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3.ファーストコンタクト(前)



「到着いたしましたリツヤ殿!」


「……お疲れさま」


 振り向いたナキの口に緑色唐辛子の肉詰めを突っこんでやりながら、わたしは荷車から降りた。


 ちなみにこの料理、わたしが今暮らしている町ではわたしの創作料理として知られているが、元ネタはもちろん、わたしが日本でよく食べていたピーマンの肉詰めである。こちらの緑色唐辛子が、ほとんどこぶし大のピーマンといってさしつかえないほどピーマンそっくりの見ためをしていたことからひらめいた。


 作り方は簡単。緑色唐辛子を半分に切って、中の種をきれいに取りだしたのち、ロゥロという真珠のような花から採れる油を薄く全体に塗る。そこへ、バティの挽肉に赤い香味野菜のみじん切りと黒胡椒もどきを加えよく練ったものを詰めこんで、むらなく焼く。


 焼き上がりは、緑色唐辛子を旨味ごと包みこんだロゥロの油が真珠のごとく輝き、香味野菜と黒胡椒が香り、透明な肉汁がじゅわりと染みだし――まあ、それは今はどうでもいい。


「美味です、リツヤ殿!」


「そう、それはよかった」


 緑色唐辛子の肉詰めは冷めてもそれなりにおいしいからお弁当にも向いてるんだよ。まあ、それも今はどうでもいい。


 目の前に広がる景色を見て、わたしは溜息をついた。


 ――到着してしまった。ここからが正念場だというのに。


 乗り物酔いと精神疲労で、コンディションは最悪だ。


 あのあと――森で肉食獣に囲まれたあとの、ナキの活躍、もとい暴走はすごかった。


 手近な大木を引っこぬいて振りまわし、向かってくる肉食獣を文字通り吹っとばしながら森を驀進、その勢いのまま隣町もあっという間に通過してこの都に突入し、大通りの華やかな人々を跳ねとばしながら都のはずれまで突きすすんで、止まった。


 本人は、人食い獣からリツヤ殿をお守りせねばと夢中でしたてへ、とかいっていたが。そのリツヤ殿は、時速二百キロは出ていそうな荷車から放りだされないようにと命がけでしがみついていた。


 帰ったら爺さまに、この世界の人間の身体能力について確認しよう。個人差こそあれ、わたしが元いた世界とそう変わらないと思っていたのだけれど、もしかしたら認識違いだったのかもしれない。少なくとも元の世界ではわたしに、片手で大木を引っこぬいたり、新幹線とほぼ同じ速度で走ったりする知りあいはいなかった。





「――で」


 気持ちを切りかえるべく頭を振って、わたしはあらためて目の前に広がる景色を――灰色の絶壁に背を守られたたずむ、焦茶色のお屋敷を見つめた。


 平屋建てで、高さはない。そのかわり幅は、わたしの小さな食堂が軽く八軒は入りそうなほど広かった。老木から造られたような焦茶色の外観は、なんとなく、廃校になった古い木造校舎を思わせる。


 そんなお屋敷の窓という窓は、噂通り、内側から黒い布で塞がれていた。中にだれがいて、なにをしているのか、いっさい窺い知ることはできない。そもそもここは都のはずれもはずれ、近くに民家はひとつだってないのだから、わざわざ窓を塞ぐまでもなく、屋敷の中を人に覗かれることはそうそうないはずだが。


 お屋敷の左手には枝垂れ柳の木がある。日本にもあった枝垂れ柳とまったく同じものかどうかはわからないが、よく似ていた。湿気を含んだ風にゆらゆらと揺れている。


 お屋敷より背の高い、その枝垂れ柳の木の下には、どう見ても墓石だろうものが置かれている。卒塔婆もどきの木片もお屋敷を囲うように、六本ほど地面に突き刺さっていた。


 なにか出る雰囲気満載だ。――わたしがそんなことを思っていたとき、



「きゃああああああ!」



 高い、女の子の悲鳴が聞こえた。


 続いて響く、爆発音。


「なにごと?」


 反射的にバスケットをかばったわたしは、次の瞬間目を疑った。



 ――ぬるり。



 お屋敷の、向かって左側の壁から、女の子の頭が生えてきていた。





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