二階堂の「世紀の大発見」
週明けの月曜日。 本社の大会議室は、異様な熱気に包まれていた。
「諸君! これを見たまえ! 我が社、いや人類のエネルギー問題を解決する『賢者の石』だ!」
壇上で二階堂が叫び、スクリーンの映像を切り替える。 映し出されたのは、新宿ダンジョンの深層――未踏破エリア『地下五〇階層』の映像だ。 重装備の探索者たちに守られながら、二階堂が得意げに指差している先。 古代遺跡のような石室の中央に、それは鎮座していた。
高さ三メートルほどの、漆黒の立方体。 表面には幾何学的な回路のような紋様が走り、青白く明滅している。 **『モノリス』**だ。
「鑑定の結果、この物体は周囲のマナを吸収し、純粋な電力へと変換し続けていることが判明しました! これ一機で、東京中の電力を賄える永久機関になり得るのです!」
役員たちから「おおっ!」とどよめきが上がる。 二階堂は鼻高々だ。
「この発見は、私が指揮した深層探査プロジェクトの成果です。現在、地上への引き上げ準備を進めています。近日中に、我が社の地下保管庫へ搬入し、起動実験を行います!」
拍手喝采。 その部屋の末席で、俺――黒木鉄也は、無表情のまま手元の資料に目を落としていた。 資料には、モノリスの写真。 だが、俺の目には、二階堂たちには見えない「情報」が見えていた。
『警告。対象は「旧文明・自律型防衛ユニット・タイプ6」。極めて危険な戦略兵器です』 「……だろうな」
脳内のマリアが、冷ややかな声で告げる。 あれは発電機じゃない。マナを食らって起動する、殺戮兵器のコアだ。 二階堂のバカは、爆弾の信管を「電池」だと勘違いして持ち帰ろうとしている。
「黒木くーん? 君も感動しているのかい? 言葉もないようだねぇ」
会議終了後、二階堂が寄ってきた。 俺はため息を隠して顔を上げる。
「……課長代理。あれ、本当に地上に上げて大丈夫なんですか? ダンジョン協会も『深層の遺物は持ち出し禁止』としているはずですが」 「君は本当にネガティブだなぁ! 協会には裏金を……いや、政治的配慮を済ませてある。これはビジネスチャンスなんだよ。指をくわえて見ていたまえ」
二階堂は笑いながら去っていった。 俺は頭を抱えた。 止めても無駄だ。あいつは手柄のことしか頭にない。
◇
その夜。 俺は行きつけの喫茶店で、ソウジと向かい合っていた。 テーブルには、タブレットで再生されたモノリスの映像。
「……なぁ旦那。この黒い箱、なんか嫌な感じがしねぇか?」
ソウジがアイスコーヒーをかき混ぜながら、珍しく真剣な顔をしている。
「魔力じゃねぇ。もっと無機質な……なんつーか、俺たちの『同類』の匂いがする」 「同類、か。鋭いな」
俺は頷いた。 ソウジは、自分の指先から伸びる極細のワイヤーを見つめる。
「俺のこのワイヤーもそうだ。あの映像を見ただけで、指先がピリピリして共鳴してやがる。……これ、俺が昔、深層のゴミ捨て場で拾ったガラクタと同じ気配だぜ」
ソウジの使う《単分子ワイヤー》。 それは彼が偶然手に入れたオーパーツだ。現代の魔法技術では再現不可能な、超未来のナノファイバー。 奴はそれを、持ち前の器用さと勘だけで使いこなしているが――。
「ソウジ。お前には、そのワイヤーの『声』が聞こえるか?」 「あ? 声? ……いや、なんとなく『馴染む』とか『嫌がってる』くらいは分かるが、声までは聞こえねぇな」
ソウジが首をかしげる。 俺は自分の右腕をさすった。 俺には聞こえる。 マリアの声として。システムログとして。明確な言語として。
「……そうか。なら、お前はまだ『人間』側ってことだ」 「なんだよそれ。もったいぶんなって。……旦那、あんたには『ハッキリ』聞こえてるんだろ?」
ソウジの問いに、俺は苦笑して答えた。
「ああ。俺は『空っぽ』だからな」 「空っぽ?」 「魔力だよ。現代人は生まれつき体にマナが流れている。だが、俺みたいな『魔力ゼロ』の旧人類は、体内がクリアだ。……だから、こういう精密機械にとっては、ノイズのない最高の器らしい」
俺の言葉に、ソウジは目を丸くし、それからニヤリと笑った。
「へっ。世間じゃ『落ちこぼれ』だの『欠陥品』だの言われてるが……俺からすりゃ、あんたの方がよっぽど『選ばれた人間』に見えるぜ」 「皮肉な話だよ。おかげで、こんな面倒な仕事(始末屋)をやらされてる」
俺は残ったコーヒーを飲み干した。 モノリスが地上に来れば、ソウジのワイヤーと俺の兵装だけが、唯一の対抗手段になるだろう。
「準備しておけ、ソウジ。……近いうちに、デカいのが来るぞ」




