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クローバー(2)  作者: ディライト
プロローグ
1/10

Prologue

どうも、ディライトと申します。クローバー(1)のつづきとして(2)をスタート致します。前回の小説を読んでいただけた方、本当にありがとうございました!(2)をクリックして頂けた方、完結済みである(1)の方から読んでいただけるとお話がわかります。今回も遅筆ながらのほほんと書いて行きたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

だいたい全10回を予定しており、1回が約7000字~8000字くらいです。

こんな小説ですが、感想評価などいただけた日には、できもしないバク宙をやっちまうぐらい喜びます。

では、今回もよろしくお願いします!


クローバー(2)スタートです!

 クローバー(2)

 

 六月の初め。季節は春の色を消し落とすべく、長きに渡りしとしとと雨を降り注がせる。夏の訪れを感じさせ、傘が手放せなくなるこの頃、新しいクラスの面々にもようやく違和感を感じなくなってきて、平和と怠惰を心から愛する俺、草野春樹くさのはるきはようやく平穏という宝にありつけていた。

 

 四月のあの出会いから俺の生活は一変した。俺の悩みでもあるにっくき栗色髪がたまたま学校一の御令嬢美少女、碧原一葉みどりはらひとはの髪色と同じだったことで、俺は彼女とニアミスしてしまった。その事をきっかけに、なんの因果か一葉のアパートの火事現場に居合わせた俺は、一葉とその妹二葉と三葉を匿ったことで、俺達は辛くも同居生活をすることとなった。

 そのことで、色々問題もあった。

 二ヶ月経った今でもこの事は内密であるし、親しい友人に嘘をつき続けている罪悪感もある。同級生の男の家に居座ってるなんてのも世間体の観点から考えれば大問題だ。でも俺は、俺自身の我が儘で、彼女達に残ってもらう事にした。土下座までして。

 本当にどうかしていたとは思う。平穏をこよなく愛する俺が、まさか自分から泥沼に足を踏み入れたんだから。でも、そんな泥沼で遊んで泥まみれになるのも悪くない。それは一葉と出会ってから身を以って知ったことだ。

 

 

 ――ッ!!?

 

 

 突如腹の辺りに感じる重みと痛み。

 二ヶ月前の走馬灯がぐにゃりと形を成さなくなる。

「ハルキハルキ! もう朝だぞ〜!」

 重たい瞼を持ち上げて、腹の辺りで馬乗りでゆさゆさと俺を揺らすその姿に眼を凝らす。

「……ん、フタバか……」

 薄い水玉模様のパジャマ姿に、空も飛べそうな寝癖のついた栗色ショートカット。小学六年生にしては無邪気すぎるテンションに、整いすぎている顔の造形は妙に似つかわしいようにも感じる。

「もうご飯できてるよ!」

 朝から直射日光のような笑顔を向けてくるのは碧原家次女二葉ふたばだ。首を傾げながら布団に収まる俺の上で横揺れする。

「……へ? なんで?」

 あれ、今日は朝飯当番は俺のはずだし、というかなんで二葉が起こしに……?

 俺ははっと気づいて、首だけ回して目覚まし時計に眼をやる。その時計は無情にも三時二十三分を指したところで時計としての仕事を放棄して眠りについていた。

「うおおおお!? 時計止まっとる!?」

「わぁ!」

 俺が慌てて起き上がったために、俺に乗っかっていた二葉はころんと後転する。

「だいじょうぶ! ヒトハが作ってくれたから!」

「え、マジか!?」

 側にあった携帯で時間を確認する。どうやら始業のベルには間に合う時間のようだ。こういう時のために少し早めに起きるようにしておいて良かった。俺は一先ずホッと一息ついて布団から出る。しかし、一葉がいなかったら朝飯は抜きとなっていたことだろう。

「――っと」

 俺は思い出したように、俺の隣で今だ眠り姫のように眠りつづけている少女に目を移す。

「ミツバ、朝だぞー」

 横向きで幸せそうに寝息を立てている彼女は碧原家三女三葉みつばだ。

「――……ん…………」

 穏やかな表情から一転して、顔をくしゃっとさせて身体を起こす三葉。

「…………おはよ……ハルキ」

 三葉は囁くように静かに微笑む。起き上がると同時に薄い桃色のパジャマが見える。寝起きのため、今は背中越しまで流れる綺麗な栗色髪だが、普段は束ねて右肩に下げるサイドポニーテールにしている。姉に同じくして整いすぎている顔の造形に、小学四年生とは思えないほど落ちついている大人しい娘だ。

「おはよミツバ。ヒトハが飯作ってくれたみたいだから、着替えてこい」

「…………うん」

 ゆっくりと布団から出ると隣の空き部屋をあてがった碧原三姉妹の部屋へと引っ込んだ。

「もー! ミツバのヤツすぐハルキの布団に潜り込むんだ!」

 二葉が腰に手をあてて頬を膨らませる。あの風の強かった夜を境に、三葉はよく俺の布団に潜り込んでくる。了解を得る場合もあれば、朝起きるといつの間にという事もある。気付かず寝返りをうって押し潰してしまわないか懸念しているところだ。

「まぁいいじゃんか。なんならフタバも一緒に寝るか?」

 俺が何の気なしに問うと、二葉は俺の布団をちらりと見て、すぐに顔を赤く染めた。

「ね、ねないよ! これでももう六年生だし、来年は中学生になるんだぞ! そんな子供っぽいことできないよ〜だっ!」

 べーっと舌を出した後、ついっとそっぽを向いて二葉も着替えるためか、三葉にあやかるように部屋へと消えていった。二葉の方がよほど子供っぽいぞと言ってやりたかったが、ぎりぎりのところで飲み込んで苦笑した。

 そんな二葉を見送って、俺も自分の支度へ取り掛かる。といっても布団を畳んで後は着替えるくらいしかないのだが。俺はさっさとブレザーだけを抜いた制服姿に着替えて居間キッチン兼用スペースへと向かった。

「あ、ハルキ寝坊!」

 部屋を出ると、ちょうど朝食のスクランブルエッグをテーブルに運んでいるエプロン姿の女子高生がいた。

「わ、わるい、目覚まし時計が止まっちまっててさ…」

 俺はぷらんと摘むように、寝坊の原因を作った犯人を見せ付ける。

「もう……私が起きなかったら完全に遅刻だよ?」

 お母さんのように口を尖らせて、俺を上目遣いで睨む。はっきり言えばまるで怖くないどころか俺の中の可愛い表情ランキングベストスリーに入るだろう彼女の表情だ。ちなみにあと二つは……まぁおいおい教えてやろう。

 制服にエプロンという格好で頬を膨らませているのは、碧原家長女一葉ひとはだ。誰もが振り向く美貌を欲しいままにしている彼女は、俺と同じ学校に通う同級生。枝毛一つも見当たらないような腰辺りまで流れる綺麗な栗色ストレートヘア。何の汚れも知らないような瞳とその宝石を守るような長い睫毛。滑らかな曲線を描く鼻に、桃色の弾けるような、それでいて柔らかな唇。そして美人というだけに留まらせない、幼さも残すふわりとした輪郭に、女性の中でも小柄な体躯はそれをさらに際立たせる。しかし出るところはきっちり出ているといったように、これ以上を求めようのない総てを手に入れている彼女こそ、碧原一葉その人である。しかし、それでも天は二物を与えないらしく、一葉は学校では近寄りがたい御令嬢という不名誉かつ理不尽なレッテルを今でも貼られている。まぁ色々原因があるのだが、いまだ解決するに至ってはいない。俺達と友人として付き合うようになってからは、以前よりはだいぶ良くなったと思うが。そのため、学校での友人はあまりに少ないのだ。でもいずれこれについても俺が解決してあげたいと思ってるのだが、いかんせん俺も社交的な性格でないためになかなか期待薄である。

「ほら、寝癖直して、はやく食べよ?」

「おう」

 

 同居生活を始めて早二ヶ月が過ぎ、俺達のこの生活の中でもはや遠慮という二文字は完全に消え去ったと言ってもいい位まで落ち着いていた。あの時の選択はやはり間違っていなかったのだ。そのお陰で今の平穏な生活がある。そして俺はこの素晴らしい現状を大事にしていく。そう心に決めたのだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 ――――ルキ――! クサノハルキ!

 

 拡声器のような音量で俺の名を叫ぶ方角へと突っ伏していた顔をあげる。

「草野〜! お前はなんで朝のホームルームから爆睡状態に入っているんだ?」

 視界の定まらない眼を凝らすと、白いタンクトップに青ジャージの体育会系マッチョマン、我が二年D組担任岩崎勲夫いわさきいさお(だが担当数学)教諭が、額に青筋を立てて持っているチョークを今にもやり投げの如く投げ付けようとしているのが見える。

「……んあ、すんません……」

 垂れかけた涎を啜りながら周りを見渡すと、見慣れたクラスメート達のクスクスと笑う姿。俺の席は一番後ろの中央で、どうやらタッパのある岩崎教諭からは丸見えらしい。一番前の席では、列の人の横からひょっこりと顔を覗かせて笑いを堪えている一葉の姿もある。

 岩崎教諭は、仕様がないなと言った感じに大きく溜め息をつくと、すぐにホームルーム終了のチャイムが鳴り響いた。

 

「ハルっちゃん〜、今日は一段と眠そうじゃん? どったの〜」

 チャイムと同時にクラスメートが掃けると、それと同時に腐れ縁、筑紫正志つくしまさしがチャラ男全開の笑顔でやってきた。筑紫は俺よりさらに明るめの金髪に近い茶髪のトップを立たせて、片耳ピアスにおしゃれな黒縁メガネをかけている。そして首周りにはいつも欠かさず身につけている、六月ではそろそろ首もとが蒸れそうな長い紫色マフラーを巻いている。登下校時には特大のヘッドホンとスケボーを相棒とする正真正銘のチャラ男である。

「昨日夜中にな…………あ、いや、なんでもね」

 俺は前の不在の席に座った興味津々な筑紫に、眠そうな眼を向け答えようと口を動かしたが途中で止めた。

「なになに!? 気がつくと隣に美少女でもいたってか!?」

 アホさ満載な発言をする筑紫だが、実はあながち間違いでもないため、俺は少々肩をびくつかせる。

 時計で確認したときは一時半過ぎだっただろうか。三葉が俺の部屋の襖を開け、そのまま真っ直ぐに俺の布団内へと侵入を図ってきた。昨日はたまたまその時まだ寝付けていなかったせいもあって、三葉が気になって長い間眠れなかったのだ。しかも三葉は完全に寝ぼけていたらしく、俺の背後へ回ったと思ったら、何を勘違いしたか俺を抱き枕と認識したらしく、俺の背中にかなり長い時間腕を回していたのだった。

「アホか」

 といってもそんな事実を簡単に口に出せるわけもなく、親友の妄言は妄言のままでうっちゃる。そんな冷たい俺の言葉に、筑紫はまるで可愛くないうるうるとした瞳を向けるが、俺は気付いていないようにそっぽを向いた。するとその視線の先にもう一人の親友の姿があった。見上げると、いらっとするほどの爽やか笑顔を振り撒いて、佐久間恵介さくまけいすけがこちらにやってきた。

「ハルキ今日も眠そうだな」

 アホな親友と発言レベルが同じな佐久間だが、その正体は学校の女子生徒のアイドル的存在。大人しく見せる黒髪無造作ヘアーだが、整った顔にどこぞの芸能人的愛想。学業優秀、スポーツ万能。もう描写するのも馬鹿馬鹿しくなるほどのイケメンのお手本である。

「お前ら俺を描写する時絶対に『このいつも眠そうな――』から入るだろ」

「? なんの話だ?」

「何でもない。こっちの話だ」

 いつもの眠そうな眼で筑紫と佐久間を睨んでやる。

「ねね、ハルっちゃん! 近々ハルっちゃん家に行っていい?」

「んん……って、はぁ!? な、なんで……?」

 急な筑紫の発言に思わず声が上擦る。閉じかけていた眼もついつい開く。

「だってさ、二年になってから全くハルっちゃんち行ってないじゃん? おばちゃんにも挨拶したいし、つかハルっちゃんちにあるWeeが面白すぎてちょくちょく通いたいくらいなんだよ!」

「ああ、あのテニスのか! 面白いよなあれ」

 佐久間も同調する筑紫の言うWeeとは感応型コントローラー対応の据え置きゲーム機である。そういえば押し入れにいれっぱなしですっかり忘れてたな。今度四人でやろう。二葉と三葉喜ぶぞきっと。

「というわけで、今度俺らを楽しませてくれ」

 お前らは喜ばんでいい。

「ナニナニッ!? なんの話してるんだい?」

 三人でだべっていると、話が聞こえたらしいクラスメイトにして一葉の唯一の親友である枝村葵が、跳ねるようなステップで俺の背後から顔を覗かせる。彼女はとにかく元気印。肩まで伸びる薄茶色の髪の毛に前髪を留めるための青い髪留めがトレードマーク。大きな瞳に猫のような特徴的な口角。美人というよりも可愛いらしい仕草の多い、明るく笑顔の眩しい女の子である。

「おはよアオイちゃん、Weeって知ってる?」

 筑紫が後ろで俺の両肩に手をかけている葵に問い掛ける。

「おはよ筑紫クン! ゲームだよねっ? あのCMでやってるやつ!」

 葵がスカートを翻しながら、見えないテニスラケットを振る。

「そそ、それが何故か一人暮らしのハルっちゃんちにあるんだよこれが!」

「マジかい!? そりゃすごい!」

 大袈裟に驚いて持っていた透明ラケットを放る葵。

「なんかの抽選で当たったんだよ」

 筑紫め、余計なことを。この流れだときっと……、

「よし、じゃあ今度ハルキんちに皆で集まるか!」

 佐久間が何かいいことでも思い付いたように立ち上がって提案する。

 サクマこら! お前サクマじゃなくてアクマだろ!? どう考えても俺を陥れようとしているとしか思えないぞ。

「いやいやいやいや! 無理だって! 俺の部屋に八人も人が入るわけねえよ!」

「八? 春樹と筑紫と俺と枝村と碧原と花咲で六人だろ? それぐらいなら大丈夫じゃないか? 他にも誰か仲良いやつでも呼ぶのか?」

 佐久間は指で数を数えながら首を傾げている。焦って口が滑った。つい二葉と三葉がいる前提の話をしてしまった。というか呼ぶのかってもううち来ることは確定かよ!?

「ちょ、待てって! 俺の部屋汚いし、女の子をそんな部屋に入れるわけにはいかねえだろ!?」

 俺は半ば必死になって反論する。実際は綺麗好きな一葉が隅々まで掃除してくれているので足の踏み場もないなんてことはない。

「あたしはあんまり気にしないよ?」

「俺! 俺が気にするの!」

 気にするのは同居バレについてだが。丁度俺が涙目で訴えている時に、天使の鐘が鳴った。一限開始のチャイムである。

 おし、このままこの話はうやむやにしちまえば大丈夫だ!

「げ、授業だ……」

「うーん、残念」

「じゃあハルキ、来週までに部屋綺麗にしといてくれよ!」

「おう、まかせとけ! ……ってはぁ!?」

 口々によろしく〜やらまかせた〜など人の気も知らない無情な言葉を残して、各自自分の席へと戻っていった。

 まずい。もう全く断る理由が無くなってしまった。実際一人暮らしのやつの家なんて友人にたむろしてくださいお願いしますって言っているようなもんだからな……。

 しょうがない。次の英語の授業は俺のあまり思わしくない頭を存分に捻って代替案を考えることにする。

 また面倒ごとが増えてしまった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 午前中の授業はうんうんと唸りながら必死に解決策を考えていたために、授業内容などは耳から耳を光速で通り過ぎてしまった。ただ先生方からは、考えている姿が勉学に意欲的であると見なされたらしく、何度か名指しで褒められてしまった。まさかこんな不純な考えに浸っていたとは口が裂けても言えない。

 昼休みは二年になってからのお馴染みの面子、一葉、葵、花咲、筑紫、佐久間と昼食をとったのだが、ここでも佐久間が余計なことをしでかしたために、来週の日曜日はハルキんちでWeeパーティーをするぞー的な流れにしやがった。そのため、一葉から「大丈夫なの?」と「あとで話聞かせてもらうから」のありがたい目線を頂くこととなった。

 

 そして昼食を終えてからは結局思い浮かばなかった解決策を、往生際悪く頭だけ机に載せて必死に考えている。

「日曜日楽しみね」

 そこにハスキーな声で囁いて、俺の前の不在の席に腰を降ろしたのは花咲嘉穂はなさきかほだ。クールで知的な表情で妖艶に微笑する彼女は、胸辺りまで伸ばす黒髪を毛先でカールさせてふわりとした印象を出させる。それでいて凛と主張させる眉と奥二重の瞳、すっと伸びる鼻に、小さな唇。少々Sっ気がありそうなその表情も相俟って、まさしく美人といっても差し支えないだろう。スタイルもよく着物がよく似合いそうだ。

「全然楽しみじゃねえ」

 俺は机に顎だけ付けて顔をあげながらむすっと答える。

「あら、何故? 男の子三人、女の子三人。言ってしまえば合コンよ?」

「……お前わかってて言ってんだろ?」

「ふふ、何を?」

 悪戯に笑ってごまかす花咲。

 そう。何故かは今だに知らないが、花咲は俺と一葉の関係について何やら色々と知っていそうな節が多々あるのだ。

 四月に一葉との同居生活問題を解決した。その時、一葉を助けるために花咲は俺にどうすべきかを気付かせてくれた。事情も知らないのに。その前のショッピングモールハナオカでばったり出会ってしまった時もそうだ。いくら二葉と三葉を見たからと言っても、同居がばれないよう気をつけろと釘を打ってきたことは気になっていた。

 そして俺は問い掛けた。一度は交わされた質問をもう一度振ったんだ。

 

『お前は俺と一葉のこと、どこまで知っている?』

 

 と。花咲は少し思案するように歩を進めた後、真っ直ぐ俺を突き刺すような目線を俺に向けて、振り向きざまにこう言ったのだ。

 

『――知りたい?』

 

 と。俺の答えはイエスだった。しかし彼女は俺の求めている答えをくれなかった。音も立てずに口角をあげ、そして、

 

『――そのうちわかるわ』

 

 と、最後はクールな花咲に似合わない満面の笑みをくれたのだった。

 

 

「花咲……もう二ヶ月経つんだぞ。そろそろ教えてくれたって罰は当たらないんじゃないか?」

「もう二ヶ月も経つのに、相変わらずあなたは私を名前で読んでくれないわよね」

 少し口を尖らせながら毛先のカールを弄る花咲。

「じゃあカホって呼べばいいのか?」

「なんか私が強引に呼ばせてるみたいでヤね」

「実際呼ばせてるだろ」

 花咲は座りながら足をぷらぷらさせている。

「なんか距離感じるじゃない。――一葉も……葵も名前で呼んでるのに」

 ふいにそっぽを向いてそう呟く花咲。巻き髪だけしか見えなくなり、表情は伺えない。

「ん〜、まぁそうだなぁ。でも慣れちまったってのもあるからなぁ」

「そうじゃないわ」

「ん、何が?」

 花咲の発した言葉の意味がよくわからず聞き返してみるが、花咲は首を横に振った。

「何でもない」

 よいしょと零して、席を立つ。

「ふふ、日曜日あなたがどうでるのか、楽しみにしてるわ」

 意味深に微笑んで、花咲は一葉と葵の元へと戻って行った。やっぱりあいつ絶対に何か知ってるだろ……。

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