チーム集結
時刻は一八時三〇分。 新宿の街は、文字通り火の海と化していた。
ドォォォォン! 各所で爆発音が上がり、停電したビル群の窓から炎が噴き出している。 地上では、警察の機動隊や、駆けつけた探索者たちが防衛線を張っているが、戦況は絶望的だ。
「くそっ! 魔法が効かねぇぞ! どうなってんだ!」
「撃て! 実弾で止めろ! ……だめだ、装甲が厚すぎる!」
悲痛な叫びが飛び交う中、俺はビルの屋上を跳躍しながら、最短ルートで本社ビルを目指していた。 眼下では、ソルジャー型の機械兵が、アサルトライフルを乱射しながら人々を追い立てている。
『警告。マナエネルギー残量、六〇%。連続戦闘による消費が増大しています』
「構わん。リミッターは解除したままだ」
俺はマリアの警告を無視し、さらに加速した。
俺の胸中には、先ほどの自宅の惨状が焼き付いている。
砕け散った窓。穴の空いた壁。 修繕費はいくらになる? 保険は適用されるのか? いや、そもそもローンがまだ三〇年も残っているのに、資産価値が暴落じゃないか!
「……二階堂。テメェは絶対に許さん」
俺の怒りは、世界の危機に対してではなく、個人的な資産損失に向けられていた。
だが、その怒りこそが、今の俺を突き動かす最大の燃料だ。
◇
本社ビルから二ブロック離れた、裏路地の雑居ビル屋上。 ここが、事前に決めていた合流ポイントだ。
俺が屋上に着地すると、闇の中から三つの影が現れた。
「旦那! 遅かったじゃねぇか!」
ワイヤーを指に絡ませ、貧乏ゆすりをしていたソウジ。
「主よ、無事であったか! 奥方様は守れたのか?」
身の丈ほどの大盾を構え、仁王立ちしているアイリス。
「先輩! こっちは準備完了っすよ!」
複数のタブレットを展開し、キーボードを叩きまくっているカレン。
全員、臨戦態勢だ。 俺はバイザーを解除し、生身の顔で彼らに頷いた。
「ああ。家の『害虫駆除』は済ませた。……だが、壁にデカい穴が空いた」
「ぶっ! あはは! そりゃ災難だったな。修繕費は経費で落ちねぇぞ?」
「笑い事じゃない。……カレン、状況を」
俺が真顔で尋ねると、カレンは表情を引き締めてタブレットを俺に向けた。 画面には、現在の新宿の地図と、敵の分布図が表示されている。 本社ビルを中心として、真っ赤な反応が渦を巻いていた。
「状況は『チェックメイト』一歩手前です。地下のモノリスは、新宿中の地下ケーブルから電力を吸い上げて、自己増殖を始めてます」 「自己増殖?」 「はい。地下駐車場が、奴らの『製造工場』になりつつあります。放置すれば、スカベンジャーやソルジャーが無限に湧き出てきますよ」
なるほど。二階堂が夢見た「無限のエネルギー」は、人類を駆逐するための生産ラインに使われているわけだ。 皮肉な話だ。
「攻略目標は?」
「一点のみ。地下二階の保管庫にある『モノリス本体』です。あれを物理的に破壊すれば、全ての端末は停止します。……理論上は」
カレンが少し自信なさげに付け加える。 相手は未来の未知のテクノロジーだ。何が起こるか分からない。
「十分だ。やることは変わらない」
俺は再びバイザーを装着し、スーツの出力を上げた。 全身の流体が脈動し、戦闘モードへと移行する。
「ソウジ、アイリス。お前たちは前衛だ。ビルへの侵入経路を確保しろ。雑魚は任せる」
「へいよ。久々に派手な『解体ショー』といきますか」
「承知した! 我が盾は、主の道を切り開くためにある!」
二人が頼もしく答える。 俺は最後に、情報支援担当のカレンを見た。
「カレン。お前はここから俺たちの目になれ。退路の確保と、敵の増援ルートの監視だ。……ヤバくなったら逃げろ」
「了解っす! 先輩たちこそ、生きて帰ってきてくださいよ! ……じゃないと、残業代請求できないですからね!」
カレンが気丈に笑う。 準備は整った。
俺は屋上の縁に立ち、眼下にそびえる本社ビルを見下ろした。 かつては俺が毎日通い、無能係長として頭を下げていた場所。 今は、禍々しい紫色の光を放ち、数千の機械兵が蠢く魔城と化している。
「……さて、行くか」
俺は誰にともなく呟いた。
「今夜の仕事は長丁場だ。……全員、気合を入れろ」
次の瞬間、四つの影が同時に夜空へと躍り出た。 反撃の狼煙が上がる。




