北へ。黒翼の影を追う
「うわぁ~、さむっ!!」
学園から馬車で三日。
生徒たちが降り立ったのは、雪と氷に閉ざされた北方国境の村だった。
リナが両手をこすり合わせ、
レオンが白い息を吐きながら言う。
「先生、なんでこんなとこに来たんですか……?」
「課外実習だって言ったろ。」
ジークは淡々と答える。
「いや、これ実習ってレベルじゃ……」
「実習内容。“生き残れ”だ。」
「えぇぇぇぇ!?!?」
リナとレオンの叫びが、
白い雪原にこだました。
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その夜、村の宿。
生徒たちが暖炉の前で丸まっている間、
ジークは一人、外の雪原に立っていた。
「……出てこいよ。見えてんだ。」
静寂を切り裂くように、
吹雪の中から、黒い影が歩み出た。
銀髪をなびかせ、蒼い剣を背負った男。
そして、その胸には同じ“黒翼の刻印”。
「久しいな、ジーク。」
「レオニス……。」
二人の間を、冷たい風が通り抜ける。
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「死んだと思ってたぜ。」
「お前が殺したからな。」
ジークの表情がわずかに歪む。
「……生きてて、文句でも?」
「いや、ただの後始末だと思ってただけだ。」
レオニスはゆっくりと蒼い剣を抜く。
その刃が、夜の闇を裂いて青白く光る。
「まだ教師のフリなんてしてるのか?」
「フリじゃねぇ。本気で怠けてんだ。」
「なら、教えてやるよ。
本気で怠ける奴は、“過去”に縛られたりしない。」
瞬間、風が唸る。
二人の影が交差した。
刃と刃がぶつかり、
氷原の地面が裂ける。
雪煙の中、
ジークは短く息を吐いた。
「……やっぱ容赦ねぇなお前。」
「お前にだけは言われたくない。」
剣戟が続く。
その一太刀ごとに、
二人の間に積もっていた“過去”が削られていくようだった。
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やがて、空に稲妻が走る。
ジークの魔力が解放され、黒翼の刻印が光を放つ。
「……お前、本当にあの頃のままだな。」
レオニスの声に、わずかな懐かしさが滲む。
「教師だろ? 生徒の前じゃ、昔話はできねぇんだよ。」
「なら――ここで終わらせろ。過去を。」
ふたりの叫びが重なる。
閃光と轟音。
夜が、まるで昼のように白く輝いた。
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翌朝。
雪原には、深く刻まれた剣の跡と、
静かに立つジークの姿だけが残っていた。
リナが駆け寄る。
「先生!? 何があったんですか!?」
ジークは背を向けたまま、ただ一言だけ言った。
「……悪い夢を見てただけだ。」
白い息が空に溶け、
ジークの背中から、一枚の黒い羽が舞い落ちた。




