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継承のセラ  作者: 山久 駿太郎
追憶 - 子狐は謳う-
33/40

033.短編 : 呪いは巡る

イェンス自らが提唱した、"人間の魔石化"。

研究者としてのアリアでさえも、その足を踏み出せばもう戻れないという確信――

その技術が、決して侵してはならない領域に在るものであると分かっていた。


何故、魔物の体内には魔石が生成され、人族にはそれがないのか。

些細な疑問を投げかけたのはローレルだった。

それが悪魔の発明に繋がるとは、誰が思うだろうか。


---


ゴア帝国の魔術研究機関には、様々なものが補完されている。

イェンスは、遠い過去にアリアが口にしたことを思い出す。

魂を吸ってしまう黒い石が、とある施設に保管されていることを。


刃から欠けたような鋭い破片。

運命を嘲り笑うその石は、とある戦場で拾われた。

アリア曰く、それは"呪いの黒曜石"と呼ばれていたのだった。


それは悍ましき執念、歪み過ぎた恋慕。

仮説と実験を行う時間は残されていなかった。

手段というより、もはや懇願に近かった。


---


澄んだ水晶に向かって、イェンスは自身のマナを、そして生命力を限界まで注ぎ込む。

自らの死を前に――彼女は黒曜石をそっと手に取った。


『姉さん...ずっと一緒にいるから――ごめん』

声にならない謝罪が、唇の端から零れ落ちる。


マナがため込まれた水晶に、黒曜石を近づけた瞬間――

まるで喉の渇いた砂が水を吸うように、彼女の魂は吸い込まれていった。

残された"肉の塊"に、イェンスはもういない。


帝国初の忌むべき技術は、こうして誕生した。

――姉への愛と、虚ろな希望を道標にして。


---


『貴様っ!狂っているのか!?隊員の命を使って魔石を作っただと!?』


四天将インペリエ・アルバスト・ゴアの拳が、石造りの壁を砕いた。

血が滲む拳を握りしめたまま、彼女は烈火の如く吼えた。

尊敬していた戦友が、踏み越えてはならない一線を越えた――その事実が、彼女の心を引き裂いていた。


『恥を知れ! 貴様が守ると誓った兵たちを、玩具にしたのか!』


人形となった無垢の少女は、不思議に思っていた。

なぜ――この人物に話してしまったのだろうと。

彼女の問いには、誰も答えない。


『...インペリエ様。陛下には既に事の顛末を委細報告しております』

アリアの声は、酷く平坦だった。

『これ以上追及しても、何も変わりませんよ』


握りしめた拳から、ぽたり、ぽたりと血が滴り落ちる。

『女狐めが...っ!』



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