旧友の名を、風が運んできた
「先生、最近ずっと空見てますけど……どうしたんですか?」
昼下がりの訓練場。
レオンが、木陰で寝転がるジークに声をかけた。
ジークは片目を開け、面倒くさそうに空を見上げたまま答える。
「……いや。変な風が吹いてるだけだ。」
「風、ですか?」
「ああ。懐かしいにおいがする。」
そう言って、彼は再び目を閉じた。
だがその指先が、無意識に右腕の袖を押さえていた。
そこには、今も薄く残る黒い翼の刻印。
消えることのない過去の印。
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その日の夜。
学園長室に呼び出されたジークは、
机の上に置かれた一枚の報告書に目をやった。
> 《北方国境付近にて、"黒翼の刻印"と思しき反応を確認。》
その瞬間、空気が凍った。
「……誰が、生きてた?」
ジークの声は低く、静かに震えていた。
「名前は不明。ただ、目撃者がこう言っていた。」
セリウス学園長は紙をめくる。
> “蒼い光を纏う剣を振るう男──名を、レオニスと名乗った”
ジークの瞳が見開かれた。
かつて、自らの手で葬ったはずの男。
唯一“親友”と呼べた存在。
「……ありえねぇ。」
その声には、長年封じてきた痛みが滲んでいた。
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学園を出たジークは、夜風の中に立つ。
月明かりが、薄く漂う煙のように揺らめく。
“……もし、本当にお前が生きてるなら。”
彼は右手を掲げた。
魔力の波が空気を震わせ、黒翼の刻印が淡く光を放つ。
「……今度は、何のために剣を振るってるんだ、レオニス。」
その瞳は、静かに決意の色を宿していた。
怠け者の仮面の奥に隠された、本物の戦士の眼差し。
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翌朝、教室で。
「先生、今日の授業は何します?」
レオンが笑顔で尋ねる。
「……旅の準備だ。」
「へ?」
ジークは軽く伸びをして、椅子を立つ。
「課外実習だ。北方まで行くぞ。
ついでに──昔のツケを払いに。」
「ツケ……?」
「気にすんな。お前らには、昼飯の時間を確保してやる。」
いつもの調子で笑いながらも、
その目だけは、どこまでも冷たく遠くを見ていた。




