突破口を開け
本社ビル正面、メインエントランス前広場。 そこは、機械の死骸と瓦礫の山となっていた。
「オラァッ! 邪魔だ邪魔だぁッ!」
ソウジが手首を振るうたびに、不可視のワイヤーが空間を走り、群がるソルジャーの首を次々と切断していく。
「ぬんっ! シールド・バッシュ!」
アイリスが戦車のような勢いで突進し、大盾でスカベンジャーの群れをボウリングのピンのように弾き飛ばす。
俺たちの連携は完璧だった。 カレンのナビゲートで敵の薄い場所を突き、ソウジが足を止め、アイリスが吹き飛ばし、俺がトドメを刺す。 まるで熟練の職人チームによる流れ作業だ。
「正面、クリア! 今のうちに突っ込むぞ!」
俺が叫び、自動ドアが破壊されたエントランスホールへ向かおうとした、その時だ。
ズズズズズ……ンッ!!
広場の敷石が大きく隆起し、ビルの入り口を塞ぐようにして、巨大な影がせり上がってきた。
全長十メートル。 四本の多脚戦車のような下半身に、重厚な装甲に覆われた上半身。
両腕には、俺のパイルバンカーを数倍大きくしたような削岩ドリルが装備されている。
『警告。大型建設用ドローン「フォートレス」の変異体を確認。推定重量、五十トン。正面装甲、物理耐性極大』
マリアが警告音を鳴らす。 フォートレス。本来はダンジョンの岩盤を掘削するための重機だ。 それが今、赤く光るカメラアイをぎらつかせ、俺たちを見下ろしていた。
「GOOOOOOOOOO……ッ!」
地響きのような咆哮と共に、巨大なドリルが回転を始める。 あれを食らえば、アイリスの盾でもただでは済まない。
「チッ……! ここで足止めかよ!」
俺が舌打ちをした瞬間、フォートレスがドリルを振り下ろした。 標的は俺だ。 回避行動を取ろうとした俺の前に、黄金の影が割り込んだ。
「下がれ主! ここは我の戦場だ!」
ドガアアアアアアアッ!! 轟音と火花が散る。 アイリスが大盾を斜めに構え、回転するドリルの直撃を受け止めていた。 地面のアスファルトが蜘蛛の巣状に砕け、彼女のブーツが沈み込む。
「ぬぐぐ……ッ! 流石に重いな! だが、退かぬ!」
「アイリス!」 「旦那! ボサっとしてんじゃねぇ!」
ソウジが叫びながら、フォートレスの背後へと跳躍した。 十本の指からワイヤーを射出。巨大な脚部に幾重にも巻き付け、近くの街灯やガードレールに固定する。
「このデカブツは俺たちが引き受ける! あんたは先に行け!」
「馬鹿野郎、お前らだけで勝てる相手じゃ……」
「勝つさ。俺たちを誰だと思ってんだ?」
ソウジがニヤリと笑い、ワイヤーを引いて敵のバランスを崩させた。
「俺たちは、あんたが認めた『プロ』だろ?」
その言葉に、俺は息を呑んだ。 そうだ。こいつらはもう、俺が守ってやるだけの庇護対象じゃない。 背中を預けられる、対等のパートナーだ。
『先輩、行ってください!』
インカムからカレンの声が響く。
『地下へのゲートは、緊急ロックされてます! 解除するには、二階堂の生体認証が必要です!』
「なんだと? あいつなら、さっき外に逃がしたはずだぞ。スマホのGPSを追え」
俺は走りながら問い返した。 だが、カレンから返ってきた答えは、俺の想像を絶する「アホな行動」だった。
『それが……あいつの信号、最上階の役員室にあります!』
「はぁ!? なんでわざわざ戻ってきてるんだよ!」
『多分、外がモンスターだらけでパニックになって、「本社最上階の『役員用シェルター』なら助かる!」って逃げ帰ってきたんですよ! 裏口の専用エレベーターを使ったみたいです!』
「……あのバカッ!」
俺は思わず悪態をついた。 外が地獄なのは分かるが、元凶であるモノリスの真上に逃げ込んでどうする。自ら火口に飛び込むようなものだ。 だが、これでやるべきことは決まった。
「つまり、地下に行くには、一度最上階まで行って、あの震えてるバカの首根っこを掴んでこなきゃならんわけか」
『そういうことになりますね……。最短ルート、検索します!』
「……手間をかけさせやがって!」
俺は覚悟を決めた。 二階堂の野郎、とことん俺に残業をさせたいらしい。
「……待ってろよ、二階堂。稟議書のハンコを貰いに行ってやる」
俺は階段を一段飛ばしで駆け上がった。
その行く手を阻むように、上階から新たな機械兵の足音が近づいてきていた。




