【七.閑話之二 -Bathroom-】
【七.閑話之二 -Bathroom-】
先ほどまで、自分が袖を通していた衣類を鞄の中に投げ捨て、お風呂場の扉を開く。一瞬、足を付けたタイルの冷たさにたじろぐものの、意を決して風呂場へと立ち入った。
灰色のタイル。湯船はそこそこ大きくて、湯船の正面には、温度調節などをするためのコントロールパネルが設けられている。
いいとこ住んでるなぁ。
と、心の中で呟く。自身の住んでいるASO警備保障の女子寮とは大違いだった。会社自体は大きく、寮自体も綺麗なのだけれど、残念ながらユニットバスで、湯船につかることはできない。まして、こんなコントロールパネルなんてついていなかった。地味に、その点はうらやましく思った。
シャワーヘッドを握り、お湯を出す。それ程、時間が掛かることなく、水温は適度な温かさになった。それを確認し、お湯を頭から浴びる。お湯は心地よく、短い髪を伝い、体の汗を洗い流してくれた。
なんで、こんなとこにいるのか。
人の家で風呂を借りているにも関わらず、置いてあるシャンプーに不満を覚えながら、過去を思い出す。昨晩の出来事を。
結局あの晩、私は真琴さんにひどく叱られた。今思えば、当然といえば当然。まさか、諏訪部が当事者でじゃないなんて思ってもみなかったけど。けれども、諏訪部が事件に関わりがないという訳ではないので、監視は続けなければならなかった。かといって、大人数を割くわけにはいかないし、いざ、諏訪部がアウトサイドだった場合、通常の人では一対一で太刀打ちできない。真琴さんは調査から離れられないから、消去法で私にお鉢が回ってきたという。
まぁ、当初のように隠れて監視が続けられればよかったのに、バレたら仕方が無いって開き直るのはどうなのか。
それに、普通、男の部屋に女の子放り込むのはどうなのよ。昨晩の戦いで、アウトサイド特有の赤眼症も見受けられなかったし、普通の人が、私をどうにか出来るなんておもわないけど。
「普通の人、か」
十分に泡立ったシャンプーをシャワーで洗い流す。短い髪。人を外れた時から決して伸びることは無い短い髪。髪の毛だけではない。顔も、体も、当然、胸だって。鏡に映る自分の姿は数年前から何一つかわっていない。同級生と並んだって、妹にしか見られることのなかった。とはいっても、自分の命を救ってくれたこの血を流れるナノマシンを恨むことなんてできやしないのだけれど。
「さてと」
リンスもボディソープも洗い流して、お湯を止める。風呂から上がり、鞄からバスタオルと着替えを取り出す。
頭にバスタオルを被り、着替えを完了すると、私は脱衣所を出てリビングへと向かった。