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継承のセラ  作者: 山久 駿太郎
追憶 - 子狐は謳う-
32/38

032.短編 : 狂気が辿り着く場所

「二人とも、よくお似合いですよ。ユークリッド陛下のご期待に応えられるよう、尽力してください」

「「はっ!」」


――新暦265年、秋。

港町の小娘達は、本国での入隊式を終えたところであった。

神童という噂に高を括っていたローレルとイェンスは”あの日”、初めて自分達が目指すべき目標を見つけた。


---


出会った矢先に喧嘩を売った二人は、半魔のリズベットによって瞬く間に倒された。


彼女の操る炎属性魔法は、魔族特有の――黒炎。

細かく種が分かれる魔族だが、使える魔法は一切の例外なくこの魔法だけだった。

一度ついた火は消えず、術者が解除するまで消えない致死の炎。

対象者の命が尽きる迄燃え続ける忌むべき灯は、ローレルとイェンスに強烈なトラウマを植え付けた。


二人は半泣きになりながら逃げ惑うしかなかった。イェンスは失神し、間もなく白旗を振ったローレルは、地を背にしながら質問した。

『横のチビも強いんスか?』若人の問いに、リズベットは笑って答えた。

『いやチビって言うなし。あたしなんかよりずっと強いよ――アリアちゃんはね』

そうして双子の神童は、潮風の香る故郷に別れを告げた。

アリアに同行し、本国で教育という名の訓練を受け――晴れて今日、軍人となったのだ。


---


同年、フェナンブルク王国との戦争が勃発した。

双子はヴァルキリーの一員として、徐々に頭角を現し始めた。

元々驚異的な程に高かった魔力適正に加え、帝国の"風神"自ら教育を施した魔法理論。

いつか本物の神童になった双子は、アリアの研究を手伝うようになっていったのだ。


そんなある日――イェンスの心臓に病があることが分かった。

一卵性の双子である以上、いずれローレルにも発症するのは明白だった。


それから二人は、どうにかして生きながらえる手は無いかと考え続け――

イェンスは、とある理論に辿り着いた。


戦争の転換点になる新技術。

そして――自分が最愛の姉と共にある為の、唯一の手段。


『何を......何を馬鹿なことを言っているのですかイェンス!そんなっ...そんなことを許せるはずがないでしょう!』

イェンスの提案に、アリアは激怒した。

『アリア総隊長、もう私の心臓は無理なんです。だったらせめて――』








『魂は、姉と共にありたい』


---


ローレルは、イェンスとアリアからこの提案を受けた時、言っている意味がよく分からなかった。

周囲の音は静かに遠ざかり、景色からは色が消えていく――聞き間違いでなければ、


双子の妹はこう言ったのだ。


イェンス・パルミの魂を、魔石にすると。

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