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2016〜2018。リライト2020。
Ⅰ章 〘崩壊〙
創造物は常に創造主に牙を剥く。『神の愚行』より。著:ヒューバート。
── エアレンデル第1領域 暗黒期終焉…。
この場所は数日前まで、ただの万一の避難所でしかなかった。
でも今では最後の要塞となっている。
皆に背を向け、テーブルに手を突き、テーブルに広げられた戦況オブジェクトを必死に見ている夫。
夫はこんな状況でも、勝利を諦めていない。
夫とは裏腹に、生き残った数人の元老院達の表情は皆険しい。どこか、諦めているのが分かる。
我が国の国旗が描かれたタペストリーを潜り抜けサラマンダーの将軍ジェマスが慌てた様子で部屋へ入って来た。
彼はもう3人目の代理の将軍。4人目はもういない。
「陛下、我が軍の指揮系統は既に崩壊し始めています。今こそ和平を呑むことを進言致します」
「マルクスの精鋭、第2戦列破壊師団が残っている。それで形勢を覆せる。その後レイノフの第6烈光旅団で奇襲を掛ける」
元老院達は顔を顰め、中には俯く者も。
「陛下、マルクス将軍は2日前に戦死しています。レイノフももういません。我々にはもう戦列師団どころか、まともな部隊が残されていないのです。どうか和平の検討を」
「我が国を売り渡せと?」
「いえ、生存の道を……」
「貴様は反逆者だ!! バノ! ジェマスを反逆罪で捕らえよ」
「……仰せのままに陛下」
ボサリのバノと数人の近衛兵がジェマスを魔法錠で拘束する。
ジェマスは一切抵抗する事なく受け入れた。
「陛下、私を処断しても何も変わりません。我々にはもう軍が残されていないのです」
「いいや、貴様がマルクスを殺し、我が軍を隠したのだ。貴様は反逆者だ!! 連れていけ!!」
ジェマスが処刑場へと連行されていく。
ジェマス達が部屋を出た直後、爆撃音と共に要塞が激しく揺れた。
元老院達が慌てふためきながら立ち上がる。
「も、もうここまで砲撃が」
「へ、陛下、避難致しましょう」
「マルクス……友よ。私を置いてどこへ行ってしまったのだ。なぜこの国を、私を見捨てたのだ。我々の国を……」
再び激しい揺れが要塞を襲う。
元老院達は皆部屋を急いで出て行った。しまった。
小刻みな揺れが要塞を襲っていく。
「どうしてだ……どうして……」
テーブルに手を突き、涙を溢しながら項垂れる夫の肩を後ろから優しく擦る。
「あなた、もういいわ。私達はこの戦争に負けたのよ」
「…………」
「今ならまだ民や大勢の兵士を救える。だから和平を……」
「黙れ!!」
夫が勢い良く振り向き、私は突き飛ばされ、地面に崩れ落ちてしまった。
「お前まで私を裏切るのか?」
「誰も裏切ったりしていない!」
「いいやそうだ。皆私を裏切ったのだ」
部屋の奥にある武器庫へと向かって行く夫。
私は急いで部屋を出る。
部屋を出ると、皆が慌てて出口を目指していた。
空いた部屋に隠れに行く者達、武器を取り、最後まで抵抗しようと向かって行く兵士達。
私は急いで自分の部屋へと向かう。慌てて逃げる人々を避け急いで向かう。
ドアを勢い良く開け、息子の寝ているベッドへ。
でも息子の姿はなかった。
「ベル! !ベル! どこに行ったの!! 私の大切なベル!!」
叫んでも幼い息子が返事をするはずがない。それでも息子を呼んでしまう。
「王妃様」
奥の衣装ケースの裏に隠れていたポマの使用人レダが毛布に包まれたをベル抱き出てくる。
「ベル!!」
レダからベルを預かり、ベルの顔を眺め抱く。優しく揺らし、泣き出しそうなをベル落ち着かせる。ベルは泣き出す事なくまたぐっすりと眠りについた。
「をベル見ててくれてありがとうレダ」
「いえ、それより王妃様、早く逃げた方がよろしいかと」
「そ、そうね」
レダと共に急いで部屋を出る。
最早砦の揺れが収まる事はなく、常に爆撃の振動で揺れ続けている状態が続く。ベルを落とさないよう必死に抱き抱え、出来る限り急いで出口へと向かう。
通路は所々天井が崩れ始めていた。天井の破片が小さくも振動で落ちてきはじめている。
「キャーー!!」
突然の悲鳴に目を凝らすと、信じられない光景が目に映った。
夫が剣を持ち、逃げようとしている人々を次々と斬り捨てていた。
「へ、陛下がどうして……」
レダは動揺し、硬直寸前になっている。
「夫はもう……いないわ」レダの前に行き、レダの目を強く見つめるレダよく聞いて、向こうの部屋の暖炉に、隠しハッチがある。そこから外へ安全に脱出できる。貴方は出来るだけ多くそこから皆を避難させて」
「え!?」
「息子をお願い」
レダにベルを託す。
「どうして!? 王妃様も一緒に!」
「私は夫を止める」
「…………」
「早く行って!」
レダが指示通り向かって行く。
「皆さん、こちらに安全な出口があります! 早くこっちに……」
夫と目が合う。
夫はレダが抱くベルを見ると激しい剣幕でこちらへ向かってくる。
こちらへ来る途中も、邪魔になる人々を斬りつけながら向かってくる。
夫にアイスシャードを数発放ち、床に落ちている剣を急いで拾いに行く。
「うぐっ!?」
だが剣を拾えたものの、抜くのが間に合わず、走ってきた夫が私のお腹を蹴り飛ばした。
そのまま壁へと叩きつけられる。




