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会社では無能な係長ですが、ダンジョンでは最新鋭SF兵装で「仕事」してます ~あ、残業代(ドロップ)は嫁の機嫌取りに使います~  作者: 秦江湖


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事後処理という名の隠蔽

戦闘終了から一時間後。  日付が変わる頃、新宿の上空には、ようやく報道ヘリや警察のドローンが飛び交い始めていた。


「う、うぅ……頭が……。ワイン、ワインはどこだ……?どうしたんだ?く、黒木君?どうしてここに?」


 半壊した役員室の瓦礫の中で、二階堂が目を覚ました。  高級スーツはボロボロ、顔は煤だらけ。  彼は状況が理解できず、キョロキョロと周囲を見回している。 どうやら断片的に記憶も失っているようなのは、俺にとっては都合がいい。


「あ、あれ? 怪物は? 黒い巨人はどこへ行った?」


「消えましたよ。あなたの『世紀の発明』と一緒にね」


 俺は瓦礫に腰掛け、缶コーヒー(ソウジが下の自販機で買ってきた)を飲みながら答えた。


 全身の筋肉が悲鳴を上げているが、心地よい疲労感だ。



「き、消えた? まさか君が倒したのか?」


「まさか。俺みたいな平社員にそんな力はありませんよ」


 俺は肩をすくめた。  ここで「俺がやりました」なんて言えば、明日からマスコミ攻勢と社内の尋問攻めで、平穏な生活が終わってしまう。


「偶発的なエネルギー暴走で、自壊したんです。俺たちはただ、運良く瓦礫の隙間に隠れて助かっただけです」


「そ、そうか! そうだよねぇ! あんな化け物、人力でどうにかできるわけがない!」


 二階堂は安堵の息を吐き、すぐに表情を歪めた。


「し、しかし……モノリスが消えたとなると、僕の成果もパーじゃないか! ビルもこんなになっちゃって……どうするんだこれ! 社長になんて言い訳すれば……!」


「ご心配なく。……カレン、状況は?」


 俺がインカムに問いかけると、少し疲れた声のカレンが答えた。


『バッチリです先輩。ネット上の監視カメラ映像、目撃者のスマホ動画……先輩が映ってるデータは全て「ノイズ処理」か「消去」しました』


 さすが仕事が早い。  彼女は続ける。


『それと、今回の騒動の原因ですが……「ダンジョン深層からの突発的な磁気嵐による、電子機器の誤作動とモンスターパニック」という公式発表カバーストーリーを流しておきました』


『二階堂が勝手に起動させたログや、暴走させた瞬間の映像は、戦闘の余波でサーバーごと物理的に消し飛びましたから……「不可抗力の事故」として処理可能です』


「だ、そうですよ、課長代理」


 俺が伝えると、二階堂はパァッと顔を輝かせた。


「ほ、本当か!? 僕のミスじゃないことになるのか!?」


「ええ。ただし、現場責任者としての管理責任は免れませんがね。……まあ、クビにはならないでしょう」


「ところで、今話していたのは誰?」


「ああ、本社の『危機管理課・システム担当』の女性です。夜間対応してもらいました」


「そう……。さすが本社だ。危機管理体制も徹底しているわけか」


 なにを能天気なことを言っているんだ。


 会社の損失は莫大だが、二階堂家(大株主)の力と、決定的な証拠がないことで、彼はギリギリ首の皮一枚で繋がるはずだ。  生かさず殺さず。  それが、一番あいつにとっての「罰」であり、俺たちにとっては「都合の良い盾」になる。


「さあ、そろそろ救助隊が来ます。行きましょう」


 俺は立ち上がり、二階堂に手を貸すフリをして、こっそりとソウジたちに目配せをした。  ソウジとアイリスは、すでに闇に紛れて撤収している。  彼らは表舞台に出てはいけない存在だ。


「黒木くん! 君、明日からも僕の補佐をしてくれよな! 報告書の書き方とか、君の方が詳しいだろ!?」


「……勘弁してくださいよ」


 俺は苦笑いしながら、夜空を見上げた。  長い、長い残業が終わった。



        ◇



 その頃。  黒木たちが去った本社ビルから数百メートル離れた、別の高層ビルの屋上。  その縁に、四つの人影が佇んでいた。


 彼らがまとっているのは、黒木と同じ流体金属のスーツ。  だが、その色は対照的な、月光を反射して輝く**「純白」**だった。


 男が三人、女が一人。  その造形は、まるで美術館から抜け出してきたギリシャ彫刻のように端正で、完璧な均整が取れている。  だが、その瞳には感情の色が一切なく、ただ冷徹な光だけが宿っていた。


 彼らは、黒木が倒したアポカリプスの上位存在。  遥か未来で人類を絶滅へと追いやる管理AIが、現代を効率よく「掃除」するために送り込んだ、最新鋭の疑似生命体たちだ。


 中央に立つ、リーダー格と思しき男が口を開いた。


『――《先遣ユニット「アポカリプス」の消滅を確認》』


 発されたのは、人間の言語ではなかった。  硬質なノイズと、超高速で圧縮されたデータ信号音が混ざり合った、不可解な機械言語。  だが、彼らの間では明確な意思疎通が行われていた。


『――《イレギュラー因子、個体名「クロキ」の戦闘データ収集完了》』 『――《評価:危険度S。現行人類における唯一の脅威と認定》』


 紅一点の女の個体が、抑揚のない声でデータを読み上げる。  彼女の指先が空中で動き、ホログラムウィンドウに黒木の戦闘映像――リミッター解除時の一撃――が再生される。


『――《旧型クラシックモデルにしては、予想外の出力だ。……だが、所詮は旧型。「感情」というノイズが判断を鈍らせている》』


 大柄な男の個体が、侮蔑を含んだノイズを発した。  彼らの白いスーツは、黒木のものより遥かに洗練され、無駄のない進化を遂げているように見える。


『――《計画を修正する。力押しでの排除(アポカリプス案)は失敗した。我々は、より確実な手段を取る》』


 リーダーが告げると、四人の体が同時に揺らめいた。  光学迷彩が作動し、白い流体金属が夜の闇に溶けていく。


『――《フェーズ2、真なる侵攻サイレント・インベージョンへ移行する。……人間社会に溶け込み、内側から「腐らせる」のだ》』


 彼らは最初からそこにいなかったかのように、痕跡一つ残さず消失した。


 新宿の街は、まだ何も知らない。  黒い巨人の脅威が去った後に、それよりも遥かに恐ろしく、知的な「白」の絶望が忍び寄っていることを。  そして、黒木係長の本当の戦いが、まだ終わっていないことを。


 

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