旧館風景
少しだけ早く上がらせてもらった。
まぁ俺がいなくても特に困ることもないようだし、いいかなと思う。
それに、彩姫さんの自転車がちょっと気になる
足を運んだのは、外見は赤茶色に風化した旧館。
初日にゆうねぇにここが文化系部活の部室になっていると教えてもらった。
実際に入るのは初めてだ。
ここのどこかに美術部のアトリエがあるはずだ。
中を散策する。
足を乗せるたびに軋む木目の床を慎重に進む。
なんて、ボロボロな建物なんだ?
これはさすがに安全性とかで問題があるんじゃ。
多分耐震性とかアウトだろ?
年季を感じる、といえばキレイな言葉だが他の建物と比べて明らかに年季がありすぎる。
廊下を進むと本棚や物置になっている棚と部活の名前が描いてある扉が交互に現れる。
どうやら一階には美術部らしい部屋はない。
それにしても静かだと思う。
まぁ今日は休日だし、人がいるわけがない。
同様にして彩姫さんがいる保障もないと思う。
でももし学内にいるのならここだと、みんなが言う。
階段を上って2階へ出る。
様相は、特に変わらなかった。
やっぱり床は足を乗せるたびに大きく軋む。
左右を見ながら美術部を探す。
だが、少し進んだところでその必要がないことに気が付いた。
階段からみて一番奥、かすかだが不思議な匂いがする。
ぼんやりとした暗い印象の廊下の先で、そこだけは光の線がこぼれていた。
階段から一番遠い場所にあるその部屋へ近づく。
ドアが開いている。
ドアとドアの間隔がそこだけ少し広い。
その部屋はおそらく他の部屋二つ分の広さがありそうだ。
ドアに張られているネームプレートをみる。
「美術部……」
一歩、中へ入る。
廊下まで広がっていたかすかな独特のにおいで満ちていた。
そこには人の姿はない。
変わりに一枚の絵が部屋の中央に置いてあった。
――あれは、つくしの絵だよな?
近づき確認する。
やはり、みたことのある絵だった。
一瞬大きなキャンバスにかかれたものだったので見間違えたが、それはあの時見たつくしだった。
「――あれ、誰?」
背後からの声に振り返る。
「あ、ごめんなさい勝手に入ってしまって」
「あれ、色くん?」
入ってきたのは彩姫さんだった。
制服の上からエプロンらしきものをつけている。
絵の具だらけのエプロン、汚れないようにということだろうか
「ん、全然かまわないよ。でも、どうしたの?」
「つくしの絵、美術の時間に描いたスケッチですよね?」
「うん、そうだよ。せっかくだから清書してみましたぁ……ってことですが、どうかな?」
感想……ですか。
「とてもいいと思います」
正直絵のよしあしなんて分からない。
「いい? どのへんが?」
「えっ……と」
具体的にといわれても技術的なことはよく分からないし……
でも、ただ……
「えっと、ゴメン。なんとなく、かな?」
「エヘヘ、そっかー! ありがと!」
彩姫さんはただうれしそうに笑った。
うん、分からないけど、でもなんとなくその絵、いいなと思った。
どうやら彩姫さんも帰るらしいので一緒に自転車置き場へ向かう。
気が付けば日もほとんど落ちていた。
グランドを通ったがクラスの人たちももういなかった。
「部室っていうところ、はじめて見ました」
「へぇ……どうだった?」
「……えっと、静かですね」
「アハハッ、日曜日だもん。当たり前だよ。いつもはもうちょっといろんな音であふれてるよ。壁とか薄いから内緒話筒抜けなんだ」
確かに、建付けとか悪そうだ
「今日は絵を描きに?」
「うん、そうだよ。せっかくの休みだし」
と、話していると気が付いたら自転車置き場に着いた。
先に開錠した自転車を押しながら彩姫さんが近づく。
「じゃあね」
校門で別れて一人自転車を走らせた。