戦場の影響
「先生、ねえ先生っ!」
リナが大声をあげる。
だがジークは、焚き火の光の中でただじっと炎を見つめていた。
夜は深く、
風は雪の粒を運んで頬を刺す。
レオンが心配そうに言う。
「……先生、昨日の夜、誰かと戦ってましたよね。」
沈黙。
焚き火の音だけが、
まるで昔話の代わりにパチパチと響いていた。
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「……あいつは、俺の仲間だった。」
ジークが口を開く。
「“黒翼部隊”──知ってるか?」
リナとレオンが首を振る。
「戦時中、魔力制御の実験で生まれた部隊だ。
俺たちは、人間でありながら“魔獣と同調する力”を与えられた。」
淡い黒光が、ジークの右腕の刻印を照らす。
「代償は……感情だ。」
「感情……?」
「怒りや悲しみを抑えるほど、力が増す。
だが、それを使いすぎると“人”に戻れなくなる。」
ジークの目が遠くを見つめる。
そこに映るのは、過去の戦場の光景。
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### 【回想】
「ジーク! こっちはもう限界だ!」
血に染まった雪原を駆ける兵士たち。
その中心で、
黒い翼を広げた若きジークが、静かに剣を構えていた。
「なら、俺が前に出る。」
「バカ言うな! その状態じゃ制御が――!」
「……構わねぇ。」
次の瞬間、
黒翼が爆ぜ、轟音が響く。
ジークの周囲に展開した“黒炎”が敵を一瞬で焼き尽くした。
彼の瞳には、恐怖も痛みもなかった。
ただ、冷たい静寂。
「――これで、静かになったな。」
だがその背後で、
レオニスが叫ぶ。
「ジーク!! お前、それ以上使うな!!」
その声が届いた時には、もう遅かった。
空へと舞い上がる黒炎の渦。
味方も、敵も、すべてを呑み込む“静かな嵐”。
そして、その中心に立っていた彼は、
笑いながら、涙を流していた。
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焚き火の前に戻る。
リナが小さくつぶやいた。
「……先生、それ、泣いてたんですね。」
ジークは苦笑する。
「そうだったかもしれねぇな。
その時は気づかなかった。」
「……それで、レオニスさんは?」
「俺を止めた。
仲間を守るために、俺を“殺した”。」
レオンが息をのむ。
「……なのに、生きてたんですね。」
「そうだ。
だから、今度は俺がケリをつける。」
彼は立ち上がり、
雪の中へと歩き出した。
「――戦場はもう嫌いだ。
だが、あいつを放っておく方がもっと嫌だ。」
白い雪が降りしきる中、
その背中だけが、やけに大きく見えた。




