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「私から息子まで奪う気か!!」
激しく痛むお腹を痛みのあまり押さえる。
夫が剣を掲げ、私目掛けて振り下ろす。
目を瞑り、襲い来る痛みへの覚悟を決める。
「ウッ!?」
私の顔に夫の血が飛んできた。。
夫のお腹から一本の剣が突き抜けている。
「貴方に御仕いできた事を、光栄に思います。陛下」
夫のお腹に刺さった剣が抜かれると夫は地面へ崩れ落ち、横へ倒れた。
「はぁ……はぁ……」
「マンドリー様」
バノの手を掴み起き上がる。
「ありがとう。バノ」
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
「その……どうしようもありませんでした。陛下は……」
「分かってるわ。夫は我を失っていた」
「今や貴女が最高支配者です。処遇はお任せします」
「ンフフ、もう国なんて残ってないわ」
「ですが、ジェマス様が和平案があると」
「ないわ。私がジェマスに言ったの。ただ……このままよりは望みはあると思って……ジェマスは?」
「既に脱出しています」
「良かった。あなたも早く……」
剣と魔法が激しくぶつかり合う音が聞こえてくる。
アント兵が砦内部へと雪崩れ込んで来ていた。濁流の様に迫ってくるアント兵。
「ルド! 盾壁を作れ!」
「ウーラー!!」
「我々が時間を稼ぎます。早く!!」
「でも……」
私の怪我が深刻な事にルドは気付いていないようだった。
「早く!!」
「分かったわ」
「入ったら扉に鍵を」
静かにルドへ頷くと、ルドは仲間の足止めしている仲間の元へ向かって行った。
私はお腹を押さえ、壁に手を突きながら必死に急ぎ非常通路のある部屋へと向かう。
少しでも可能性が残されているのなら、私が和平を……。
部屋に入りドアを閉めると、ルド達近衛兵の悲鳴や叫びが聞こえてくる。
レダ達の姿はもうない。今はただ無事に出られた事を祈るしかない
身を屈め、暖炉内部の壁の鉄格子を開き、中へ入る。
この国に嫁いだ時以来訪れた事のなかった通路。
かなり荒れ果ててはいるけど、ちゃんと通路としての役目はまだ果たしているみたい。
地響きで揺れる中、薄暗い通路を進んでいく。
流石ブラッカスの魔法ね。まだ灯火を失っていない。
彼らも私達のような最期を迎えたのかしら。
薄暗い通路を抜け、配管の通る下層地区へと出た。
縦に狭く隙間がある天井や床のおかげで光が入り、見通しが利く。
上層から足音が聞こえ、静かに配管の隙間へと隠れ息を潜める。
「この場所は何か妙だと思わないか?」
「ああ、何か変だとは思ってた」
「死んだ仲間の魂が干からびてたらしい。それも全員らしい」
「行かなくて正解だったな。近衛兵の蛙共はどうなったんだ?」
「別の階層で抵抗している連中がいるみたいだが、殆ど全員くたばったみたいだ」
「あいつらは厄介だからな。片付いて良かった」
「ああ、出くわした連中は哀れだよな」
「ハッハッハッ。あぁ、そろそろ行こう。フェロモンを辿られてサボっているのがバレると困る」
「だな」
アント兵の足音が遠ざかっていく。
痛むお腹を押さえ、配管の隙間から出る。
だけどあまりの痛みに地面へ倒れ込んでしまった。
お腹は既に黒く変色していた。
もう下半身の感覚が殆ど残っていない。
仰向けになり、静かに上を眺める。
ベルが無事なら……私は……。
目の前が掠れていき、次第に地響きが聞こえなくなっていった。
Ⅱ 〘目覚め〙
「はっ!?」
目が覚めると、薄暗く広い部屋に仰向けに横たわっていた。
何だか…無性に悲しい。
起き上がり更に周囲を見回す。
広い部屋なのに、僕以外誰もいない。
部屋の至る所で装飾が青く光る家具が散乱して置かれている。
立ち上がり自分の服を見ると、紫の宝石が付いた紺色のローブを着ていた。
ここはどこ…。
僕は一体…。
徐ろに好奇心に駆られ、部屋を歩き回る。
まったく見覚えがない。それどころか、記憶が殆どない。自分の名前すら思い出せない。
一人で状況を考えながら部屋を見回していると、椅子の側で何かが動くのが見えた。
急いで椅子の所へ行く。
でも、何もない。
自分の影だったのかな?
何かの気配を背後に感じ、すぐさま振り向く。
でも誰もいない。
おかしい…。何かいたと思ったけど…。
やっぱり僕以外にも、この部屋にいるのを感じる。
急いで周囲を見回すが、誰もいない。
目を凝らすと、暗闇で微かに青く燃えている物が目に入る。
よく見ると、動いている。翼を折り畳んでいる?
床に置かれた小物に紛れて、黒い球体が微動だに揺れ動いているのが分かる。




