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海! 太陽! 砂浜! そして~・・
水着だぁーっっ!!!
「うわっ、オーバーグラスしないと照り返しで目、持ってかれるね」
多岐川さんはワンピースタイプでライン取りはそこそこ攻めてるけどパレオを巻き、パーカーも羽織っていた。
「人多いな~、酔いそう。いつかプライベートビーチを買えるマネーをっっ」
大きな浮き輪を装備したもなかさんは昔風の競泳水着だった。うん、まぁ、機能的。
「おーっ、混んでますね!」
稲葉さんっ、ビキニタイプを着てしまってる。なんてこった! 3ベースヒットっっっ!!!
ちなみに男子3人とカズ兄さんは普通に全員ハーフパンツタイプ。
俺はゴーグル装備。古幡は水泳用膝サポーター装備。寿田君は手拭い装備(なんで?)、腹筋バキバキなカズ兄さんはビーチシャツを羽織って装備!
多岐川さんの叔父さんは、奥さんとカズ兄さんの歳の離れた弟君とパラソル等を設置中。
お婆さんは『海の日差しは敵わないよ』と友達と山の避暑地に出掛けたそうだ。
「カズはナンパ避けだ! フラフラすんなよ?」
「わかったよっ」
叔父さんの直球な警告に苦笑するカズ兄さん。
「俺らの分のパラソルを」
「いいっていいって! 中矢君達は遊んできなっ。『めんどくさがり』な菜々美ちゃんが海まで来るなんて一大事だからっ!」
「叔父さんヒドいっ!」
「じゃあ・・お願いします!」
申し訳ない。
「中矢君、『ナナちゃん』、父さん達ああいう作業するの好きだから、皆で海行っちゃおう!」
「あ、はい」
ナナちゃんか・・うむ。
俺達は改めて海へと繰り出した!
「うおーっ、古幡、ナマコ送球するぜっ」
「いやナマコが可哀相だからっ、やめなって! 水鉄砲とか持ってきてるからっっ」
「も、もなか、オレ、う、腕に筋肉ついてきた」
「ふーん?『ぷよぷよ』から『ぼよぼよ』になったな」
「あばばっ? オーバーグラスと眼鏡の間に海水がっっ」
「身体が、浮く・・海水、いいなぁ・・」
「あ! ちょっと、もなかちゃん流されてるからっっ、ナナちゃん掴まえてっ、行くからっ!」
「俺も行きますっ!」
ずっと浮き輪で浮かんでるもなかさんを3人掛かりでレスキューしたりつつ、一通り海に入って遊び、浜に上がった。
こっからカズ兄さんの弟君も加わって海の家で腹ごしらえ。ビーチボールでトスリレー。多岐川さんの叔父さんと奥さんも加わってスイカ割り。なんかを楽しんだ。
「はぁー、帰宅部の限界運動量越えたよ!」
「同じ帰宅部でもあたしはまだ動ける。ナナ、貧弱っ」
「なぁに、この和菓子ちゃんはさっ」
多岐川さんが抱込むとともなかさんは「人攫いだ!」とはしゃいでる。
この2人、ほぼ姉妹だな。ま、それはそれとして、
「叔父さん、パラソルなんかの片付け俺らでやりますっ」
「お? そうか? じゃ、カズも手伝えよ。これ、車の鍵な」
「はいよ」
叔父さん夫妻と弟君は先に民宿に戻ってもらい、パラソルやビーチチェアなんかはバタバタ片付け、多岐川さんの叔父さんの家の方の四駆車に積み終えた。
「よしっ。古幡と稲葉さんは膝と腰、大丈夫?」
「ちょっとはしゃぎ過ぎたね。2~3日大人しくしとくよ」
「大丈夫かよ・・」
「へへ」
「私は塩水に浸かったらなんだか腰の調子良くなった気がしますっ」
「そっか、よかったね」
「はいっ!」
うん。稲葉さん、100点の笑顔だ。良かった。
「きょ、今日はチートデイなので、よ、夜のピザ、楽しみですねっ!」
「だな~」
海鮮御膳の後、窯焼きピザを食べて締めるという悪魔的コースなのだっ!
男風呂から上がって、全員浴衣で、俺とカズ兄さんはもなかさんじゃないけど、弟君を挟んで腕にブラ提がらせて「うぇーいっ」と持ち上げてきゃっきゃっ言わせてやりながら、民宿の廊下を歩いていた。
と、共有の居間スペースの縁側に1人、浴衣の多岐川さんが団扇を持って座ってる。
オーバーグラスはしてないが、掛け易いように学校で使ってる細縁眼鏡のままだ。
豚の容器の蚊取り線香を焚いていた。
(そりゃ古幡がファンになるわ)
しみじみ思う。古幡も見惚れていた。
「ナナちゃん早いね」
「お風呂で日焼けが沁みちゃって、もうっっ」
涙目の見返り美人さんだった。
夕食、第一段の海鮮御膳は調理法は素朴だったけど、その鮮度は俺史上最高っ!! 他の皆と一緒に大感動しちまった。
刺身や海鮮焼きも勿論美味いんだけど、『煮魚』と『煮た貝』がっ! 鮮度の暴力でめちゃくちゃ美味しいだよっ。なんなら付け合わせのワカメとかも『これにわさび醤油で一膳イケる!』レベルだからさ。
海辺の海鮮は基本、オーバーキル! これを思い知った。バイト代、頑張って貯めてよかったぜ・・
そしてラスボス。民宿の庭に唐突に、ド~ン! と設置されたわりと新しい窯で焼かれる薄めの生地のピザっ!
「はーい、出しまーす」
元保険会社勤務だったという当代民宿主人の方が、焼き立ての『海鮮ピザ』『マルガリータ』『地野菜のピザ』をピザピール(槍みたいなヘラ)でサッサッと取り出して外のテーブルに並べてくと歓声!
こりゃ美味い、カリカリもちふわっ、香ばし濃厚っ、熱々!!
「お、オレは・・もう、こ、ここで終わってもいい・・・」
『チート状態』の寿田君、感涙!
追い討ちで出された『主人渾身の地フルーツジェラート』で寿田君は完全に昇天してしまったさ・・
食事の後、叔父さん夫婦は本格的に『飲み』に入ったけど、俺達とカズ兄さんと弟君は宿から許可された庭のスペースで花火をする運びになった。
古幡、もなかさん、寿田君、弟君は4人でじゃれて花火をしていた。
多岐川さんはカズ兄さんと線香花火。多岐川さんの、熱のある表情・・見たことない。
「・・・」
「嫉妬、ですか?」
「え?」
夜風に伸びた髪がなびいて、横に稲葉さんがいた。稲葉さんの匂いがした。
「いや別にっ。従兄弟だし」
「・・この花火、綺麗ですよ?」
稲葉さんは自分の花火に火を点けた。
それは青い火で彗星みたいだった。
・・・翌日、朝一でカズ兄さんの彼女さんが軽自動車で東京から来て、カズ兄さんは、
「じゃ! 帰りの車、気を付けて」
と言って運転を彼女さんと代わって、座席を念入りに調整し直すとあっさり去ってしまった。
数日、観光しながら東京に帰るらしい。
帰りのバッティングセンターのワゴンは叔父さんの奥さんが運転してくれることになった。
最初はもなかさんが、例の鯱の歌、を歌って盛り上がっていた。
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強欲 食欲 噛みつき欲 欲欲欲欲欲欲欲欲欲欲っっ!!!
お前の足から食べてやろう お前のお尻から食べてやろう
ガブガブガブっっ!!!
おーたーめーごかしは おしまいだぁーーーーーーーっっっ!!!!!
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もなかさんが疲れて眠ると奥さん以外は次々眠ってゆく。
稲葉さんはタオルケットで、固めに自分を包んで眠っている。
助手席の多岐川さんも椅子を倒してクッションを枕に眠りだした。
眼鏡はケースに入れ、バッティングセンターのオリジナルキャップを深く被っている。
その右目から、眠りながら涙が一筋零れるのを俺は見ていた。
ただの夢かもしれない。それとも、