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第1話 落雷

駅に降り立った裕香は空を見上げた。

どんよりと暗い雲が上空を覆い始めていた。遠くでゴロゴロと雷の音も響いている。


「これはヤバい。早く帰らなきゃ・・・今にも降ってきそう。」


たしか、今日の天気予報では雨が降る事など言っていなかった。

もちろん傘など持っているはずもなく、裕香は急ぎ家路へと向かった。

駅から5分のアパートだというのに案の定、途中で大粒の雨が降り出した。

雨の勢いは増し、裕香がアパートに着いた時には全身がびしょ濡れであった。


「なんて運が悪いのかしら。あと3分降るのが遅かったら間にあってたのに・・・・」


まるで裕香を狙ったかの様に降ってきた雨に怒りを感じながら玄関の鍵を開ける。

部屋に入った裕香は後ろ手にカギをカチャリと閉めると玄関先で濡れた服を脱ぎ始めた。

脱いだ服をくるくると丸めて、下着姿のまま靴を脱いで部屋に上がり洗濯機に放り込む。

タオルで髪を拭きながらスウェットスーツに身を包む。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、ソファに座ってリモコンに手を伸ばしTYのスイッチを入れる。

バラエティ番組の音で部屋は一気に賑やかになった。


佐々木裕香22歳。大手商社会社の受付嬢である。

今夜は残業でいつもより帰りが遅くなった為、こんな災難に遭ったが、これまでは概ね順調な人生である。

こんな就職難な時期でもあるというのにすんなり大手に入社出来たのも受付という性格上、その容姿が極めて整っているというのが大きな理由でもある。

親に感謝すべきでもあるが裕香自身もその事においては自覚もあり、今までもその特性は存分に酷使している。

大きな目と長い睫、すらっと通った鼻と口角の上がった形のいい唇。なかなか目立つ美人である。

ちょっと上目使いで甘えた声で頼むとほとんどの男性は思い通りに動いてくれた。

裕香は人生を謳歌していたのである。


ノートパソコンのスイッチを入れて「ブログ3日も止まったままだぁ・・・・メールも着てるかな?」

裕香がその画面を覗いて見た途端だった。


ピカッ!ゴロゴロ・・・・ガッシャーン!


雷の激しい光と同時にすごい音が鳴り響き、部屋が真っ暗になった。


「て・・停電? びっくりしたぁ・・・・すごい雷だ。近くに落ちたのかなぁ?」


裕香はリラックス用に買っておいたアロマキャンドルに火をつけた。

いい香りとともに部屋にささやかな明かりが灯り、裕香はひとまず落ち着いた。


「ヤッバ~イ・・・さっきの雷でパソコン大丈夫かな?」


大事な事を思い出した裕香はパソコンの側に駆け寄った。


「大丈夫よ。壊れてはいないわ。」裕香の背後から突然声がしたのだ。


「ひゃっ!だ・・誰?」


振り返った裕香は目を瞠った。そこにはもう一人裕香がいたのであった。


「わ・・私?えっ・・えええっ~~!」


裕香は尻餅をついたまま後ずさりながら考えた。

こ・・こんなとこに鏡なんて置いたかしら?いやそんな大きな鏡なんてないし・・・


「そんなに驚かないでよ。別に怪しいもんじゃないし・・・・」


もう一人の裕香はそんな事をのんびりした口調で言う。


「いやいや・・・十分怪しいし・・・・・」


そもそもどうやって入ったのやら・・・鍵はかけたはずだし、ここは3階で窓からも入れるはずないし・・・

もしかして・・・・お化けとか幽霊?でもでも・・・どうして私の姿?あれか?これが噂に聞く幽体離脱とかいうやつ?

さっきの雷のショックで魂が飛び出しちゃったのだろうか・・・・・


「う~ん・・・その質問には私も答え辛いもんがあるわねぇ・・・・」


もう一人の裕香は小首をかしげて考え込んでいる。


「な・・なんで私の考えてた事がわかるのよ!私は何も言ってないのに!」


変だ・・・とにかく変だ。こんな事はありえない。

きっと悪霊か何かだ。逃げなきゃ・・・裕香は玄関に向かって突進した。


「待って!」 裕香はその腕を掴まれた。


「ひぃ~っ!離して!離して~っ!私なんか食べてもおいしくないからっ!」


「ちょっ・・・落ち着いてよ。食べないって!

見れば分かるでしょ。私はあなたなんだから、別に危害は加えないわよ。」


バタバタ暴れる裕香をもう一人の裕香がなだめるという変な図式である。

さんざん暴れて疲れが出たのかさすがに裕香も諦めた。

裕香はソファに座らされ、ペットポトルのお茶を飲んでもう一人の裕香と対面していた。

少し落ち着いた裕香は相手をゆっくりと観察した。


「悪かったわよ。急に現れたりして驚かせた事は謝るわ。とにかく落ち着いて私の話を聞いてよ。」


どうやら相手は触れるし、どう見ても普通に人間の様に思える。

でも姿形はまるっきり自分と同じだ。


「もしかして私は双子でなんらかの理由で別々に育てられたとか?」


「そんな訳ないわよ。私は正真正銘、佐々木裕香よ。」


「そ・・・そんなはずないわ。私が佐々木裕香よ!」


「そう。あなたも佐々木裕香。でも私も佐々木裕香なのよ。」


「わ・・・訳がわからないわ!」


「う~んと・・・信じられないかもしれないけど私は未来から来たのよ。未来のあなた!」


「はあ?」


裕香はぽか~んと口をあけたままだった。

もう一人の裕香はにこっとそんな裕香に向かって微笑んだ。




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