光闇電話
連休初日の五月三日
その日に連絡は入ってきた。
「あ、もしもし色くん? 芽衣だけど」
「はい、こんにちは」
「勉強会ね、明日やるから。午後1時に学園前集合。よろしくね」
「わかりました」
「うん、よろしく。あと他の人への連絡は私が全部やるから。栄太は結局どうした? 連絡したほうがいいのかい?」
「はい、一応お願いします」
「りょーかいっ! じゃあまたね」
こちらの返事を待つ前に受話器を置く音がして、通話は切れた。
とりあえずノート、教科書は準備しよう。
あと辞書なんかは必要だろうか。
なんにしても初めてだし、不備のないようにちゃんと用意しないと。
道具を準備していくと案外荷物は大きくなってきた。
いつも学校へ使っている手さげバッグでは……
たしか旅行用のスポーツバッグがどこかに……
と、電話がかかる。
なんだろう、また芽衣さんか?
準備を一旦止めて電話機のほうへ向かう。
「はい、もしもし。渡良瀬ですが」
「色か?」
太く低い声、これは……聞き覚えがある。
「私だ」
「父さん、ですか?」
父から、電話?
「どうだ、落ち着いたか?」
「え、えぇ、一応」
「……そうか」
「…………」
沈黙、何を話していいのかわからない。
「色、気持ちが落ち着いたなら、いつでも帰ってきなさい」
――っ!
「それは……」
「首都から離れては周囲から置いていかれる。気分転換は精神的な面から重要だと思うが、お前はそんなところにいるべきじゃない。分かっているだろう?」
「…………父、さん…………」
……父が言うこと、だから……
「たっだいまぁ色!」
そのとき玄関のドアが開く。
スーパーまで買い物ゆうねぇが帰ってきた。
廊下とリビングを仕切るドアを開ける。
「……あれ、誰から?」
電話をとっている俺の姿に小声で話しかける。
「…………父さん、です」
「――っ! かわりなさいっ!」
とても強い語気、命令口調でゆうねぇは俺から受話器を奪った。
「…………お久しぶりです、お父様」
……ゆうねぇは、普段は笑顔ばかりでとてもやさしい。
だが、今目の前の彼女はとても鋭く冷たい顔をしていた。
そこに居たくない、俺は部屋へと戻った。
机の上、ノートをカバンに詰めようとする。
――ふと、思い出したように机に備え付けの一番上の引き出しを開けてみる。
全体が少し土色に染まった野球のボールがある。
それを手に取り、指先で転がす。
――ひどく哀しい気持ちになった。
コンコン、とノックの音がする。
「――はい」
ゆうねぇしかいないんだから、別にノックしなくてもいいのに。
「色、大丈夫?」
「えっ? 何が?」
「……いや、別にいいんだけどさ」
そう言って少し後頭部をかく
「ただ、ここにいる限りは、色のことは全部色が考えて、答えを出しなさい」
それだけ言ってゆうねぇは部屋のドアを閉じた。