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少年編03

「吾輩はフレデリック・アーケインだ。フェナンブルク王国騎士団の副団長を務めている。先の戦い、本当に見事だったぞ少年。そして助けに入れなかった事、すまなかったな。戦時中の今、我々は敵か味方か確かめるまで、安易に手を出すわけにはいかないのだ。」


フレデリックと名乗った大男の言葉は真摯だったように思う。セラもそういった相手の態度に、少しだけ肩の力を抜いたようだ。しかし副団長と言うからにはそれなりのポジションなのだろうが...部下は一人も連れていない。嫌われているのかもしれないし、触れないでおいてやったよ。

しかし、今は戦時中らしい。カルラはほとんど集落を出なかったし、私も外の世界に興味があったわけではなかったからな。まあ別に驚きはしなかったよ。人族はいつの時代だって戦争が好きだ。


「...オレはセラ。セラ・ドゥルパだ。で、あんたはここで何してるんだよ」

「吾輩は斥候任務の途中だったのだよ。ここ最近、帝国の兵士が不穏な動きをしているらしくてな。平原を迂回して森を通ったところ、君の戦いを目撃したというわけだ」


斥候。即ち今この森はフレデリックと敵対している兵士と遭遇する可能性があるということだ。それなら、今この状況は危険なのではなかろうか。ああ、セラも同じことを考えている顔だな。

しかしこの男、隙がない。恐らく接敵しても敵を下す自信があるという事だ。フレデリックは緊張感のある声で質問してきた。


「それで、君に尋ねたい。君の出身はどこだ?」


フレデリックの問いに、セラは少しだけ戸惑ったようだった。だが、正直に答えた。


「オレは獣人族の集落で育った。人族だけど、そこに拾われて...色々あって集落を出てきた。それで、今は人族の住む場所を探しているんだ」


その答えを聞いたフレデリックは、酷く驚いていたな。そんな種族がいるのか、という顔をしていた。セラが一般的な人族の生涯を歩んでいるとは言い難い。しかし親と別れる子供なんてのはいつの時代だっている、ありふれた不幸のひとつでしかない。それが偶然獣人族に拾われただけの事。その集落で上手く生き抜いてきたのは、セラ自身の力に他ならないと私は思う。勿論今でもね。


「成程、合点がいった。それで一人でこの森を彷徨っていたのか。しかし、それだけの技量がありながら、君がまだどこにも属していないというのは惜しい話だ...セラ、君に提案がある。どうだろうか、吾輩と共に、王国の騎士になってみないか」


「騎士団...?それは何をする奴らなんだ」


セラの戦闘を見ていたなら、この男の言い分も理解出来ない事もないが、こんな少年を戦闘要員として勧誘するあたり、騎士団という集団がかなり苦しい状況にあるのは想像に難くなかった。セラの事だからそんな判断はつかないだろう。この男、無骨な顔をしてなかなか小賢しい事をする。

私が知る騎士というのは、そんな簡単になれるものではなかったハズだ。形骸化したのか、はたまた名ばかりのごろつき者か...


「フェナンブルク王国を守る名誉な仕事だぞ。まあ、男性団員はごく僅かだがな。吾輩も肩身の狭い思いをしているよ」

「...?女の方が多いということか?」

「はは、それはそうだろう。女の方が男より強いからな。社会的な地位や単純な力でも、一般的には女のほうが上にいるのはどの種族でも同じではないのか?」


獣人族は魔力を持たない者がほとんどだから当てはまらないが、人族やその他の種族では、女性の方が魔力適正が高く、能力の低い男性はほとんどの場合家事をしたり、買い物をしたりと家を守ることが多いのだ。まあ獣人族の中でもカルラのような奴は稀だったな。メスの獣人族でも飛びぬけて強かったし、私もこき使われたものだよ。


---


「入るかどうかは分からないけど...人族のいる場所を目指していたし、とりあえずその国に行ってみるよ」


「おお!!感謝するぞ少年!!すぐに決める必要はない。だが、君のような若者がその才能を埋もれさせるのはあまりにも勿体ない。その時君が望むなら、騎士団が君を迎え入れることを吾輩が責任を持って約束する」


フレデリックの執拗な勧誘に、セラが折れる形となった。騎士団に所属すると、衣食住が保証されるという話が決め手だった。極限の空腹の恐ろしさは、経験した者にしか分からない。入るかどうか分からないなんて嘘だ。この少年、すでに気持ちは決まっているのである。しかし、だったとしても、戦争の最前線にいく事を選ぶなんて馬鹿げている。

本当に...馬鹿げた話さ。子供が血を流して喜ぶのは、一部の狂った奴だけだよ。


そんな私の気も知らずに、セラはフレデリックの背中を追って歩き出した。森を抜け、フェナンブルク王国に辿り着いたのは三日ほど歩いた後だった。門番だけでなく、城下町の雰囲気全体が疲弊しているのが印象に残っている。淀んだ空気が、セラの未来を暗く遮っているようだった。


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