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バッティングセンター部  作者: 大石次郎


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8/12

10月下旬。免許を取った!


結構ガッツリ古い(俺、産まれてない頃に生産)中古のコンパクトカーを父に、


「コイツと専門学校の学費と二年間の生活費でお前に使える金は終了だからな?」


と念押しされながら買ってもらった俺は、車に乗り込みバッティングセンター部の5人で『超美味いという名水の釜飯屋』に向かっていた。


釜飯屋→紅葉が有名な寺→日帰りで入れる安い温泉


という観光プランっ!


順路だが崖道の蛇行が凄い。若葉マークの俺としては『終わらないラスボス戦』状態!


「「「うわーぉう、うわーぉう」」」


蛇行でGを少し感じる度に後部座席の寿田君、稲葉さん、もなかさんが盛り上がるっ。


「もうちょっとだからね。帰り天気が悪くなったら温泉からは走り易い東周りの道で帰ろう。小一時間程度しか変わらない」


カーナビは付いていなかったので、助手席でナビ役をしてくれていた古幡は地図に首ったけだ。

小一時間程度しか変わらないって古幡的だ。


「わかった。ナビに従う。OKフルハタ」


「・・カーナビくらいはバイト代かお年玉貯金で自分で買いなよね?」


「お、おう。来月、買う予定っ」


ちょっとマジで怒ってる。もうイジるのやめよっ。



釜飯屋に着いた。


崖道の先の村の入り口辺りの国道沿いにいきなり出現する。


そこそこ車が停まってる駐車場に慎重に停めた。


「が、『頑固親父』の店、かも?」


ダウンベスト着てるから『モコモコ感』強調されてる寿田君。


「行けばわかるさっ! ひょーっ!!」


前半爆睡してたから絶好調のもなかさん。


「釜飯ひょーっ!」


稲葉さんもテンション高いな。2人とも一緒に買いに行ったらしい色サイズ違いのマウンテンパーカーを着てるから可愛い。


「初ドライブでムチャした釣り合いを取らないとねっ」


まだちょっと機嫌悪い古幡。途中、間違えて高速上り掛けたり、『1つ手前の山』に登りそうになったしな・・ごめんて。


早めに入店してるけどわりと混んでる古民家風の店内で、結構時間掛かるから『茄子田楽』を食べたりしてる内に釜飯が来た!


「「「ふぁーっ」」」


蓋を開けたら湯気ファンタスティック!!


地鶏がっっ、米とっっっ、炊かれているんだっっっ!!!!


「濃厚だなっ」


「濃厚だねっ」


「の、濃厚っ」


「濃厚ひょーっ」


「濃厚・・ふぅ」


皆、『濃厚』しか言えねぇ。というか稲葉さん、言い方セクシーっ。


塩気はそうでもないんだけど、旨味、滋味、鶏感、米感っ。全てハイクオリティで凄かった。


これかっ、これが『車で行ける店』の実力かっ!!



紅葉で有名な寺はどうやら外国人観光客に『見付かってる』らしく、駐車場ギリギリだった。

ちょっとガヤガヤしてる中、紅葉降る一角を5人で歩く。


こりゃいい・・


寿田君ともなかさんの一年コンビは『映える写真』を互いに撮りまくっていた。


「中矢先輩と古幡先輩は多岐川パイセン連れてきたかったんじゃないですか?」


悪い顔で聞いてくる稲葉さん。


「私立の推薦近いから」


「車、5人乗りだしな」


「へぇー。三年生ともなると『予防線』しっかり張られるんですねっ! ふふっ」


「「・・・」」


俺と古幡が困ると、稲葉さんは笑って、寿田君達の撮影会の方に参戦していった。


「中矢君はさ、稲葉さんのことどう思ったりしてるのかな?」


ジャケットの下に高そうなセーター着てる古幡。俺はちょっと間違えて『釣り人』みたいになってる。


「・・バッティングセンター部だよ」


「うわっ、ズルいな~。うっかり君を誘ったのが命取りだった気分だよ」


「はいはい。俺、ちょっと目が疲れたから、車で仮眠取ってるよ。そこの坂の先に神社もあるみたいだぜ?」


「りょーかい」


古幡があっさりしたヤツでよかった。紅葉まみれになりながら、俺は駐車場に歩いていった。



ラストは村営の温泉! 日帰り700円なりっ!


「はぁ~っ、極楽だ」


「膝にもいいね。ここだけでも僕、いいよ」


「さ、最高~」


男子3人並んで浸かる。竹の柵の先に山々が見えた。温泉成分の湯気が綺麗な空気と一緒に肺に入ってくる。


運転で強ばった身体に効きまくる。これは、完封された・・



で、翌日のバッティングセンター。


「学校で渡してくれていいのに」


「いやぁ」


温泉施設で『柿まんじゅう』を多岐川家と叔父さんの家用に皆で買っていた。


今日は俺以外に寿田君だけだ。寿田君はすでに打席に入っていた。


変な間になった。


お婆さんはホットスナックの売店に珍しく列ができて忙しそう。他のベテランの従業員の方がフォローに入ってる。


多岐川さんは最近たまに息抜きしてたタブレット漫画を完全によして、受験対策に専念しているようだ。


「私はね、柿饅頭2箱もらう程のモノじゃないだよ・・」


なぬ?


「多岐川さん。柿饅頭は1箱900円だ。1箱1200円の『ザクロチョコ饅頭』は仰々しいって皆で話して、これ。海水浴の時も、お世話になったし、俺の場合は東京でカズ兄さんにお世話になったし・・その、『多岐川ファミリー』に!」


「多岐川ファミリー」


苦笑した多岐川さんはスマホを操作して画面を見せてきた。ん?


旅行写真? かな? 小京都的な背景で撮られた、中学生くらいのちょっと生意気そうな女子の画像だった。


「3年くらい前に父が再婚した時に来た連れ子。義理の妹。今中三なんだけど、私にだけすんごい反抗してくるの。反抗期のエネルギーを全部っ、私に来てる」


確かに、細身だけど攻撃力高そうな子ではあった。


「私、新しい母親とは別に普通にしてるのに、それも気に入らないみたいで、だからここに入り浸ってるだけ。もなかにもいい顔してるけど、へなちょこなんだ。他にも、色々さ・・」


萎れたみたいになる多岐川さん。


どう答えたら正解だ? 野球になかった要素。俺なりに頭を捻った。


「なんていうか。皆も、俺も、そういう気分がどっかあって、ここに来てる気はする。それで思うんだ。多岐川さん、今日もいるかな? て」


「大袈裟だから」


多岐川さんは柿饅頭2箱を抱えてうつ向いてしまった。


「・・お茶に、合うから」


なんだそのコメント? と自分にガッカリしつつ俺は受付を離れ、1ゲームを終えて、寿田君とロビーに戻ると、ベテランの従業員の方が受付にいた。


それからしばらく多岐川さんは学校には来てもバッティングセンターの受付にいなかった。


が、俺が専門学校に合格し、もなかさんが『ナナがバッティングセンター来ないなら、学校休む!』とゴネだすと、ある日、知らん顔で受付に座りだし、


「卒業したらもういないから。わかってる? もなか」


と、もなかさんに警告して泣きべそかかせたりしていた。



・・・珍しくバッティングセンター部の5人で図書館での勉強会(俺は専門学校の予習)をした帰りの車中で、最近機嫌の悪いもなかさんが自分の代わりにCGキャラに歌わせてスマホを鳴らしていた。



──────



ah・・


星が1つ 回って1つ 次に来るのは400年!


凍える銀河を渡る 煌めくのは砕けたガス 漂って


引き寄せられて 膨張してく 軌道を忘れない


星が1つ 回って1つ 次に来るのは400年!


尾を引いて ah・・



──────



11月中旬。車外はすっかり冷えていて、名残惜しいような季節だった。

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