我が与えた部屋だ。問題ないだろう」
「腐っても乙女の部屋です」
「我とて男。お前の体に興味がない訳では無い。
イアーの奴らが全員そうなのかは知らんがなんとも性欲を掻きたてる身体だ」
「・・・はぁ!?」
此の国の王がたかが平凡女学生の身体に興味を持つわけないじゃない。
絶対、からかわれている。
「一般的な体ですっ」
「そうか?」
刀を私の体の横に置いた陛下が此方に手を伸ばす。
セーラー服のままの私の胸に服上からそっと触れたと思うと軽く握る。
刀が離れたことに喜べばよいのか、此のセクハラ男に文句を云えば良いのか。
「何処触ってるんですか」
いきなりの出来事に動揺しながらも手をのけようとするが男性の力は強い、勝てるわけがない。
「柔らかすぎる。舐めれば溶けていってしまいそうなほどに」
からかわれているのではなく、本気で犯される。
「と、兎に角何をしに来たんですか。真逆陛下暇だから遊びに来たわけじゃないんですよね?」
「我が暇な訳ないだろう」
なら触るなっ!
というか部屋に来るな。
「お前の移動範囲を説明しておこうと思ってな」
陛下が、直々に?
其れは暇なのではないだろうか。
其れとも、わざわざ来てくれたのか。
・・・・・・・どちらでも良い。
此の人が意外と優しくても暇でも私には関係がない。
「此の部屋を出た廊下。其処に在る部屋。以上だ」
「少なくないですか・・・?」
私はどれだけ束縛の身なのだ。
「我は此の国の王ぞ。
身分も判らぬ何処から来たかも判らぬ女を城に住ませてるなどあまり知られて良いことでは無い」
あぁ、其れもそうだ。
反乱内乱など出来れば避けたいだろうに、わざわざ置いてくれたのだ。
感謝せねば。
でも絶対に出てってやる。
「我の執務室がお前の部屋の4つ隣だ。
其れ以外は書物がおいてあるか、まぁ使わなくなった道具があるくらいだ。
好きに使ってくれて構わない。が、絶対に此の廊下の先には出るな。
各廊下に設置された扉が開けば気づくからな。忠告はした。破れば」
「殺します?物騒ですね」
・・・・・・またやってしまったようです。
一言余計な発言をする所為でなんで何度も何度も殺されそうになるんだ。
抜刀された刀が首筋に当たりひやりとした堅い感触が伝わる。
というか、此の人殺意に駆られるの早すぎだ。
「良いな?」
「・・・・・・はーい」
しぶしぶ頷くと用は済んだ、と出ていく。
もちろん、刀を忘れずに。
* * *