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毛利元就 —— 太陽と鉄の助けを借りて

小早川隆景。シャボン玉の表面に浮かぶ薄膜干渉、虹、あるいはタマムシの翅に宿る構造色。小早川隆景とは、そうした存在だった。

だが「小早川隆景」である前に、彼はまず、別の何者かであった。


そう、隆景にはかつて「徳寿丸」という名があった。竹原小早川家へ養子に入る前のことだ。彼が生まれた毛利家もまた、小早川と同じく、時代の変遷とともに風化しつつある古き一族だった。かつては富を誇ったこともあったが、迷走する経営方針によって、受け継いだ財産はほとんど底を突きかけていた。


やがて、その瓦解しかけた一族を再び一から築き上げ、かつてないほどの栄華へと導こうとする者が現れる――名を、毛利元就という。万巻の書を読み解き、あたかも式神を操るがごとく自在に策を巡らせる男。彼こそが、隆景の父である。

元就はすらりと背が高く、引き締まった体躯に端正な顔立ちをしていた。世に出る前、彼の風貌には相反する二つの極が同居していた。鼻先から下にはどこか頼りなげな、とらえどころのない空気が漂いながら、その眼光だけは(脳に最も近い場所で)鋭い光を放っていた。それは、他の凡庸な人々とは異なり、「毛利元就」という名の精密な機械が、常に健全かつ強固に作動し、バネのようにエネルギーを蓄え続けていることを示していた。二十五、六歳を過ぎ、運命の歯車が回り始めるその時まで。


特筆すべきは、後年、元就自身がこう語っていることだ。「道中で幾人かの女性たちの助けがなければ、今の自分はなかった」と。それは決して、体裁を整えるための綺麗事ではなかった。


元就の幼少期は、決して満たされたものではなかった。実母は体が弱く、父は酒浸り。元就は次男だった。彼が四歳の時に母が亡くなり、父は杉大方すぎのおおかたという女性と再婚した。この最初の重要な女性こそ、彼の継母である。

それは実に個性の強い新しい母だった。明るく奔放で、よく笑う。だが、血の繋がらない元就の前ではしばしば厳格な一面を見せ、過ちがあれば容赦なく叱り飛ばした。元就は一時期、それを女としての嫌悪の表れだと思い込み、長年、心の奥底で彼女への警戒心を解かずにいた。

そんな日々が五年続いた後、父が酒の後遺症で急死した。自業自得とも言えた。遡れば、一族の先祖たちも数代にわたって同じ死に方をしていた。「酒」という名の悪鬼に惑わされ、呪われ続けて数十年、あるいは百年。こうして、幼い元就は早々に別れの苦しみを味わい尽くすこととなった。


次いで持ち上がったのは、元就の養育問題だった。当時、父と杉大方の間に子はなく、元就とも血縁関係はない。彼女は身軽な体で実家へ帰るべきだったし、それが唯一の正しい選択のはずだった。杉大方に偏見を抱いていた元就もそう信じていたが、彼女はあえて踏み止まった。まだ十歳にも満たないチビ助を放っておけるわけがない、と大真面目に言い放ったのだ。一体何を考えているのか。元就は困惑しながら、必死に涙を堪えていた。

歴史に埋もれた誤解が解けたのは、当然ながらその日のことだった。


その驚くべき決断を下した、奔放な杉大方。彼女は出版社に勤め、企画関連の仕事に携わっていた。風のように形を留めぬ女だった。元就と外出する際、二人の姿は親子というよりは姉弟のようだった。後年、元就が成長し、辛うじて同世代に見えるようになっても、精神的には彼女の方が若かったかもしれない。杉夫人の顔には常に笑みが浮かび、眉は高く誇らしげに上がっていた。彼女の辞書に、乗り越えられない災難など存在しなかった。また、彼女は敬虔な仏教徒であり、その信仰は元就にも深い影響を与えた。彼は養母の背を追うように、生涯を通じて敬虔な仏教徒であり続けた。


元就にとってのもう一人の重要な女性は、妻である吉川美伊きっかわ みいだった。

彼と美伊の出会いは親同士の縁談だったが、単なる政略結婚ではなかった。卒業後、親戚の管理下にある毛利家に戻った元就は、現場の末端から仕事を始めた。その過程で、この古き一族経営の内部が、大掛かりな手術を必要とするほど腐敗していることに気づく。二人が結婚したのは、まさに元就が毛利家の再建のために奔走していた時期だった。美伊は聡明で、粘り強く、彼が家庭のことに気を揉まずに済むよう支え続けた。「毛利元就」という名の機械は、余計な雑念を排し、極めて効率的に稼働していた。

二人がそれぞれの戦場に身を投じているうちに、十数年の歳月が瞬く間に流れた。長男が十歳になった年、徳寿丸が生まれた。「徳寿丸」は幼名であり、正式な名は彼が成長してから考えるつもりだった。今や、家の中は六人の大家族となっていた。


深夜、玄関先で鍵の束が触れ合う音が響く。ドアが開き、今日の仕事を終えた元就が静かに家に入った。リビングの灯りは消えている。彼がゆっくりと寝室のドアを押し開けると、そこには淡い色調の読書灯だけが灯っていた。美伊はまだ休んでいなかった。彼女の腕の中では、徳寿丸が安らかな寝息を立てている。

元就は板張りの床を素足で歩いた。子を驚かせぬよう、その足取りは慎重で、細心の注意を払っていた。部屋の隅に置かれた、厚く埃の積もったギターの傍らを通り過ぎ、ベッドの脇へと歩み寄る。身を屈める――元就はどうしても、その子の顔が見たかったのだ。ベッドの縁に手を突いた拍子に、わずかな音が漏れた。美伊が低く息を吐いた。「しっ……」ようやく寝かしつけたばかりなのだ。


徳寿丸はどんな夢を見ているのだろう。静かな夢を見ているようだった。元就も自分の赤ん坊の頃の夢など覚えていない。想像もつかなかった。

美伊が元就に微笑みかける。「この子、あなたにそっくりじゃない? ほら、この眉も、鼻も……」

確かに、幾人かの子の中でも、徳寿丸は最も彼に似ていた。母の杉大方でさえ、「この子はあんたの小さい頃に瓜二つだわ!」と言うほどだった。元就は眠りの中にある徳寿丸を見つめながら、命というものの不可思議さを改めて感じていた。

翌日、正確な体内時計に導かれ、元就はいつも通り早朝から仕事へと向かった。


この一年、彼は多忙を極めていた。数年の努力を経て、ようやく毛利家に残された(支離滅裂な)リソースを統合し、コンサルティング業務を主軸とする会社を設立した。さらに、西日本の財閥である大内商会からの出資も取り付けた。「明日」という意味は、今や光に満ちていた。

彼は妻と、全ての子を深く愛していた。子たちの性格は三者三様で、あたかも同じ茂みに咲く、色の異なる花々のようだった。長男の隆元、長女の心、次男の元春、そして三男――「徳寿丸」の名は既に決まっていた。隆景たかかげだ。この大きな、愛すべき家族。

時間は充実した空気の中で有意義に流れ、その足跡は子たちの姿に顕著に現れた。末っ子の隆景も、歩き、言葉を話すようになった。元就は多忙かつ満ち足りた日々を送り、家庭と社会の間を往復しながら、頻繁に自己を切り替えていた。


いつの間にか、隆景は四歳になっていた。そして長男の隆元はこの年、十四歳。将来の進路を考えるべき時期に差し掛かっていた。実のところ、隆元は学業に偏りがあり、受験という道は彼にとって最善ではないように思えた。元就は、いっそ今から自分の傍に置き、段階的に会社の仕事を継がせてはどうかと考えていた。最近、そのことで頭を悩ませていた。

隆元は元就とは似ていない。大胆な博打のような真似をさせるわけにはいかない。だが、その性格は穏やかで誠実だった。全霊をもって人を信じ、それゆえに相手からも信頼を勝ち取る。その資質は元就ですら持ち合わせていない、隆元が生まれ持ったものだった。


「……だが、その性格は時に災いする。弱さと受け取られかねない。信頼できる右腕がいればいいのだが……」


――次男の元春がいい候補だろう、と元就は考えた。元春はまだ幼いながらも、既に几帳面な性格の持ち主に育っていた。彼が補佐に回れば、心強いことこの上ない。

会社のオフィスで窓を背に煙草を吸っていると、若々しく素早い足取りで近づいてくる者がいた。福原広俊だ。彼はコーディネーターとしての業務を担っていた。広俊は社員であると同時に元就の親戚でもあり、二人は普段から仕事以外のことも語り合う仲だった。


「社長、のちほど大内商会の方がいらっしゃいます」

「ああ、分かっている」

広俊は、元就が何か悩み事でも抱えているかのように煙草を燻らせ、大内という大企業との案件にさえ身が入っていない様子なのを見て、不思議そうに尋ねた。

「何か、ありましたか?」

「大きなことと言えばそうだし、些細なことと言えばそれまでだが……」

元就は、隆元の進路に関する懸念を包み隠さず話した。


「ああ――それなら、ちょうど思い出したことがあります! 先日、内藤さんと食事をした時に伺ったんですが、大内が支援しているあの私立校が募集を出しているそうですよ」

「内藤……内藤興盛さんのことか?」

彼は大内側との窓口とも言える人物だ。大内商会に長年勤め、その言葉の信頼性は極めて高い。言い換えれば、彼の言葉は時として大内商会会長自身の意向を暗示していた。


「それを早く言わんか……!」

広俊は頭を掻いた。「あの日は少し酒が入ってまして、帰ってすぐに寝てしまったもので……」

元就は深く責めはしなかった。思い出したのであれば、遅すぎることはない。むしろ吉報だ。彼は目を細めた。明晰な頭脳はいつものように、瞬時に答えを導き出した。隆元をその学校へ入れるのだ。


その学校とは、山口にある大内商学院。その名の通り、商科のエキスパートを育成するために設立された私立校だ。毎年、実力で入学する者のほかに、一定数の家柄を持つ学生も受け入れている。ここには、大内商学院のもう一つの目的があった。大内商会と西日本の各団体との結びつきを強めることだ。学校という媒体は、次世代を担う若者たちが集う場所であり、その繋がりを連鎖的に、かつ強固に継承させていくための最良の手段だった。

それを差し引いても、隆元を商学院へ送るメリットはデメリットを上回っていた。数年通えば経営の知識(大企業の効率的な管理手法など)を習得でき、人脈も築ける。まさに一石二鳥だった。


欠点があるとすれば、最大の懸念は距離だった。安芸高田市の毛利家からはあまりに遠く、加えて全寮制で、学業も相当に厳しいと聞く。そうなれば、隆元に会える機会は激減するだろう……。愛おしい我が子と、元就はまだ離れたくはなかった。

――だが、そんな感傷的な思考は、ほんの一瞬のことだった。次には、たんぽぽの綿毛のように、軽やかに彼の脳裏から消え去っていた。


元就は直ちに行動に移した。大内商会の内藤と連絡を取り、隆元を入学させたい旨を伝えると、向こうからも即座に快諾の返事があった。次は隆元への通知だ。そのために、この日の元就はいつもよりずっと早く仕事を切り上げた。

帰路、彼は自分が家で食事を摂るのが久しぶりであることに気づいた。だが、疲れは微塵も感じていなかった。永久に高効率で稼働し続ける機械のように。時折、彼は自分が巨大な力に突き動かされて前へ進んでいるような感覚に陥る。自分自身でさえ、測りかねることがあるのだ――「毛利元就」という名のこの機械は、一体どうやって動き続けているのだろうか、と。


どこか呆然と自問自答しながら歩くうちに、いつの間にか家に着いていた。夕食はまだ準備中だったが、ドアを開けた瞬間、香ばしい匂いが漂ってきた――煮込み料理だろうか。キッチンでは美伊と杉夫人が忙しく立ち働いている。子たちはどこだ? 探すまでもなかった。中に入れば、彼らの笑い声とはしゃぎ回る音が聞こえてくる。


小さな隆景が、兄の隆元の上で転げ回っていた。隆元も本気で相手をしているわけではない。その笑顔を見れば一目瞭然だ。対して隆景は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。細く柔らかな髪が汗で頬に張り付き、小さな拳を握りしめて兄を叩いている。二人の会話を聞けば、どうやら隆元が絵本を読んでやっている時に、不注意でページを折ってしまったらしい……。

子供というものは、愛着のあるものに対しては執拗なまでに執着する。隆元が誠心誠意謝らなければ、この恨みは長く記憶されることになるだろう。


元就は床に落ちていた絵本を拾い上げて隆元に渡し、弟に謝るよう促した。

隆元は素直に従った。今にも泣き出しそうに真っ赤だった子供の顔は、一転して、満開の笑顔に変わった。

「――そうだ、隆元。話がある。食後、書斎に来なさい」

「えっ? ……分かりました、父さん」


――隆元は聞き分けが良い。反抗期などなかったかのように。その点は元就も満足していた。彼は受け入れるだろう。他の家族については、美伊には午後、既に話を通してある。しばらく食い下がられたが、最後には彼女が折れた。元就の選択が常に正しいことは、これまでの経験が証明している。

彼らは隆元の旅立ちの準備を始め、それからの数日は慌ただしく過ぎていった。

末っ子の隆景も、何か不穏な空気を感じ取ったようだった。やはり元就の聡明さを受け継いでいるのだ。「お兄ちゃん、どっか行っちゃうの? 会えなくなっちゃうの?」――心配そうに問いかけ続ける。だが、時間は無情にも過ぎていく。隆元もまた別れを惜しんでいた。今ここで離れれば、次はいつ会えるか分からないのだ。彼は無理に笑みを作って隆景の頭を撫でたが、結局、言葉は何一つ出てこなかった。


数日後、毛利隆元は山口市へ向かう列車に乗り込んだ。何度かの乗り継ぎを繰り返しながら。


史実に基づけば「隆景」という名はまだ先の話ですが、本作はあくまでフィクションとしてお楽しみください(笑)。

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