表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
会社では無能な係長ですが、ダンジョンでは最新鋭SF兵装で「仕事」してます ~あ、残業代(ドロップ)は嫁の機嫌取りに使います~  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/36

その職人、予約済みにつき

湾岸エリアにある廃倉庫。


 その薄暗い空間に、肉を打つ鈍い音が響いていた。


「ぐぅッ……!」


「おいおい、まだ開かねぇのかよ。手元が狂ってんじゃねぇか?」


 ソウジの顔は、殴られて腫れ上がっていた。


 目の前には、協会のマークが入った頑丈な合金製金庫。


 ソウジは血の混じった唾を吐き捨てる。


「へっ……安物の金庫だな。鍵穴が錆び付いてやがる」


「減らず口を叩くな!」


 アガタがソウジの指を踏みつけた。


 ボキリ、と嫌な音がする。


「がぁッ!?」


「大切な商売道具なんだろ? 早く開けないと、その指、全部へし折るぞ」


 ソウジは激痛に脂汗を流しながらも、ニヤリと笑ってみせた。


「……バーカ。俺の指はな、安っぽい泥棒のためにあるんじゃねぇんだよ」


「あァ?」


「俺は、芸術家だ。……それに、明日は大事な『客』の納期なんでね。お前らの相手をしてる暇はねぇんだよ!」


 ソウジは、黒木との約束を思い出していた。  あの冴えないおっさんが、照れくさそうに注文してきたペンダント。


 あんな安っぽい仕事一つすら守れないなら、俺は一生、路地裏のクズのままだ。



「上等だ……! なら、二度と仕事ができねぇようにしてやるよ!」


 アガタがナイフを振り上げ、ソウジの手首に突き立てようとした瞬間。


 ドォォォォォォン!!


 轟音と共に、倉庫の鉄扉が内側へ向かって吹き飛んだ。


 砂煙が舞う中、半グレたちが動揺して振り返る。



「な、なんだ!? 警察か!?」 「いや……一人だぞ」


 逆光の中に立っていたのは、一人の男だった。


 安物のスーツ。くたびれた革靴。


 どこにでもいるサラリーマンに見えるが、その右腕だけが、異質な漆黒に染まっている。



 黒木だ。


 彼は顔を隠すバイザーすら着けず、堂々とそこへ入ってきた。


「……あー、すまん。ちょっと道に迷ってな」


 黒木は頭をかきながら、周囲の凶悪犯たちを無視して、ソウジの方へと歩み寄る。


「よう、ソウジ。こんな所で何サボってるんだ?」


「だ、旦那……!? なんでここが……てか、顔! 顔バレしてますって!」


 ソウジが驚愕して叫ぶ。


 黒木は裏稼業の人間だ。正体がバレれば、平穏な生活は終わる。


 だが、黒木は平然と言い放った。



「構わんさ。……ここには、『目撃者』はいなくなるからな」


「テメェ、何者だ!?」


 アガタが怒号を上げ、手下たちに合図を送る。


 十人ほどの男たちが、鉄パイプやナイフ、簡易的な攻撃魔法を構えて黒木に襲いかかった。


「殺せ! 死体は海に沈めろ!」


 殺意の波が押し寄せる。  だが、黒木はため息をついただけだった。


「……ったく。明日は嫁とデートなんだ。スーツを汚したくないんだがな」


 黒木の右腕が波打った。


 《流体操作・黒鞭ブラック・ウィップ》。


 袖口から飛び出したのは、無数の黒い触手だ。


 それらは意思を持つ蛇のように空間を走り、襲い来る男たちの武器を瞬時に弾き飛ばし、手足に絡みついた。


「な、なんだこれ!? 取れねぇ!」


「ギャアアアアッ!」


 黒木が軽く腕を振るうだけで、大の男たちが木の葉のように宙を舞い、壁に叩きつけられる。


 魔法障壁も、物理防御も関係ない。圧倒的なテクノロジーの格差。


 わずか十秒。


 立っているのは、黒木とアガタだけになった。


「ひ、ひぃッ……! ば、化け物……!」


 アガタが腰を抜かし、後ずさる。  黒木はゆっくりと彼に近づき、胸ぐらを掴んで持ち上げた。



「おい。ウチの『下請け業者』の手を怪我させたな?」


「あ、あが……ッ」


「こいつの手はな、高いんだよ。納期が遅れたら、違約金はお前の命じゃ足りんぞ」



 黒木の瞳は、深淵のように冷え切っていた。


 アガタは恐怖のあまり泡を吹き、気絶した。


 黒木は興味なさげに彼をゴミのように投げ捨てると、ソウジの拘束をワイヤーカッターで断ち切った。


「……生きてるか、ソウジ」


「へへ……。悪い、旦那。迷惑かけちまった」


 ソウジが力なく笑う。  黒木は彼の手を取り、腫れ上がった指を見た。


 幸い、骨まではイカれていない。カレンの手配した闇医者なら、一晩で治せるレベルだ。



「勘違いするな。俺はペンダントを取りに来ただけだ」


「わかってるよ。……納期は守るぜ。俺はプロだからな」


「いい心がけだ。……行くぞ。治療費は経費で落としてやる。それにしてもおまえ、なんで『スーツ』を使わなかった?俺とタイプは違っても、おまえのスーツならこいつらなんて一瞬でやれたはずだ」


「ダンジョンで使ってるスーツ使ったら、脚が点いちまうでしょうが。モンスター相手ならまだしも、こいつらは一応人間だから」


「バカ。いくらだって上手いやりかたがあるんだよ。無茶しやがって」



 黒木はソウジに肩を貸し、倉庫を出て行く。


 背後でサイレンの音が近づいてくる。カレンが匿名で通報したのだろう。


 『蛇の目』は、この夜をもって壊滅した。




 翌日。  黒木家のリビングで、優美が歓声を上げていた。


「わぁっ!すごい鉄也!これ、欲しかったペンダント!」


「似合うよ、優美」


「ありがとう!えへへ、鉄也ってたまに凄腕よね!」



 妻の首元で輝くローズ・クォーツ。


 それは、徹夜で指を治療したソウジが、包帯まみれの手で仕上げた渾身の一作だった。


 俺はコーヒーを飲みながら、こっそりとスマホを見る。


 ソウジからメッセージが届いていた。


『まいどあり。次はもっとすごいモン作りますよ、ボス』



 俺は苦笑して、画面を閉じた。  ボスじゃない。ただの得意先だ。  ……まあ、悪くない響きだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ