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クローバー(2)  作者: ディライト
第1章
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第1章

「どうしてこうなったの!?」

 木曜日の放課後。いつもの買い出しから帰ってきてすぐに緊急会議が開かれる。勿論議題は日曜日に我が草野春樹宅に友人が遊びに来てしまうという、本当なら楽しみにしていていい筈のイベントについてだ。

「いや、なんというか流れで……」

「どんな流れよ、どんな!」

 一葉がかなり困ったように頭を抱えながら、不用意な約束を取り付けてしまった正座で反省中の俺を睨む。気まずくなって目線を逸らすと、二葉と三葉は夕方のアニメに食いついていて、我関せずを貫いているのが見える。

「筑紫のアホが急に俺の持ってるWeeをやりたいとか吐かしやがったから……」

「筑紫クンのせいにしな……ってそういえばハルキWee持ってたの?」

 怒った表情から一転、はっとしたように驚きの眼を向けてくる。

「お、おう、前に雑誌の抽選に気まぐれで応募したら当たったんだ。コントローラーもちゃんと四つついてる」

「ホ、ホントに!? わぁ〜私一度やってみたかったんだよね〜あれ!」

 頬に手を当てながら、見えないコントローラーを手に腕を振る一葉。喜ぶのも無理はない。このWeeという次世代ゲーム機は発売から半年が経つというのに、今だに手に入れるのが困難というほどの超人気ハードなのだ。一挙手一投足を覚えてしまうほどにコマーシャルを流している癖に、在庫切れの連続で「これはあるある詐欺だ」なんて言われているほどだ。

 俺は立ち上がって、Weeが封印されているだろう押し入れを漁ってみる。

「確かこの辺に……」

「あのWeeをこんな汚い押し入れに閉じ込めておくなんて……。ハルキは今全世界のゲーマーを敵にしてるよ」

「んな大袈裟な。……お、あったあった」

 殆ど使っていない、パッケージの箱そのままにWeeは押し入れの奥で横たわっていた。確か以前一、二回筑紫と佐久間がうちに来た時にやったきりだな。

「ほとんど新品同様じゃない。こんな面白そうなのなんで仕舞っとくの?」

 一葉が埃を被っていただけのほぼ新品Weeを見て零す。

「確かにこいつは時間も忘れるほど楽しい、今までにない画期的なゲームだ」

「ならどうして?」

「多人数ならな……。想像してみ? アパートの狭い一室、夕方一人で架空のテニスラケットを振っている俺の姿を」

 そう言うと、一葉は首を傾げて下唇に人差し指を添えながら考えるポーズ。三秒ほど何やら思案した後、察したように眉をひそめた。

「そもそもハルキが運動してる姿を想像できない……」

「そこから!?」

 完全に怠け者を見る眼だよねそれ!? 否定はしないけどさ!

「ま、まぁ要するに、一人でやるゲームじゃねえってことだ」

「そっか。それで皆でうちにきてゲームするってことね……ってどういうことよ!?」

 一葉は本題を思い出したように眼を剥く。

「つまり……そういうことなんだよ」

「悟ったように言うなっ!」

 腕を組み、斜に構えて答える俺に一葉が得意のチョップを喰らわせてくる。馬場さんも顔負けだよ。

「うーん、でもホントにどうしよう……。皆で楽しくゲームもしたいし……かといって同居がバレるわけにも……」

 一葉はWeeへの好奇心と同居バレの恐怖心とで板挟みになって悩んでいる。

「もうあいつらには同居のこと、言ってもいいんじゃないか?」

「ダメだって。言ったら絶対にまた葵が心配するもん。ていうかだから前もこれで悩んだんじゃない」

「そうだよなぁ……」

 二人大きく溜め息をついて、テーブルに頬杖をつく。一葉はボーっと考えているようで、目線は明らかにさっきから出しっぱなしのWeeに向かっている。二葉と三葉に目線を移すと、いつの間にかぽかぽかと小突き合いを始めている。何やら好きなキャラクターで揉めているようだ。

 もう何年も前からずっと一緒に住んでいたかのような安心感を感じながら、俺は一つ小さく息をはいて、夕飯の支度をするべく立ち上がった。

 今日の夕食当番は俺だ。本来今日の朝食当番が俺だったのだが、目覚まし時計が突然の辞職の意を示しやがったために急遽交代となった。今晩は金目鯛の煮魚に、肉詰めオムレツで固めようと考えている。金目鯛は刺身のままでも旨いし、酒蒸しや粕漬にしても大変美味だ。通年脂がのっていて、魚料理を作る上でとても重宝してい――、

 

 ピンポーン

 

 俺が調理しながら気持ち良く心の中で金目鯛の紹介をしていると、家のチャイムが鳴らされた。

「あ、はいはーい! 悪いヒトハ、ちょっと今手が離せなくて……。代わりに出てくれ」

「うん、誰だろ」

「この時間なら多分おばちゃんだな。またおすそ分け持ってきてくれたのかも」

 おすそ分けと聞いた途端、アニメも終わってごろごろしていた二葉が敵を察知したプレリードック並の速さで顔を上げる。

「おすそわけ! にくじゃがか!? なんたらごぼーか!? なんとかぜんにか!?」

 今にもよだれが出そうな表情で、来客者に顔を出そうと玄関に向かう一葉の後についていく。その様子を呆れたように眺める三葉。もう何度も見た光景だ。

「はーい、今でまーす」

 そう声をかけて一葉がドアを開いた。と、同時にごつんと鈍い音がしたと思えばからんからんと均等な軽い音を奏で始めた。

「あ! あ〜〜〜〜! 勿体ないぞ〜!?」

 二葉がその様子を見てなのか何やら叫んでいる。

「あ、あ、あ、あ、し、し、し、しつれいしやしたぁぁぁぁ!」

「ええ!?」

 一葉の驚く声も余所に、こちらからは見えないが、どうやら来客者は口どもりながら謝り、と思えば走り去って行ったようで、どたどたと二階の廊下を音を立てて駆けていった。

 ようやく手の空いた俺は、事件の起こった玄関先まで向かう。

「な、なんだ誰?」

「わかんないけど……学ラン着た男の子……」

 一葉の証言を聞き、俺の中で嫌な予感が沸々と沸き上がってきた。

「え……、そ、そいつが何しに……?」

「なんか筑前煮を持ってきてくれたんだけど、お皿ごと落としちゃって……ってまさか……?」

 一葉も答えに辿りついたように口を開く。

 そう、以前大屋のおばちゃんに一葉をこのアパートに住まわせてやってくれないかという旨を頼みにいった時に、ちょろっと話に出たおばちゃんの一人息子の雄太ゆうたである。何故わかるのか、理由は簡単だ。今まさに玄関に横たわっている皿はおばちゃんがうちにおすそ分けを持ってきてくれるときのプラスチック皿と同じ。そしてそんなおすそ分けを持ってきてくれるのはおばちゃんしかいない。そのおばちゃんが来れず、代わりに派遣されたヤツが学ラン姿なら間違いなく雄太だろう。

 それにしても、あの様子だとどうやらおばちゃんから話を聞いていなかったらしいな。もう二ヶ月も経つというのに。

「あ〜あ〜俺達の靴にも飛び散ってるじゃねえか」

 玄関という国に爆弾を投下していった雄太のせいで、靴という国民が多大な犠牲を払っている。こりゃ片付けが大変だ。

「きょうはもうなんとかぜんになしか!? がーん!」

 二葉が人生の終わりを迎えたようにひざまずいて頭を抱えている。

「くっそ〜! あのハゲゆるさないぞ〜! わたしの大事ななんとかぜんにを〜!」

 雄太はハゲてないし、大事なのに筑前煮の名前を言えていないし。二葉が盟友のかたきを打つように立ち上がろうとすると、再びチャイムが鳴った。多分おばちゃんに事情を聞いて再びおすそ分けを持ってきてくれたのだろう。

「おーい雄太〜。開いてるぞ〜」

 俺が平坦に外の雄太を呼んでやると、申し訳なさそうに扉が開いた。

「……」

「久しぶりだな雄太。もう零すなよ」

 どうやら替えのおすそ分けを持ってきてくれたらしく、先ほどとは違う皿に入れて持っている。今度は陶器のようなので、落としたら大惨事だ。

 雄太は今年から花岡中にあがった中学一年生。中一にしてはかなり高身長であり、高校で中背の俺とほとんど変わらない。短髪のトップをワックスで下手に固めていて、頬にはかなりのニキビがある。着ている学ランをだらし無く開けており、どうやら中学に上がって妙に色気づいたようだ。そして何よりもこいつは……、

「ハ、ハルにい…………。いつのまに結婚したんだよ!?」

「お前はおばちゃんから何を吹き込まれた!?」

 おばちゃんんんん!? ちょっと最近本当に悪魔じみてるよね!?

「だって母ちゃんが『あの二人は夫婦みたいだよね〜うふふ〜』なんて言ってたんだよ!?」

 何ゆうてはるんですかあのお方は!? 紛らわしすぎるよ!? そして親も親なら子も子だよ! そうだよ、こいつはとんでもなくアホなヤツだったよ! 歳を重ねていない分、筑紫よりアホだと言えよう。

 怒っていないかと一葉の表情を伺うと、やはり俯いて顔を真っ赤に染めている。この類の話を持ち掛けられると、毎回こうなんだよな。

「ちょっとまて雄太! とりあえずあがってけ! 説明するから!」

「ダメだよハル兄! そんな二人の愛の巣に上がってしまうなんて俺にはできない!」

 ダメだ、話が通じねー!

 

 

 ◇◇◇

 

 

 雄太を家に引きずり込むまでに約十分を要し、ようやくお茶を出すところまでこぎつけた。

「ハ、ハル兄……。もう子供までいるの……?」

「お前はそのはやとちりの性格をどうにかしろ!?」

 二葉と三葉を交互に見ながら絶句している。一体どうすればあのおばちゃんののほほんとした遺伝子からこれが生成されちゃうのだろうか。そんなことを考え大きく溜め息をつく。

 仕方がないので不思議そうに眉を潜める雄太に、この二ヶ月間の日々の事を話してやることにした。雄太と学校が被るやつはいないし、おばちゃんの息子だから大丈夫だろうということからだ。というかこのまま放っておいたらあることないこと近所で言い触らしそうな勘違いようだったからな。

 

「な、なるほど……」

「わかってくれたか雄太」

「それで今付き合ってるってことかハル兄!」

 こいつに期待した俺がアホだった。ほらほら、一葉も切れる寸前だろうが。

「わかったわかったもうそれでいいから、とりあえずこのことは誰にも言うなよ?」

「おうよ! 俺はこれでも口は鉄ぐらい堅いから!」

 それあまり堅くないよね。せめて嘘でもダイヤモンドと言って欲しいよ。胸をどんと拳で叩いて、簡単に滑りそうな口を尖らせる。

「それでさハル兄、モノは相談なんだけど」

「……なんだ」

 もうあまり話さないでくれないかな。俺は喋り疲れて多少不機嫌を顔に出し、頬杖をつきながら睨む。

「少し……少しでいいから、二葉さんと話をさせてくれないかな?」

「ん、フタバと?」

 何故と口を開く前に雄太はさらに口を開く。

「お、俺……、実はさっき玄関先で『勿体ないぞ』って言われた時に、二葉さんに惚れちまったみたいなんだ!」

「そうか……ってええええええ!?」

 薮から棒に何言い出してんだこいつ!? っていうか惚れるポイントが斬新だな!?

 雄太は耳まで真っ赤にして、でかい図体に似合わない表情をしている。

「ななななななんでなんで!?」

 先ほどまで俯き聞いていた一葉も、あまりの仰天発言に言葉を発せずにはいられない。

「さっきからハル兄と話してても二葉さんの顔ばかり思い浮かぶんだ……。ハル兄の普通でつまらない顔になんてさっきから一瞬たりとも目がいかないよ」

 雄太後で覚えとけよ。まぁ普通ってところはいいんだが。

「……それで、フタバとちょっくら話がしたいと?」

「できればたくさんしたいけど」

 図々しいな。

「ど、どうするヒトハ? この手の話はフタバにはまだ早いんじゃないか?」

 俺は一応姉妹の長である一葉に尋ねる。すると一葉は急にクスッと笑いながら答える。

「べ、別にいいんじゃない? 話をするぐらい……ふふ」

「でもなぁ……ってなぜ笑う?」

 なにやらかなり可笑しそうに口元を押さえながら笑うのを堪えている。

「だ、だって……、ハルキの発言が頑固親父みたいなんだもん」

「う、うるさいなっ! ま、まぁヒトハがいいって言うんならいいんじゃないか!?」

 顔が赤くなるのがわかる。一葉は俺のこの言葉もツボに入ったようで腹を押さえて声にもならない笑いに満たされている。もう一葉は無視して、一葉達の部屋で三葉と遊ばせていた二葉を呼びに向かう。

「おーいフタバ、雄太のやつがおまえとお話したいってよ?」

「ゆうたってだれだ?」

「ああ、さっき筑前煮持ってきてくれたやつだよ」

 二葉は顔と名前が一致したようで、急に苦虫を噛んだような表情に変わる。

「あいつかー! オオヤのぜんにをめちゃくちゃにしたあいつかー!」

「そう、そのあいつだ」

 いきなり好感度最悪な二葉は立ち上がり、右の拳を高々とあげて、

「はなしあいをよーきゅーするっ!」

 と叫んだ。確かさっきのアニメの台詞だなそれ。その様子を三葉が頬を染めながら見ている。え、何三葉もやりたいのかこれ?

「よし! しゅつげ〜きっ!」

 話し合いを要求しといてものの一秒で出撃宣言を出した二葉は、勢いよく部屋から飛び出した。取り残された三葉と目が合う。三葉も来るかと目で問うと、コクリと言葉なく頷いて俺の手を取ってきた。最近は何をするにもべったりくっついてくる三葉である。

 三葉の手を引きながら居間へ向かうと雄太と二葉がテーブルを挟んで正座で向かい合っている。そして将棋の対局時で言えば、一葉はタイムキーパーの位置だ。雄太は額に汗を滲ませながらきょろきょろと目を泳がせ緊張した面持ち。二葉もまた険しい表情ながら、緊張とは違い、何やら可愛い顔で口を尖らせながら睨んでいる。この図だけ見れば蛇に睨まれた蛙の図。ただ蛇側があまりに可愛らしいので、この言葉は似合わない。そして真ん中で戦況を見つめている一葉は、どうしていいかわからずに二人を交互に見ながらおろおろしている。蚊帳の外である。

 そんな途中参戦はしにくい状況ながらも、俺と三葉は一葉の向かいに腰を下ろす。どうやらそれを皮切りに筑前煮と恋心を巡る正義と悪の熱い戦いの火蓋が切って落とされたようだ! ってなんじゃそりゃ。

「ふ、二葉さん!」

 口火を切ったのは雄太だ。定まらなかった目を二葉に向ける。

「なんじゃ!」

 二葉も交戦の構えだ。腕を組みながらつんっと上から覗き込むように見る。

よし、可愛いぞ二葉。

「あの……ご趣味は……?」

 まるで初々しいお見合いのような質問で攻撃に出る雄太。緊張のし過ぎで照準が上手く定まっていないようだ。

「食べることじゃ! なのに先ほどどなたかがわたしの前でぜんにを落としたようじゃが?」

 どこぞの将軍のように話す二葉。鋭いカウンター攻撃を喰らった雄太は肩をびくつかせる。

「あ、あれはちょっとした事故でですね、二葉さんのためなら毎日でも作って持ってきたいと考えている所存であります!」

 慌てて将軍に深々と頭を下げる雄太。どこでそんな言い回し覚えたんだよ。ていうか作ってるのはおばちゃんだよ。

「え!? 毎日!? それはちょっと参っちゃうな〜」

 自分の後頭部を撫でながら、夢のような提案に頬を綻ばせる二葉。現在二葉の頭の上では筑前煮のソファーに座って高笑いをしている姿が浮かんでいる筈だ。

「そ、それでですね……。二葉さんにこの場を借りて言いたいことがあります……」

 どれでなのかはわからないが、雄太はここでリーサルウェポンを放つことに決めたようだ。雄太のこれでもかという程に赤い顔がそれを物語っている。それを感じてか、向かいの一葉もそんな雄太を期待の眼差しで見つめながら、ほんのり頬を赤く染める。隣の三葉の唾を飲み込む音が聞こえる。俺もなにやら緊張してきたぞ。

 緊張をほぐすために俺は先ほど用意してあった冷えたお茶に手をつける。

「なんじゃ!」

「結婚を前提にお付き合いしてください!!!」

 俺は口に含んでいたお茶を盛大に吹き出した。雄太に。

「あ!? 汚っ! なにすんのハル兄!?」

「ごほっがはっ! い、いきなりすぎるだろ!? まだボーイミートガールして三十分も経ってないよ!?」

 思わず発音の悪い英語で表しちゃうほどに動揺したわ!?

 一葉も向かいでちょっと可笑そうに口元を押さえる。三葉は何故か頬を染めて固まっている。

「俺はてっきり友達になってくれとかそんな感じかと思ってたよ……。遊びに行くとかさ……」

 ほらみろ、あまりに突然すぎる告白に二葉は口をぽかーっと開けて呆然としているじゃないか。

「そ、そっか。えと、じゃあ二葉さん! 俺と友達になってください!」

 雄太の言い直しにはっと気づいた二葉は、

「え、え〜……どうしよっかな〜……」

 と何やら満更でもなさそうに雄太から目を逸らしてもじもじしている。先ほどの将軍が嘘のようだ。というかこんなしおらしい二葉は大変貴重である。

「そ、そうだ二葉さん! 今週の土曜日、遊園地に行きましょう!!」

「え、遊園地!?」

 雄太の提案に二葉はまたも心を揺さぶられ、テーブルに手をついて身を乗り出す。

 そして何故かちらりと俺を横目で見る。

「……行ってきたらいいんじゃないか?」

 遊園地と聞いてあまりに嬉しそうな顔を見てしまったため、雄太と二人きりっていうのはあれだが、否定するのも憚られたため渋々了承してやる。

「…………みんなも一緒がいいぞ」

 二葉が視線を落としながら、口を尖らせる。

「……おし! じゃあ土曜日皆で行くか!」

「ほんと!?」

 二葉がきらきらとした眼を向ける。

「それいいね! そのほうが雄太くんもフタバと友達になりやすいんじゃないかな」

 一葉も胸の前で手を合わせて嬉しそうに笑う。

「……遊園地かぁ……」

 三葉も頬をばら色に塗って、頬を綻ばせる。

「雄太もそれでいいか?」

「もちろん! 二葉さんと一緒ならたとえ火の中水の中だよ!」

 そりゃ俺らを火に例えてるのかい?

「やったぁ! ゆうえんちだー!」

 うさぎのようにと跳びはねて、満面の笑みを振り撒いている二葉。それからはっとして雄太に向き直る。

「おぬし! なかなかいいやつじゃ!!」

 びしっと雄太を指さして、悪戯な表情を向ける二葉。雄太は二葉の人差し指から出される見えない光線で撃ち抜かれるように、後ろに倒れた。そんな様子を皆一緒に笑いあった。夕飯の用意は捗らなかったが、これこそこの言葉で締めてもいいだろう。

「まぁいいか」

 俺は小さく一息ついてそう呟いた。

 

 

 雄太はいい返事を貰い、意気揚々と去って行った。

「雄太くん、男らしかったね」

 一葉が調理している俺の後ろから声をかける。

「あいつは何も考えてないだけだろ」

「でもしっかりフタバの心を掴んでいったよ? その辺り、どう思われますかお父さん?」

 その言葉に、両手で頬杖をつきながら悪戯に笑っている。

「……別にどうも思わねえよ」

 少し不機嫌に見せてやると、一葉独自の解釈でそれを受け取ったらしく、

「あれ? もしかして妬いてる?」

 と更ににやにやと口角を上げる。

「何にだよ」

「雄太くんにフタバをとられちゃいそうなこと? それとも私が雄太くんを男らしいって言ったこと? どっちだろ〜な〜」

 一葉はこちらに近づいてきて、俺の心の中を覗き込むように見つめてくる。俺の心臓が驚いたように跳ねる。頬が熱を帯びたように熱くなっているのを感じる。

「……あれハルキ? なんか私たち重要な何かを忘れてない?」

「……へ? な、なんかあったっけ?」

 顔を近づけていた一葉は、そのままの状態で唐突に思い出したように話を変える。思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「……まぁいっか」

 この時は日曜日のゲームパーティーのことなんてすっかり頭の中から抜け落ちていたのだった。

 

 

 第1章―――完

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