黒翼の再起動
雪解けの朝。
北方の空は静かだった。
けれど、その静けさの下で“何か”が目を覚ましていた。
「……おかしい。」
ジークは、氷原の向こうに漂う魔力の流れを見てつぶやく。
リナが首をかしげた。
「何かあるんですか?」
「“呼ばれてる”。
俺たちの刻印が、反応してる。」
レオンが青ざめる。
「まさか、黒翼部隊の残党が……?」
「いや――もっと厄介だ。」
---
村の地下、古びた研究施設。
ジークたちが足を踏み入れると、
壁一面に“黒翼の刻印”がびっしりと刻まれていた。
そして、中央には巨大な水晶のカプセル。
その中に、誰かが封印されている。
アリシアが目を見開く。
「これ……“原初の刻印”……!」
「まさか、まだ残ってたとはな。」
ジークの声が低く響く。
「黒翼部隊は、戦争を終わらせるために造られた。
でも本当の目的は……“人間の完全制御”だ。」
リナが息を呑む。
「人間を、制御……?」
「感情を奪い、命令だけで動く軍。
それが“黒翼プロジェクト”の完成形。」
「……じゃあ先生たちは、その実験の――」
「――失敗作だ。」
ジークの表情は、どこか静かで、哀しかった。
---
その時、警報が鳴り響いた。
施設の壁が震え、天井から粉雪が舞う。
「起動反応……!?」
アリシアが叫ぶ。
「原初の刻印が、反応してる!」
水晶の中の人影が、ゆっくりと動いた。
そして、淡い青光の中で瞳を開く。
「……久しいな、ジーク。」
その声は、
かつての親友――レオニスだった。
---
「お前……!」
「俺たちの理想、ようやく完成した。」
レオニスの瞳は冷たく光り、
その身体には幾重もの刻印が刻まれていた。
「感情のない兵士。
痛みも、迷いも、ない。
完璧な“兵器”としての俺だ。」
「ふざけんな……それを理想って言うのか。」
「お前はまだ“人間”を信じているのか。
愚かだな、ジーク。
人は裏切り、憎み、争う。
俺はそれを終わらせる。」
「――そのやり方じゃ、何も救えねぇ。」
黒炎が、再びジークの周囲に集まっていく。
「教師ってのはな、
間違いを正すのが仕事だ。」
「なら――俺の間違いを、力で正してみろ!」
二人の力が激突し、
施設全体が光に包まれた。
---
アリシアがリナとレオンを庇いながら叫ぶ。
「離れて!! 二人とも!!」
「先生――!!」
リナの声が響く。
爆光の中で、ジークが振り返る。
その笑みは穏やかだった。
「授業、ここまでな。」
光が、全てを包み込んだ。
---
静寂。
雪原に、黒い羽がひとひら舞い落ちる。
「先生……?」
リナが呟く。
だがそこに、ジークの姿はもうなかった。
アリシアが空を見上げる。
「……あの人は、生きてる。
だって、あの黒炎が、まだ空に残ってる。」
レオンが拳を握る。
「なら、俺たちが信じるだけだ。」
風が吹き、
黒い羽が空へと舞い上がった。
---




