第十八話:「男の正体」
路地を抜けた先、誰もいない公園の片隅。ベンチのそばに立ち止まったアズライルは、くるりと振り返った。
「ここでいいだろ。……ま、悪魔の余興にしては少しばかり静か過ぎる気もするがな。」
智紀は不安げにあたりを見回す。夕陽が傾きかけた空に、蝉の声が遠く響く。
「……どうやって、葵のことを調べるの?」
「“調べる”んじゃねぇ。“見せてやる”んだよ」
そう言って、アズライルはスッと目を細めた。
「目、閉じてみろ。いいから」
言われるままに智紀がそっと瞳を閉じると、次の瞬間——
◆ ◆ ◆
——何かが、視界の奥に流れ込んできた)
ビルの影、駅前のロータリー、人の波。
そして——笑っている男の姿。
焼けるような西陽の下、風にさらりと揺れる茶系の髪。整った目鼻立ちに、涼しげな瞳。誰もが見とれるような均整の取れた顔立ち。清潔感のある白いシャツの袖を無造作に捲り上げ、どこか王子様めいた雰囲気を纏っている。
けれど、その笑顔は完璧すぎて“嘘”の匂いがした。
男は、見知らぬ女の肩に手を置いて囁く。
「さすがにさ、もうちょっと会いたいよ、ね?」
甘い声。優しげな仕草。だがその目だけは笑っていない。
——まるで演技をしている俳優のように、完璧に作られた“優男”。
(これが…葵?)
別の場面では、スマホの画面をタップしながら、友人たちと談笑している。
《結月は俺から離れられないよ。だってあの子が心から頼れるのは俺しかいないからね》
《だから他の女に構ってるの知ってても、見て見ぬふりしてくれる、いい子》
《まあ、もう少し絶望して、壊れたら、ポイかな?》
——ザアッ、と耳元で何かが崩れる音がする。
◆ ◆ ◆
「……やめてっ」
映像に映る、人間の醜さ、悪意から目を背けるように智紀は目を開けた。息が荒く、心臓がひどく速く打っていた。
アズライルは静かに尻尾を揺らしながら、言う。
「これが現実さ。篠原結月が“縋ってる男”の正体だ」
「……嘘、だ……」
震える声で智紀が呟く。けれど、それは希望ではなく、祈りにも似た拒絶だった。
「どんなに綺麗な鎧を着せても、中身が腐ってりゃ意味がねぇ。なのに人間は、信じたいものだけを見ようとする。……哀れなもんだ」
「……じゃあ、どうしたらいいの……?」
その問いに、アズライルは初めて、わずかに表情を曇らせたように見えた。
「答えなんかねぇよ。お前がどうしたいか、それだけだ」
智紀は唇を噛む。
(結月ちゃんは……あんな男のどこを見て、信じてるんだろう)
そして、心の底からこみ上げてくる感情がある。
(あんな男のせいで…結月ちゃんはいつも泣いてたんだ…)
——悔しさ。
——怒り。
——そして、守りたいという強い想い。
「……僕、決めた。もう絶対諦めない。今はまだ遠くても、彼女に届くように……ちゃんと人間として、隣に立てるように。あんな男じゃなくて僕が…」
アズライルはふっと鼻を鳴らした。
「上等。……なら、お前の“犬生”かけて、証明してみせろよ。白津智紀」
落ちかけた太陽の光が、ふたりの影を長く伸ばしていた。
皆さんこんにちは紗倉です!
本日も最後までお読みいただきありがとうございます。
とうとう結月の彼氏が登場しました!!
まぁ読んでいただいた通りの最低な男です。
今後この葵くんがどう結月と智紀に絡んで、どういったトラブルを引き起こしてくれるのか!?
楽しみにしていただければな〜と思います。
(どうすれば嫌なやつに仕上がるか思案中です!)
それでは皆さん、また次回もお会いしましょう!




